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知的作用の基礎 | Aliice pentagram

倉下忠憲

» 前回:知的作用とは | Aliice pentagram | シゴタノ!



前回は、「知的作用」という言葉を立ち上げました。今回はその中身に分け入ってみます。

あたまに浮かぶさまざま

知的生産活動で発生する「頭をはたらかせる」行為が「知的作用」なわけですが、それを具体的に掘り下げ、分類したものが実はもう存在しています。松岡正剛さんの『知の編集工学』で紹介されている編集64技法がそれです。

» 知の編集工学 (朝日文庫)


ここでそれを引用してもいいのですが、網羅的すぎて取っつきにくさも感じますのでそれは上級編としておいて、ここではより簡易な(あるいは入門的な)知的作用についてのみ考えてみましょう。

「知的作用」という言葉は、いかにも大げさな響きがありますが、実際のところそもそも私たち人間は「知的生命体」なわけで、その脳内の活動の多くは意識しようがしまいが「知的」ではあるのです。あたまに浮かぶさまざまなことが「知的作用」を持っているとも言えます。だから、あまり身構える必要はありません。ごく身近な「あたまのはたらき」が、もう立派に知的作用です。

知的作用の五要素

入門的、あるいは基礎的な知的作用には、以下の五つがあります。

  • 疑問を持つこと
  • 観察すること
  • 言葉を定義すること
  • 関連づけを行うこと
  • 要素を入れ替えること

それぞれみていきましょう。

疑問を持つこと

「?」

疑問を感じることも、知的作用の一部です。むしろ、それが根源だと言えるかもしれません。問題発見の瞬間であり、答えを求める気持ちのスタートでもあります。これがなければ、どのような知的活動も始まることはないでしょう。知的生産のコアとなるのが、この「疑問を持つ」という知的作用です。

「疑問を持つ」は理性寄りの表現ですが、感覚寄りに言い直せば「違和感を持つ」とも言えます。片方は意識、もう片方は無意識の領域と言ってもよいでしょう。どちらであっても、知的作用であることには変わりありません。大切にしたいものです。

観察すること

「見ることは識ることである」

という言葉を誰かが残したのかは知りませんが、見ないことにはインプットは始まりません。そして同じ対象であっても、見る人によってそこから何を得るのか、どのように感じるのかが違っている以上、観察することもまた個々人が持つ知的作用の一部だと捉えられます。

このカテゴリには、「分析する」「要素に還元する」といった行為も含まれます。あるいは「成り行きを見守ること」「フィールドワークすること」も同様です。これらもまた大切な知的作用です。

言葉を定義すること

すでに存在している言葉の定義をはっきりさせること。新しい意味を与えること。そして、新しい言葉を作ること。これらも知的作用であり、この作用から生まれた知的成果物は枚挙にいとまがないでしょう。難しく言えば、概念操作の一部です。

既存の言葉に疑問を持ち、そこにある実際の現象を観察した上で、適切な言葉を定義すること。ここまで出てきた三つの要素はうまく連携して、知的生産活動を織りなします。

関連づけを行うこと

一般的に「展開」と呼べる行為です。

近しいものを集めたり、グルーピングを行ったり、分類することがここに含まれます。昔の知的生産活動で、カードを用いて行われていたのが、この知的作用だと言ってよいでしょう。

テーマを持ち、文献を読み漁りながら、「このテーマに関係するものは何だろうか」と必要な資料を拾い上げていったり、あるいはすでに保存してある資料を閲覧しながら、「これらを関連づけるテーマとは何だろうか」と考えること。そのようにして「考え」というものは大きく広がっていきます。

要素を入れ替えること

いわゆる「発想法」が担当するのがこのカテゴリです。

「既存の要素の新しい組み合わせ」はわかりやすい入れ替え作業の一例でしょう。そこにあるものを、別のものと取り替えた状況を想像してみることで、新しい着想が引き出されていきます。

比喩を用いて思索を広げていくこと、純粋な思考実験や仮説、水平思考などがここに入ります。

さいごに

今回は、知的作用の基礎的な五要素について簡単に紹介してみました。

基本的に、知的生産におけるメモは、こうした知的作用で生じた「何か」を捉えるための行為だと考えておいて間違いありません。それ以外のメモもありえますが、大切なのはこちらの方です。

次回からは、それぞれの要素についてもう一歩踏み込んで考えていくことにしましょう。

▼今週の一冊:

知的生産の五芒星のうち、一番扱いにくいのがこの「知的作用」です。その多くは無意識の力を意識が利用するものが多く__意識的に閃くのは難しいですよね__、直接的に成果を制御することができません。その辺の限界性については理解しておく必要があるでしょう。

で、以前も紹介しましたが(42個もの発想技法を手にする一冊:『アイデア大全』)、読書猿さんの以下の本は、知的作用についてもたいへん学べる一冊です。そう遠くないうちに電子書籍版も発売されるそうなので、電書ユーザーの方も期待しておきましょう。

» アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール


▼編集後記:
倉下忠憲



はい、三月です。まだちまちまとリライトを続けております。シジフォスの呪いくらい延々と作業は続きます。ときどき何をどうして良いのかわからなくなることがあります。新しい領域に踏み出している、ということなのでしょう。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


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