- 昔々あるところに…
- みなさんはこんな事態で困ったことはありませんか
- ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき
上の3つは一体なんでしょうか。
簡単すぎてクイズにもなっていませんが、答えは文章の「書きだし」です。
文章を「お食事処」にたとえるならば、タイトルは「看板」に、書きだしは「店外のサンプル」や「メニュー」になるでしょう。あるいは鰻屋のけむりにあたるかもしれません。
なんにせよ、その部分で興味を持ってもらい、店内に足を一歩踏み入れたところで「いらっしゃいませ」となるわけです。いくら料理の味が良くても、店内に足を踏み入れてもらえなければ、商売は始まりません。文章も同様で、読んでもらえなければ、示唆に富む文章であろうと、説得力満タンの文章であろうと、共感溢れる文章であろうと、それが効果を発揮することはありません。
「一見さんお断り」方針ならば話は別ですが、そうでなければ「書きだし」部分には気を遣いたいところです。
今回は、この「書きだし」について少し考えてみます。
「型」を知る
さまざまな文書を眺めていると、書き出しにもいくつかの「型」を発見することができます。それは、著者の文体や、書く媒体、あるいは想定読者によっても、適切な「型」があるからでしょう。
この型のバリエーションについては次回にまとめるとして、今回は、取っつきやすい二つの「型」を紹介しておきます。
一つは「脱兎文」で、もう一つは「龍頭文」。これは野口悠紀雄氏の『「超」文章法』に紹介されています。
脱兎文
「脱兎のごとく駆け抜ける」という表現がありますが、最近の「読者の関心」というものも、これに近いものでしょう。
大量の情報が流れ込んでくるなかで、読者は全てを取り込むのではなくある程度の「フィルター」を働かせてインプットを行うのが一般的です。
そういう急ぎの読者さんのために、頭の部分にいきなり結論を持ってくるというのが、脱兎文です。
最初に結論だけ書いておき、あとからそれを解説していくという流れです。
※「~~には○○がよい」→「なぜよいか」
実際の書き方としては、いきなり結論から着手し、その理由を説明するように文章を続けていくストレートな方法もあります。また普通の流れで文章を書いてから、出てきた結論を頭に持ってきて全体を調整し直すという手法もありです。
どちらにせよ、複雑な技術は特に必要ありませんので、すぐにでも使えます。
龍頭文
二つ目が「龍頭文」です。龍の頭のように、インパクトある印象深い文章を頭に持ってくるというスタイルです。
その文章で、読者に「これはなんのことだろうか?」「これから何が始まるんだろうか?」と思わせて、読者を引き込むというのが狙いです。
書籍の中には、文学や詩からの引用を文章の頭に持ってきているものも多くあります。あるいは全然関係ない日常風景を描写したり、逆に非日常的な空想から始めたりと、方法は多彩ですが、どれも気を惹きつける工夫が散りばめられています。
ちなみに最初に上げた書き出しの例の3つめは、カフカの『変身』からの引用です。
実際の文章はこう続きます。
「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変わっているのを発見した」
これはやはり続きが気になる所です。『「超」文章法』で野口氏が書かれたように、
この文章を読んでつぎに読み進まない人がいるとしたら、そういう人には、どんな書き出しをしたところで、無駄である。
と私は極端なことは言えませんが、印象的な文章が持つ力というのは大きいということは確かでしょう。
自分で印象的な文章が書けなくても、引用などを頭に持ってくれば、それなりに「効果」を発揮してくれます。哲学者や小説の言葉に限らず、マンガやアニメのセリフでも引用として使えるでしょう。
※ブログでは、これを一歩進めて印象的な画像を頭に持ってくるという方法もあります。
さいごに
今回は、脱兎文と龍頭文という二つの「書きだし」の型を紹介してみました。
必ずこの通りに書かなければならないというものではありません。あくまでバリエーションの一つです。もし、自分で書いた文章を読み返して平淡に感じるときは、こういう工夫を取り入れてみるのもありかもしれません。
次回は、ブログの「書きだし」のバリエーションについて考えてみたいと思います。
▼参考文献:
文章の基本的な骨組み作りと、その化粧法について。それぞれ大まかではあるが、基本的な事柄は押さえられている一冊です。
▼今週の一冊:
今週読んだというわけではないですが、記事で紹介するにあたってちらほらと読み返していました。
小説についてやいやい書いても仕方がないんで、興味があったら読んでみてください、とだけ書いておきます。
Follow @rashita2
これが公開されるころは、すでに帰っていますが、今は東京でこの原稿を書いています。どこでも仕事ができるというのは、やはり良いですね。その代わり旅行しているような気分は一切ありませんが(ホテル内にて)
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。