ベッドに入ったのに暗闇の中でちっとも眠りに落ちることができないことがある。
そんなときは漂う不安にとりあえずのピリオドを打つことにしている。
書くことに喩えれば、
書き始めてしまった文章はそのままにせず、とりあえずの述語をあてておく。自分でしっくりくるものが思いつけない時は結局それが自分のちからの限界なのだから、仕方がない。何もせずにおいておくくらいならしっくりこなくてもその時に自分が出しうる最高の答えを出しておく。そうすれば次の機会にそこから再開できる。
読むことなら、
本を読み始めて、その本が自分にはとても読み続けることができないものだとわかったら、その時点でその本から得られたことをページの余白に書き記し、栞(しおり)を挟んでおく。痕跡を残しておけば、それが次回のガイド(guide; 道しるべ)になる。
“足跡”を刻んでおけば、その本の存在は思考の網の目のどこかにリンクされ、時の風化をまぬがれる。そしてしかるべき時期が来たときに再び姿を現す。
その日に感じたことや思いついたこと、ずっと考えていたことが収斂(しゅうれん)を見たときなどを、そのまま不安定な短期記憶空間に漂わせておくのではなく、仮の形でもいいから外部記憶領域にピン留めしておく。結果、短期記憶空間はブランクになり、居場所を得た着想たちとともに気持ちよく眠りに落ちることができる。