今回は028と029を。「読書」についての話に入ります。まずは基本的な二冊から。
- 『読書について 他二篇 (岩波文庫) 』(1960)
- 『本を読む本』(1997)
『読書について』
ショーペンハウアーの「読書について」という短いエッセイは、現代においても示唆に富む一編です。
簡単に言えば、「悪書なんか読むのは時間の無駄だ。価値がある古典作品を読もう!」というアドバイスが(かなり辛辣な口調で)語られています。
ショーペンハウアーの見立てでは、読書とは「著者が替わりに考えてくれる」行為であり、私たちは文章を読むことでその著者の考えをなぞっているに過ぎません。自分で考えているわけではないと言いたいわけです。にもかかわらず、たくさん本を読んであたかも知的な達成を行ったという満足感を得ているとしたら、それは実に愚かしいことだと苦言を呈しているわけです。
なかなか耳の痛い話ですが、一方で「著者の考えをなぞれる」ことに意義がある点は確認しておいた方がよいでしょう。
筋トレやストレッチでもトレーナーが手本を示してくれることで、自分がどう体を動かせばいいのかがわかるようになります。それと同じで、まずお手本としてそうした「著者の考え」をなぞっておくことは有用であるばかりでなく、最低限必要なことだと言えるでしょう。ただし、どこかの時点ではその「なぞり」を抜けて、自分なりに頭を使っていくことが求められるのは言うまでもありません。
もう一点確認しておきたいのは、「悪書を読むことの弊害」は現代でも有効なばかりか、現代でこそ重要になっている点です。
読書というといかに「数を読むか」という視点になりがちですが、実際は「いかに読まないか」の判断の方が重要になってきます。良書に限ってすら読み切れないほどの本があります。その上、最近では悪書よりももっと質の悪い情報も氾濫しています。「数こそすべて」という姿勢ではたちまち知的廃退が訪れることでしょう。
とは言え、難しいのはある程度本を読んでみないと悪書かどうかの判断のアンテナが育たないことです。良書を読み、悪書を読みという経験をくぐり抜けることで、目利きの力は上がってきます。なので、最初は数を追うことも必要にはなるでしょう。
『本を読む本』
こちらは「じっくり本を読む」ための指南書であり、知的な研究のための読書法が紹介されています。簡単にまとめると、以下の四つの「段階」が置かれています。
- 初級読書
- 点検読書
- 分析読書
- シントピカル読書
一つだけカタカナが混じっている違和感がぬぐえませんが、ぴったりくる日本語が存在しなかったのでしょう(なかなか示唆的な話です)。
まず初級読書は、ごく普通に読むことです。頭から終わりまで目を通していくこと。基本的な読書と言えるでしょう。これで内容を掴みます。
続く点検読書は、その本の概要を掴むための読書法です。「読書」と書かれていますが、実際は「読まない」方法です。目次をチェックし、その本が何をどのような論旨で主張しているのかといった点を、一歩引いた視点から確認するわけです。そうした確認の後、「よし、これはじっくり読もう」とか「この本は第3章だけ読めばいいか」と判断することになります。
一見すると、初級読書と点検読書の順番が逆な気がしますが、そもそも初級読書が一定レベルで実践できない限り、点検読書も満足には実践できません。どこをどのようにチェックすればいいのかの見通しが立たないからです。
実際の運用としては、点検読書をしてから初級読書に移るわけですが、その「技術」の階段は、一段目が初級読書なわけです。
そうした読書に慣れてきたら、次は分析読書です。これはいわゆる精読と呼ばれている本の読み方です。本の内容をより深く読み込んでいきます。著者の他の著作なども踏まえて、そこで展開されている言説を分析していくのです。
その分析読書の先にあるのがシントピカル読書です。というか、このシントピカル読書をするために分析読書をするといっても過言ではありません。シントピカルとは、syn + topic の造語であり、「同期する」「トピック」→本を越えて共鳴する内容を抽出する、くらいの意味合いで捉えればよいでしょう。
たとえば、本AでXというトピックがあり、本BにYというトピックがあり、本CにZというトピックがあったとしましょう。それを見出したのち、テーマαにおいてXとYとZは同じようなことを言っているのではないか、という視点に立つのがシントピカルな視点です。
その視点は、他人の思考を材料にしていながらも、「その人の考え」の発露だと言えるでしょう。著者の考えをなぞっているだけ以上の思考が展開されているわけです。その思考の展開を文章としてまとめれば、それがその人の「本」になることは言うまでもありません。知的生産です。
※シントピカル読書は「共鳴読書」などと訳しても面白そうですが、カタカナの意外感を保持しておくのも良いかもしれません。
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なぜだかよくわかりませんが、原稿の進み方のペースが上がってきました。気温の上昇と相関しているのかもしれません(たぶん違う)。ともかく、ペースを崩さずに頑張っていきましょう。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。