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デジタルノート・トランスフォーメーションのススメ



倉下忠憲前回はデジタルノートの特性を検討しました。そこで、記録するツールとしては同一なものの、方向性としてはアナログノートとデジタルノートは異なる、という点を確認しました。

言い方を変えれば、デジタルノートを使うときは、「デジタルノートを使う」というマインドセットが必要なわけです。単にツールを換えるのではなく、意識を変える、もっと言えばワークフロー全体を変えていくような、そのような大きな枠組みの変更が求められます。巷でよく言われているDX(デジタル・トランスフォーメーション)とよく似たものが必要なわけです。

仮にそれをDNT(デジタルノート・トランスフォーメーション)と呼ぶならば、そこで求められるマインドセットは以下の三つになるでしょう。

  • 検索ベースで情報構造を構築する
  • 編集容易性を活かす
  • 再-利用性を高める

検索ベースで情報構造を構築する

デジタルデータは「大量に情報を残すこと」ができ、かつ「キーワードなどによる検索」が可能です。むしろ、キーワードなどによる検索が可能であるから、大量に情報を残しても不都合なく使っていけると言えるかもしれません。デジタルノートを使うときも、その発想は大切です。

パソコンに情報を保存する場合は、まずフォルダを作り、その中にファイルを保存する、という形を取ることが多いでしょう。ファイルの数が増えてきたら、フォルダの中にフォルダを作ることで中分類を作り出し、それでも足りなければ小分類を作る、というやり方も一般的です。

これはこれで便利ですが、フォルダの数が増えてくるとどこに何が保存してあったのかがわかりにくくなります。一方で、探すべきファイルの情報が分かっているならば、ファイル名で検索することで、そのファイルがどこにあっても瞬時に見つけられます。

Gmailを使っているなら、その感覚はよくわかるでしょう。情報をフォルダ的に分類するのではなく、単にアーカイブしておいて、後から検索で見つけ出す、というあの感覚です。同様に、GoogleでのWebサイト検索もキーワードだけで事足ります。その情報が保存されている構造を、検索の段階では無視できるのです。

上記のように検索ベースで情報を見つけることを考えると、フォルダの中にフォルダを作ってそこにファイルを保存する、というような階層的な構造は必ず必要になる、というわけではありません。Gmailのようにまったく作らないこともできますし、Googleのように作っておいてもそれを無視して情報を抜き出すこともできるようになります。

一般的にアナログ的な、つまり物理的な物の「整理」については階層構造的に行うしかありませんでした。住所がその恒例です。日本国 > 京都府 > hogehoge市、のように段階的に情報を絞り込んでいくやり方は(言い換えれば大きい分類から小さい分類へと下っていくやり方は)私たちにとって空気のようにあたり前になっています。が、デジタルノートはそれ以外の「整理」も可能にしてくれます。

階層構造を必要としない、あるいはそれがあってもそこから跳躍できる情報の「整理」のやり方ができるのです。

この新しい整理をさらに補強してくれるのが「リンク」という機能なのですが、これについては別稿を当てるとしましょう。

編集容易性を活かす

デジタルノートは編集が容易です。後から書き換えたり、消したり、移動したりといったことができます。さらに多重のバックアップも可能です。そこから言えることは何かと言えば、「テキトー」に書き始められる、ということです。

  • テキトーに気楽な気持ちでメモ書きする。そして、それを後から編集する。
  • テキトーに気楽な気持ちでアウトラインを作る。そして、それを後から編集する。
  • テキトーに気楽な気持ちで大幅な修正をする。必要とあれば過去のバージョンを引っ張り出してそれを利用する。

こうしたことが簡単にできます。少なくともアナログツールに比べれば飛躍的にそれが行えます。

はじめからがっつり全体像や最終形をイメージして、そこに向かって進んでいくというよりも、ちょこちょこ試しながら進むべき方向を模索する。そういうやり方が可能なわけです。

ただし、その情報がデータベースとして保存される場合には、後戻りしづらい側面があります。その点には留意したほうが良いでしょう。とは言え、他の状態よりは手間がかかるというだけであって、絶対に修正できない、というほど不可逆なものではありません。ある程度手間をかけるなら、データベース設計も修正することはできるので、まず小さくいろいろはじめてみるのがよいでしょう。

再-利用性を高める

デジタル情報は、「再利用」が可能です。それも広い意味で可能です。

たとえば、一度作成した情報を使い回すことができます。テンプレートやひな形といったものがそれです。あるいは、部品だけを作っておき、成果物を作るときにそれを利用する、という活用方法もあります。

そうした使い方をするときは、たとえば情報を一度「抽象化」しておくことが大切です。共通して使える部分だけを残し、そうでないものをはぎ取る、といった操作です。

部品を保存する場合は、部品を分類するだけでなく、後から組み合わせやすいように調整しておくことが肝要となります。一つの部品に多くの要素を混ぜず、「一部品一要素」の考え方で保存しておくのが良いでしょう。

その考え方を「知識」という情報に適用すれば、最近流行しているPKM(Personal Knowledge Management)へと発展していきます。

また、デジタル情報は「送信」したり「共有」したり「公開」したりすることも容易です。それが記述可能な情報ならば人に読める文章で書くことが大切ですし、演算できるデータならば処理しやすいように整えておくことが大切です。正規化などの考え方もここに入ってきます。

どのような立ち位置になるにせよ、「書いて終わり」というアナログ的発想ではなく、「記録して残したものをどう使うのか」という発想が、デジタルノートでは求められるわけです。

さいごに

以上の3点が、デジタルノート・マインドセットだと言えますし、そうしたマインドセットに移行しつつ、ツールやワークフローの全体もシフトしていくのがDNT(デジタルノート・トランスフォーメーション)となるでしょう。

むろん、すべての情報をそのようにトランスフォームすればいい、というわけではありません。しかし、デジタル情報や端末の力を発揮させるならば、こうした考え方・姿勢を身につけておくことは、最低限必要な素養になっていくでしょう。

▼編集後記:
倉下忠憲




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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中