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「今日一日で終わらせる」ツール

佐々木正悟 大橋さんが作ったタスクシュートを使っているという話をセミナーなどですると、あとで必ず「あそこまでできたら良さそうだけど、時間に縛られる感じがして、とても自分にはできない」という感想をよく聞きます。

時間に縛られる感じがするのは、誰も好むところではないでしょうから、そうした方に無理におすすめすることはないのですが、私はタスクシュートを使っていて、そんな「縛られ感」を感じていません。ですから、そうした感想を持たれないためには、どうお伝えしたらいいのか、時々考えます。

予定表とタスクシュート

まずよく指摘される誤解として、タスクシュートが「予定管理ソフト」だと思われてしまうことがあります。確かにタスクと開始時間、終了時間が並んでいるため、そのように見えてしまっても不思議ではありません。

しかし、基本的にタスクシュートはタスク管理ソフトであって、予定管理ソフトとは違います。その証拠に、タスクシュートには開始時刻と終了時刻を、作業開始時点と、作業終了時点で入力します。

普通の予定表であれば、何時に仕事を開始し、何時に終了する予定であるかを、作業開始以前の段階で入力するでしょう。タスクシュートは、そういう仕様になっていません。このソフトで計測する時間というのは、あくまでも「この仕事には何時間(何十分)必要か?」という、かかる時間の見積もりだけなのです。

私は先日ベクターで、パワフル・プランナー Personal Editionというソフトを見つけ、これはタスクシュートの代わりにならないだろうか?と思ったことがあります。しかし、そうは行かないことを知りました。そのとき、予定表とタスクシュートは根本的に違うものだということを理解したのです。


タスクシュートではお金のように時間を扱う

最も重要な違いは、予定表はタスクと時間をアジェンダのように、つまり空間を区切るようにして管理するわけです。簡単に書くと、次のようになります。

09:30-10:00 あすなろを書く
10:00-10:10 休憩
10:10-11:00 執筆校正
11:00-11:15 休憩
11:15-12:00 メールチェック
12:00-12:45 昼食

私は何度かこうしたやり方を実行しようと繰り返してみたのですが、うまくいったことが一度もありませんでした。なぜか?

この方法では、今日一日の可処分総時間量(私の場合はほぼ16時間程度)を、どう消費すればどうなって、どう節約すればどうできるのかが、まるで見えてきません。

たとえばあすなろを書くのに30分かかることになっていますが、ここを25分で書き上げた場合、残りの5分をどうできるかの選択肢が、全くとぼしいのです。おそらくせいぜい、次の10分の休憩に5分を足すだけでしょう。選択肢が1つしかありません。

タスクシュートは「今日一日の可処分総時間量」に対し、タスクごとの「必要時間量」の見積もりだけがあります。ですから、どこをどう使うとどうなるか、どこをどう節約すればどんな選択が増えるか、リアルタイムで確認しながら、シミュレーションができます。

これは時間がお金になったのとよく似ています。タスクは買いものに相当するのです。

実際、お金というメタファーで考えると、タスクシュートで「時間量」を管理しているということがよくわかります。たとえば、今月、手元にお金が10万円あるとします。その10万円のうち、2万円のガジェットを買う予定だったとします。その場合、残るお金は8万円で、ガジェットを買ってしまえば、あとは8万円でやりくりしなければなりません。

しかし、2万円のがジェットが、1万8千円で手に入れば、8万2千円が手元に残ります。これが大事な点で、全体量から消費量を差し引き、その後また全体量で考えることによって、全体の計画を常にコントロール下におくことができるわけです。

もしここで、2万円のガジェットが1万8千円で手に入ったとしても、残った2000円では飲み食いするという選択肢か選べないなどという、理不尽な事態に陥るのだったら、節約のモチベーションは大きく殺がれてしまいます。予定表で時間管理するだけのやり方は、これに近い現象にしょっちゅう見舞われるのです。

10万円のうち、7万円から8万円までは何に使う?

先ほどのアジェンダにもう一度戻ります。

09:30-10:00 あすなろを書く
10:00-10:10 休憩
10:10-11:00 執筆校正
11:00-11:15 休憩
11:15-12:00 メールチェック
12:00-12:45 昼食

この表の何よりおかしなところは、「12:00-12:45 昼食」という予定以外は、開始時刻の必然性がまったくないところです。あすなろの執筆、校正、メールチェックの順で午前中は仕事を進めることになっていますが、正反対にしてもいいはずです。ちょうど買いものに出かける前、メモに、薬局、食材、100円ショップと書いてあっても、お金がなくならなければこの順番はどう変えてもいいのと同じことです。

お金は普通、量的にしか管理しません。手元に10万円あるからといって、

00000円-10000円 携帯電話を買う
10000円-10120円 缶ジュースを買う
10120円-11880円 雑誌を買う

といった予定の立て方をする人は、見たことがありません。もちろん時系列順で記録をとっていけば、結果としてはそうなるでしょう。タスクシュートでも全く同じことです。タスクシュートでも、何時から何時までは何をしたという記録が残りますから、一日の終わりには、びっしりの予定が完了したかのように見えますが、それは結果に過ぎないのです。

確かに時間の管理には、アジェンダ式のやり方の方がわかりやすい場合もあります。それは、開始時刻と終了時刻が、あらかじめ決まっている予定の場合です。

12:00-12:45 昼食

15:00-15:45 スカイプミーティング

18:00-19:00 リアルミーティング

つまり時間の管理には、二通りの方法を併用する必要があるのです。

ひとつは、16時間のうち、あすなろ執筆に45分を使った。だから、残りは15時間15分。その時間で、残った仕事をやるという、全体量から消費量を差し引くお金の管理に似た方法。タスクシュートはこちらを担当します。

いまひとつは、人との約束などのように、アジェンダ式の管理方法。こちらをカレンダ式の予定表で管理します。

アジェンダ式のみで、抱えているあらゆるタスクを管理しようとすると、非常に無理が出てきます。というよりも、不便すぎてほとんど実行不能になります。0円から120円まではまずジュースを買う、という項目を延々書き連ねていくのと同じことになるのです。

しかし、人からの束縛を一切受けない人を除き、開始時刻が決まったタスクはひとつもない、ということはまずないので、アジェンダ式の予定管理から完全に逃れることはできません。こちらもタスクシュートで管理できないわけではありませんが、直感的にカレンダー式の方がやりやすいでしょう。

「経済心理学」のような「時間心理学」が欲しい

このように、可処分全体時間量という概念を持ち込んで、タスクの管理を考えていくと、どうしてもお金で物を買う心理にも似た、時間でタスクを処理する心理を考えたくなります。

ちょっと長くなってきたので、回を改めてこの話題には触れたいと思いますが、たとえば「現状維持バイアス」や「サンクコスト」の概念に近い心理が、「時間の使い方」でも現れてくると思います。それを明らかにしていければ、どうしてもやってしまう不合理な時間の使い方を多少は修正し、お金と同じでなにかと「不足しがち」な時間を、少しでも有利に消費する新しい方法が見つかるかもしれません。

日経ビジネス Associe (アソシエ) 2008年 7/15号 [雑誌] 日経ビジネス Associe (アソシエ) 2008年 7/15号 [雑誌]


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