前回のエントリーで、文章の書き出しに使える「脱兎文」と「龍頭文」の二つを紹介しました。
これらを「つかみ」にして読者の気持ちを文章に引き寄せるという手法は、もちろんBlogでも使えます。これは、RSSリーダーで流し読みしている人を掴まえるという目的だけではありません。
その文章に何が書かれているのだろうかと興味を持ってもらうことは、書いてあることを理解してもらう上でも重要です。
突然誰かに話しかけられると、声は耳に届いているけれども、「何を言っているのか」が分からない時があります。注意がそちらを向いていないと、脳がうまく解釈してくれないわけです。簡単に言えば「聴く準備が出来ていない」ということでしょう。
「書き出し」部分で、読者の気持ちを惹きつけるのは、文章に注意を払ってもらうことにつながります。つまり「読む準備」を整える役割です。
なんであれ、「書き出し」には役割があります。これはブログ記事についても同様です。特にある程度まとまった分量の文章を書くブログの場合であれば、顕著でしょう。
今回は、このブログの書き出しの「型」について考えてみます。
状況説明型
もっとも、わかりやすいのがこの「状況説明型」です。
自分がそのエントリーを書こうと思ったきっかけを説明するところから入ります。HowToエントリーならば、自分が具体的に困ったシチュエーションの紹介から入ります。同じ状況で困っている人ならば、すぐに惹きつけられるでしょう。
書評エントリーならば、なぜその本を手に取ったのかを紹介する部分からはじめることもできます。イベントのレビューであれば、なぜそのイベントに参加しようと思ったのか、あたりが状況説明になるでしょう。
一般的なネタであれば、ニュース記事の引用や「こういう話をよく聞きます」みたいな文章から始めてみるパターンもよく見かけます。自分の考えを書くようなエントリーの場合、そのきっかけとなった疑問を紹介するというのも一つの手段です。
この「状況説明型」は、なかなか汎用性があります。ブログは誰かに命令されて更新するものではないので__ですよね__、そのエントリーを書こうと思ったきっかけが何かあるはずです。書き出しに困ったときは、とりあえずその「きっかけ」について書いてみるというのが一つの手法です。
結論提示型
これは、前回のエントリーで「脱兎文」として紹介したものです。最初に結論を書いてしまうというパターン。
書評であれば、一番盛り上がった部分やトータルの感想を先に書いてしまう。イベントなどのレビューでも同様です。論述系のエントリーならば、考えて出た結論を頭に持ってくるタイプになります。
あるいは「提案系」もここに分類されるでしょう。「週に一回は週次レビューしましょう」と書いてから、その理由を解説していくというタイプです。
形自体は難しいものではありません。ネットの記事を見回していればこの形を取っているものも多く見つかります。ただ、結論それ自体にインパクトがないと、注目を集めにくいという点は考慮しておいた方が良いでしょう。
たとえば、「健康には早寝早起きが一番だ」みたいな書き出しでは、「うん、まあそうだろな」ぐらいの興味しか生まれてきません。
※実際、科学的にこれが正しいのかはわかりませんが。
奇抜なことを書けばよいというわけではありませんが、結論を先に持ってくるタイプはやや扱いが難しいと言えるでしょう。慣れている人は、とてもうまい「結論提示型」の書き出しをされます。有名なブロガーの記事をいろいろ読み漁ると、「お手本」が見つかるかもしれません。
関連示唆型
最後の一つが、関連示唆型。
このシゴタノ!では、金曜日の北さんの連載がこのタイプになっています。序盤で記事本文に関係するショート・ストーリーを提示して、その後の本文につなげるという形。ちまたの噂では、どちらが記事の本文なのか分からないという話ですが(もちろん、冗談です)、「書き出し」部分になっているのはショート・ストーリーです。
関係がありそうな本の引用や、誰かの会話などを持ってくるのもこのパターンに入ります。「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉がありますが…、みたいに始めるのもこのタイプ。うまく書ければ、「書き出し」が伏線となって文章の結論でうまくまとまる、的な展開もできます。
文章的には「凝った構成」と言えるでしょう。その分、簡単に書けるとは言い難いタイプです。ある程度の引き出しや、想像力が必要になってきます。
さいごに
今回紹介したのは、あくまで基本的な形です。これの複合系も考えられますし、まったく違う手法もまだまだ沢山あります。
それを考えるのが文章を書く楽しみの一つと言えるかもしれません。
一度こういう視点を持ってくると、他の人の文章の書き出しも目に付くようになってきます。必然的に、それは自分の引き出しを増やすことにもつながります。
ともあれ、基本的な形を知っておくのは何かと便利です。いろいろと混乱してきたら、一度基本的な形に戻ってみるのがよいでしょう。
▼関連エントリー:
▼今週の一冊:
人が「知性」と呼んでいるものは一体何なんだろうか、というなかなか大きなテーマです。「知性」と呼ばれているものがどのような機能を持っているのかについて、心理学・脳科学・人工知能開発などさまざまな分野の知見から迫っていきます。
本書で「知性」について全て解き明かしているとはいえませんが、それでもそのメカニズムや限界については十分知ることができます。灯台もと暗しという言葉がありますが、私たち自身の脳について、私たちはほとんど何も知らない状況です。それでも、毎日生活できているのだから、これは驚嘆と言えるかもしれません。
脳の機能、知性、あるいは注意の選択といったテーマに興味のある方は、面白く読めるのではないかと思います。
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しばらくノドを痛めていて、しかもセキがなかなか止まらなかったので、困難な日々を送っていました。セキが止まらないとなかなか寝付けないんですよね。だからといって原稿を書くという気分にもなりませんし・・・。ぼちぼち体調が戻ってきたので、原稿モードに復帰です。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。