ブランド作りの次に大切なものがあるとすれば、それはズバリ、絆(きずな)作り。
絆という言葉、普段はさほど使うものではありませんが、それがあることに感謝すべき大切なものですよね。
平易な言葉でいえば、関係(づくり)ですが、絆という言葉には「関係」にはな
い「断ち難い結びつき」というニュアンスが見えます。
つまり、「絆」という一文字には単なる関係を超えた深い関わり合いが込められているのです。
なぜブランド作りの次に大切かといえば、ブランドが人の心を掴むのに対して、絆はこれを結びつきに変えてくれるからです。
ブランドと絆は相互補完的で、どちらが欠けても継続は難しくなるでしょう。
僕自身、フリーランスとして仕事を始めて今年で10年目に入りましたが、仕事の内容はその時々で変わっても10年ずっと変わらないものは人と人との結びつきです。もちろん、仕事だけでつながっている人間関係はどこかで途切れてしまいますが、仕事を超えたつながりにまで高められれば、それは絆になります。
ここで言う絆は、どちらかというと協力関係にある仕事仲間が近いですが、仕事を依頼していただけるお客さまとの間も絆で結ばれれば、より望ましいでしょう。
そんな絆を作るための考え方とやり方を教えてくれるのが、今回ご紹介する『小さなお店のツイッター繁盛論』。
「小さなお店」とありますが、「個人で仕事をしている人」、すなわちフリーランスにも役に立ちます。
著者は、ネット系のイベント会場としておなじみの「豚組しゃぶ庵」オーナーの中村仁(@hitoshi)さん。
タイトル通り、ツイッターの活用ノウハウが紹介されているのですが、ここから読み取れるのは、(一時的な)売上づくりから(永続的な)絆づくりへのパラダイムシフト。
以下、キーワードのみ列挙してみます。
- プッシュ → プル
- 成熟 → レア
- 主導 → 従属
- 攻める → 場を作って待つ
- 大企業 → 小企業/個人
- 物量 → ピンポイント
- 全面戦争 → 局地戦
- デジタル → アナログ
- 自動 → 手動
- 新規刈り取り → リピート育成
- 集める → 育てる
- 客集め → ファン作り
たとえるなら、顔の見えない企業ではなく、顔で覚えられるミュージシャンを目指す、というイメージ。
ミュージシャンはファン一人ひとりの家を訪問して出前ライブをやったりはしないでしょう。ライブなりコンサートなりを開き、そこに来てもらいます。
中村さん曰く、
飲食店の本質は「待つこと」にあると私は思う。飲食店は一つ所に店を構えたら、そこから動くことはできない。行商のできる商売とは違い、お店をオープンしたら、ただひたすら「お客様が来るのをじっと待ち続ける」ことしかできないのが飲食店なのだ。そして、それで経営が成り立ってこそ、飲食店として一人前と認められる。(p.36)
飲食店をフリーランスに、店をブログに置き換えても、意味するところは変わりません。ある特定の人を強烈に引きつける何かを持ち、それを媒介として絆をつくるのです。
引きつける役割を担うのがブログなら、絆づくりはツイッターということになるでしょう。
本書には、そのためのツイッターの使い方が書かれています。もっと言えば、それ以外のツイッターの使い方は書かれていません。
その根底にあるのは、ハート。
『最高の報酬』という本にこんな言葉が出てきます。
音楽もビジネスも、クリエイトする際に、自分自身か友人達のために創るべきで、お金儲けを目的としてビジネスしても、そうは問屋がおろさない。
ハートから出たものじゃないと、なかなかうまくいかないと思う。
一瞬の成功なんて長続きしないものだよ。
――リチャード・ブランソン(ヴァージン・グループ会長)
『小さなお店のツイッター繁盛論』が伝えたいこともこれときわめて近いです。ツイッターをお金儲けのために使うこともできますが、すぐに「そうは問屋がおろさない」ことになることが繰り返し指摘されています。
「豚組なう」とお客様がツイッターに書いてくれるのも、私たちとの大事なコミュニケーションの一部である。それを忘れて、「ウチの店の宣伝をしてください!」とばかりにお客様に「豚組なう」を要求してしまえば、その時点で豚組とお客様とのコミュニケーションはすべて破壊されてしまう。(p.136)
フリーランスの働き方を2つに分けると、1つは法人向けサービス、もう1つは個人向けサービス、ということになります。前者に必要なスキルは営業能力ですが、後者に必要なのはファン作りのスキル。
もし、あなたが後者のサービスを提供しているのなら、本書を読むことでフリーランスを長く続けるためのファン作りの考え方とやり方を学ぶことができるはずです。
合わせて読みたい:
同じ中村仁さんによる一冊。より「ハート」に近い部分が学べます。ツイッターの話が出てこない分だけ、中村さんの素の考え方に迫ることができます。切々と語られる苦労体験から生まれた志やこだわりは深く心に響きます。「バットマン・ビギンズ」ならぬ「豚組・ビギンズ」がそこにあります。
しかし、実は私自身、今まで論理的な考え方を積み重ねて、店を企画していったことは一度もありません。(p.112)
つまり、私たち店側は、お客さまを大事にしつつも、その意向を気にしすぎるあまり、進化するチャンスを逃してはならない、ということです。(p.140)
それは、理解できない人に媚びなかったとも言えますし、「わからない人はわからなくても仕方ない」と割り切った結果でもあります。(p.143)
例えば私は、グレイスで店を作るとき、絶対に「コンセプト」という言葉は使いません。そういう言葉を私自身が好んで使えば、頭でっかちな人ばかりが集まってきて、結果ロクでもない店しか作れなくなることは、火を見るよりも明らかだからです。(p.179)