前回に続いて、今回も具体的な技術をご紹介していきます。
今回は第1回でお話をした、経験が不足してしまっているのに多くの知識は持っている「インターネット耳年増」な若者に知識を活用する力を育てるための上司の技と、第3回でお話した「大人免疫力」の低い若者が少しでも早く職場に馴染み、力を発揮しやすくするための上司の技をご紹介します。
問いかけで考える力を育てる
「そんなことくらい、自分で判断しろよ」
「まずは、自分で考えてからもってこい」
若手と接しているとそう言いたくなることが多々あると思いますが、そうやって切って捨てていてはいつまでも育ちません。昔のように、自分で考えろ、と言って突き放すだけではなかなか若手に考える力が身につかなくなってきているのです。
部下から相談を受けたときに、自分の意見を言い過ぎてしまうのも逆効果です。私も上司になりたてのころは、相談を受けると部下に解を出してみせなければいけないと思い、自分の意見を話しすぎてしまっていました。その結果、部下は私を「話を聞いてくれない上司」と感じ、自分で考えることを放棄してしまいました。
若手を育てるためには思考停止している状態から、まずは自分の中で考える癖をつけてもらう必要があります。
若手に考える癖をつけてもらうには、上司は意見が言いたいのをまずは堪えて、若手に考えさせるように問いかけることが重要です。
若手が相談してきたときに
「それで、お前はどうしたいの?」
と問いかけるのです。
「お客さんに提案がなかなか通らないんです」という若手に「それで、お前はどうしたいの?」といった具合です。
このフレーズは私が育ったリクルートでよく交わされる言葉のひとつです。私自身、新入社員のころ初めてこの言葉を上司から投げかけられたときは面を食らったことを覚えています。
このフレーズで返されると自分の持っている知識を駆使して考えなければなりません。こうして毎日考えていると、自分で考える癖がついていきます。
もう一つの若手に考えさせるフレーズが
「それは何のためにやるの?」
です。
例えばマーケティング担当の若手なら、「来月、顧客調査を実施します」に、「それは何のためにやるの?」といったように返します。仕事を始めた当初はつい視野が狭くなってしまいがちです。
何のためか考えず、皆がそうしているからやらなくてはならないと思っていることもあります。そういったときにこのフレーズで、その行動の意味や、それ以外の選択肢を検討する機会を作るのです。
もちろん、これらのフレーズを乱用するのは考えものです。部下が自分で考えられるだけの状態かを見極めたうえで使う必要があります。部下に歩き方を教え、自分で歩くように促し、それを静かに見守るのが上司の役目であると思います。
職場に馴染むための組織図
職場の人間関係や自分の立場というのは若手が最初に戸惑うものの一つだと思います。
忙しそうに働いている上司や先輩は話しかけるのが難しく、あまり話したことがないため怖いと感じることすらあるでしょう。こういった状態では若手が職場に馴染み、力を発揮していくのはなかなか難しいものです。
こんな時におすすめなのが個を活かすオリジナル組織図を作ることです。上司が自分の管理する組織とその若手との関係を説明する組織図を作るのです。
ここには個々人がどんな役割を担い、どのような関係性を持ち、どんな強みを持っているのかを記入します。
所属する部署の関係だけではなく、若手が仕事の全体像を理解できるように、上層部や社外との関係なども図示したいところです。
この図を作る際に気をつける点としては、組織のモチベーションを高めるために、一緒に働く仲間は差別なく、どんな些細な仕事でも漏れは許されません。
この組織図は新しいメンバーが入ればすぐに書き換え、一人ひとりに配ったり、全員の見える位置に張り出すと効果的です。
ただ作って配るだけでは浸透しません。少なくとも年に1度以上はこの組織図を基に一人ひとりと面談を行い、仕事の意味や期待をしっかりと伝えます。メンバーから希望があればできる範囲で仕事の追加や削除も行ないます。
面談が終わり次第、全員がそろう場であらためて組織図を共有し、上司自身の言葉でチームの目標を語るのです。
日々の声かけもその組織図で明示した役割と責任を認識し続けられるようにすべきです。
こういった組織図があれば、若手も自分が任されている仕事の意味や、職場の人間関係を理解しやすくなります。
名簿で職場に縁を作る
若手が職場に馴染みやすくするためのもう一つの技は、プロフィール付き名簿の作成です。
もし職場にいつも緊張が張り詰め、少しの雑談もしづらい雰囲気が漂っていると、ただでさえ人間関係で戸惑うことの多い若手はさらに馴染み難くなってしまいます。
そんな状態では若手でなくても笑顔がなくなり、疲れてしまうでしょう。
最近の職場では、日頃から仕事上の必要最低限のコミュニケーションしかせず、同じ組織で働く者同士であってもお互いの人柄を知らないということもあるのではないでしょうか。
私は、現代の職場では自分の仕事に打ち込むだけになってしまい、同僚同士のつながりが薄れてきているように感じることがあります。こういった状態を私は「無縁職場」と言っています。この「無縁職場」ではチームワークだけでなく、個人の力すらもなかなか発揮できず、組織も衰退していくかもしれません。
こういった職場にしないためには、身近な人間を理解しあえる情報開示ツールを作ることが有効です。上司も若手も含めて、組織のメンバーの趣味や好物、学生時代の活動など、一見仕事とは関係ないプロフィールを簡単な小冊子にして部会や飲み会などで配るのです。
これによって、上司との共通の趣味や同じ出身地であることなど意外な会話の糸口が見つかるかもしれません。こういった何気ないところから若手は上司や先輩に近親感を持ち、不思議と笑顔が生まれてくるものです。また、逆に上司にとっても普段は見ることのできない若手の一面を知るチャンスになります。
一緒に働く同僚にも無関心になってしまう「無縁職場」では若手の力だけではなく、組織としての力すらも発揮できなくなってしまいます。
それに対して、喜怒哀楽が共有できる職場では、人は自分の能力を上回る頑張りを発揮し、成長するものです。職場に縁を作り、喜怒哀楽を共有できる職場にすることは若手が馴染みやすく、力を発揮しやすい職場を作るために重要なことです。
▼次回予告:
次回はいよいよ連載最終回となります。最終回では、スマホ新人に対して上司はどのように向き合っていけばよいのか、バブル上司がやってはいけないことと、部下の声を上手に聞くための技をご紹介します。
長く続く就職氷河期、インターネットやスマートフォンの普及、ソーシャルメディアの登場で若者の価値観は大きく変化した。今までとはあまりに違う新人に戸惑う上司たち。
スマホ新人は何を考えているのか。現場で接した若者の声をもとに、彼ら彼女らが何を考えているのかに迫る。上司が若手を理解するために重要な鍵がどこにあるのか、そして若手を育てるための方法とは?
著者の体験談を織り交ぜながら、新人育成に悩む上司のために若手を理解し、育てるための九つの鍵と十二の技を具体的に説明していきます。
PDF: 476ページ
▼前川孝雄:
立場の異なる人間同士の「絆」づくりで人と組織に「希望」をもたらすことを主眼に、法人向け人材育成、学校向けキャリア教育・就職支援、個人向けスクールやゼミなどを展開する株式会社FeelWorksを経営。