※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

素材マッピング執筆法



倉下忠憲さて、困りました。

『知的生産の技術』には、「こざね法」が紹介されています。紙とホッチキスを使った執筆補助法です。


書きたいことを1つひとつ小さな紙片に書きつけ、それをいろいろ並び替えてうまい「流れ方」を見つけ出し、ある程度のかたまりができたらそれをホッチキスで留める。そのようなかたまりがいくつかできたら、今度はそれらを睨みながらかたまり同士の「流れ方」を考える。

以上のような手法なのですが、これはできるだけ「楽」に文章を書くための方法論でもあります。

なぜ、こうすれば「楽」に文章が書けるようになるのか。

それについては実際にちょっとやってみましょう。

いかにして「こざね」で文章を書くのか?

テーマは、「いかにして「こざね」で文章を書くのか?」についてとします。使うのは紙片ではなく、中サイズ・強粘着の付箋です。



まず、中心となるテーマを付箋に書き入れます。でもって、それを読みます。じ~っと読んでいると、何かしら浮かび上がってくることがあるでしょう。それを再び付箋に書き留めます。



「こざね」とは何か? 必要そうな説明です。そしてこの付箋もじーっと眺めます。



すると、出典となる本の名前が浮かんできました。これは説明に添えておいた方が良い情報でしょう。情報に関連性があるので、付箋の中に矢印を書き加えておきます。

さらに、「本のタイトル」つながりで、別の本の名前も浮かんできました。この時点ではどのように利用できるかはわかりませんが、とりあえずそれも書き留めておきます。



さて、「こざね」の概要はこれでひとまずOKとしたら、次に何を書けばいいでしょうか。おそらく「進め方のコツ」のようなものがあった方が親切でしょう。なにしろ実際に試してみる人が出てくるかもしれませんからね。

そこで「う~ん」と考えていると、ようするにこの手法の最大のポイントは「材料集めと関係性の把握」を分離しながらも連続的に進めている点にあることに思い至りました。普通、そらで文章を書くときは、「何を書くか」と「どう書くか」を同時に考えてしまうものですが、それを一気にやろうとすると、脳内がメモリオーバーのような状況になってしまいます。それを、「紙に書き出す」ことと「それを並べ換える」という二つのプロセスに分離することで、脳内の思考プロセスも分離してしまう。それが「こざね」方の要です。ここは是非とも押さえておきたいところですね。



ここまできたら、次は「あとは実際にやってみる」工程を入れておくとよりわかりやすいでしょう。いわゆる「実践例」というやつです。でもって、紙片とホッチキスではなく、付箋でそれをやることにしましょう。さらに、先ほど押さえた手法のポイントさえ押さえておけば、別段アナログツールにこだわる必要もありません。アウトライナーでも同種のことが実現できます。

ここで、最初の方に思い浮かんだ本のタイトルがうまく使えそうです。



これでやれやれ大円団というところで、一つの思いつきが浮かんできました。

「この付箋はこざね法だろうか?」

よ~~~~~く考えてみると、上記のような手法は、「こざね」法と似てはいるものの、細部は異なっています。別の言い方をすれば、「材料集めと関係性の把握」の分類というポイントは共通していても、細部の実装法は異なっています。私は上記のようなやり方を愛用していて、自分の中では「こざね」法だと思っていたのですが、こうして比較してみると似て非なるものだったことがわかりました。

とりあえずこれを、「こざね」法と区別するために、「素材マッピング執筆法」と呼ぶことにしましょう。

さいごに

冒頭の、「さて、困りました」は、このことでした。

当初は、「いかにして「こざね」で文章を書くのか?」というお題にして、その実践例を文章内で紹介しようという段取りだったのですが、アイデア出しをしているうちに、結論がぐるりと変わってしまったわけです。

でもまあ、これが文章を書く楽しさではありますね。

普段なら、当初の予定からまるっきりズレてしまったことなど清々しく無視して、あたかもはじめから「素材マッピング執筆法」について考えていましたよ、という体で文章を書き直すのですが、今回は生々しい感じでそのズレを表に出してみることにしました。

どういう形にせよ、私はこの執筆の過程で一つの新しい発見がありましたし、それこそが「執筆」なのではないかと感じています。

▼今週の一冊:

執筆の「ままならさ」ついては、以下の電子雑誌でも書きました。「執筆の現象学」という文章です。よろしければご一読くださいませ。


▼編集後記:
倉下忠憲



少しずつ仕事を平常モードに戻そうと頑張っております。たぶんここでは「少しずつ」が大切なのでしょう。一気にやろうとすると、またぶり返しそうな予感があります。とは言え、ツイートの回数なんかは元に戻ってきました。良いことなのかどうかはわかりませんが。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。