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表現制御について | Aliice pentagram

倉下忠憲

» 前回:概念(コンセプト)の作り方・整え方 | Aliice pentagram



前回までで、知的生産の五芒星における「情報摂取」「記録管理」「知的作用」「概念構築」の4つが紹介できました。今回は5つ目の「表現制御」です。

プロセス的に言えば、いよいよ最終段階であり、細かい話も多いのですが、〈生産〉としては欠かせない要素でもあります。

わかるかたちで

知的生産という行為は、「頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら──情報──を、ひとにわかるかたちで提出すること」であり、その「ひとにわかるかたち」に整えるのが、前回の「概念構築」の一つの役割でした。

バラバラに思いついたことを、そのまま書き並べても、読んだ人にとっては「結局何がいいたいの?」ということになりがちです。全体を串刺す、一つの大きな串を見出すことが必要となります。それを「概念構築」では行いました。

が、それだけでは十分ではありません。概念構築が主に〈内容〉を整えたのだとしたら、〈形式〉あるいは〈表現〉を整えるのが表現制御です。

いかに伝えるか

まったく同じことを伝えるにしても、どのように伝えるのかには選択肢があります。

たとえば、時系列に並べることもできるでしょうし、サイズ順やアルファベット順というのもあります。なんなら起承転結に整えてもいいかもしれません。

他にも子どもさんに向けて語りかけるような口調を使ったり、大学の講義風にキビキビ話を進めることもできます。文章で言えば、常体を使うのか、敬体を使うのかも選択です。

同一の〈内容〉を伝えるにしても、〈形式〉や〈表現〉はさまざまあり、それぞれにおいて受け手の受け取り方は違ってくるでしょう。つまり、「ひとにわかるかたち」かどうかが変わってくる、ということです。

たいへん素晴らしい〈内容〉を構築できたとしても、〈形式〉や〈表現〉によっては、それがうまく他の人の手に(というか頭に)わたらないことがあります。知的生産の定義的に言えば、うまく「提出」できない、ということです。これは大きな問題でしょう。だからこそ、〈表現制御〉が必要となります。

呼応する作業

この〈表現制御〉は、小さいレベルで言えば、「わかりやすい文章を書く」という作文技術の話になりますし、大きいレベルで言えば、「伝わりやすい構成にする」という構成案作りの話になります。そして、大きいレベルにおいては、〈概念構築〉と密接な関係があります。

具体的に言えば、ある層に向けてわかりやすく話を並べるためにコンセプトそのものが変化することがありますし、コンセプトが形式(構成)の形を要求してくることもあります。よって、大きいレベルにおいてはこの二つは厳密に切り分けられるものではありません。あくまで内容に重きをおいたものを概念構築と呼び、形式や表現に重きをおいたものを表現制御と便宜的に呼んでいるだけです。

この点を踏まえておかないと、概念が構築できたから、あとは形式を考えるだけ、という風にプロセスを断絶してしまうことになります。しかし、実際は概念構築と表現制御(の大きいレベル)は〈行ったり来たり〉するものです。形式や表現によって概念に変化が生じ、また概念が固まることによって形式も決まってくる、というような関係があることだけは頭にとめておきましょう。

あえて切り分ける

ではなぜ、概念構築と表現制御を切り分けてあるのかというと、一つには表現制御においては受け手(文章で言えば読者)の存在が強く影響してくるからです。概念構築は、自分の頭の中だけでダンスが踊れますが、表現制御の段階においては受け手のことを意識しなければいけません。むしろ、一方で自分の頭の中で考えたことを扱い、もう一方でそれを受け手がどう受け取るのかを扱わなければいけません。なかなかハードな作業なのです。

だからこそ、この二つを切り分けているのです。両方のことを一気に、同時にやろうとすると脳がオーバーヒートしてしまうでしょう。最終的に行う作業がまったく同じでも、一気に同時にやろうとするよりも、一つずつ片付けていくほうが精神的にも認知資源的にも負荷は小さくなりそうです。

そのため、内容について考えるプロセスと、形式・表現について考えるプロセスをあえて分離させて、それを意識的に〈行ったり来たり〉するアプローチが有効となります。

さいごに

今回は、知的生産の五芒星の最後の要素である「表現制御」を紹介しました。

実は、この話はなかなか説明が難しいものがあります。なぜなら、(工学的に言えば)インターフェイスの設計の話だからです。つまり、接する相手ありきの部分がたくさんあるわけです。一般的にこうすればよい、と唯一の何かを提出することはできません。

とは言え、ある程度技術的な要素もありますから、それについてはまた次回紹介してみることにしましょう。

▼今週の一冊:

たまにはSF小説でも。『メッセージ』という映画の原作が収録された短編集。とりあえずまあ、すげーのでぜひお読みください。表題作は圧巻です。

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▼編集後記:
倉下忠憲



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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。