前回は、アウトライナーが「考える」ためのツールだということを紹介しました。
でもって、私たちの日常の多くの事柄には「考える」が含まれています。もっと言えば、習慣的な行動以外のすべてに含まれていると言っても過言ではないでしょう。
だから、アウトライナーはいろいろな用途で使えます。もともとデジタルノートそれ自体が汎用性を持っているのですが、それに加えて「アウトライナー」としてもいろいろ使えるのです。
*二つ目の階の話
今回はそれらの用途を確認しましょう。
メモ
まずはメモです。何かを簡易に書き留めておく用途としてアウトライナーは強力です。
思いついたこと(ex.アイデア)、少しだけ保存しておきたい情報(ex.映画の上映時間)などを書き留めておき、もしそれらを掘り下げたり展開したり情報を添付したい場合は、下に階層を作ってそこに書き込むことができます。
必要に応じて順番を入れ替えることができるので、重要なものは上に、そうでないものは下にといった操作が可能なのも特徴です(デジタルノートの多くは時系列に並ぶので、こういう操作が手軽にできない)。
近しい内容のメモを近くに集めておいたり、あるいは同一階層に移動して「まとめる」こともできますね。
たいていの「メモ」は小さなものなので、それを小さいままに扱えるアウトライナーは取り回しがよいものです。
タスクリスト
日常の用途で言えば、タスクリストとしてもアウトライナーは使えます。
終了したものは、「終了済み」としたり、自分なりの記号で表したり、絵文字を使ったりといろいろ表現があります(ツールによってはそのための機能があったりもします)。
*絵文字を使う場合は辞書に登録しておくと便利です。
当然この用途でも順番の入れ替えは力を発揮してくれますし、タスクに必要な情報や補足情報を下の階層に書きつづることもできます。下の階層のさらにその下に階層を作ることもできるので、一般的なタスクツールの「メモ」よりも、ずっと構造的な情報を入力しやすいのも特徴です。
*ただし、あまり深い階層を作ると扱いづらくなるので注意です。
さらに詳細が必要なときは項目を「開いて」おき、用が済んだら「閉じる」ことができるのもアウトライナーの特性です。
*「次のプロジェクト」に移動する感じ。
特定のタスクに集中したい場合は、その項目にzoomすることもできます。
*できないアウトライナーもあるので注意。
このように視点の高さを自由に移動できるのもアウトライナーの面白いところです。
プロジェクトノート
上記のような「一日のタスクリスト」だけではなく、中長期的な企画/プロジェクトの情報を管理するためにも使えます。
たとえば、以下は書籍原稿の「履歴」を淡々と保存している項目です。
一般的に書籍原稿の情報をアウトライナーで扱うときは、「アウトライン」をそのまま書いてしまいがちですが、そうするとアウトライン以外の情報の行き場がなくなってしまいます。むしろ「アウトライン」を執筆プロジェクトの情報の一つと位置づけて、その他の情報も一緒に保存していく使い方が便利でしょう。
あるいは、以下のように連載のネタや書いた記事の一覧を保存していくこともできます。
これから書くこと・書こうとしていることを上のほうに、すでに書いたことを下の方に配置して、両者を統合的に扱っています。「分類」的考え方で言えば、これはあまりにも整理されていませんが、実用にはまったく不便はありません。むしろ快適なくらいです。
また、デジタルノートのほとんど大半で「リンク」を扱うことができるので、上記のように成果物のリンクを保存したり、あるいは他のデジタルツールの情報のリンクを保存したりすることで、ある種の「ネットワーク」がここで形成されることになります。アナログなツールではなかなか実現しがたい機能でしょう。
アウトライナーならでは
今回は、たとえばとして上の三つの使い方を紹介しましたが、これらの用途は境界線が引かれて分断されているものではありません。
よくよく考えれば、メモの中にはタスクが入ってきますし、タスクリストの中にはメモが入ってきますし、プロジェクトノートの中にはメモとタスクが入ってきます。情報はそもそもが越境的(リンク的)なのです。
もし上記を単一のアウトライナーで管理しているならば、その越境は簡単に実現できます。メモの中で順番を入れ替えたり、構造を作り替えたりするのとまったく同じ手つきで、メモとプロジェクトノートの中身を入れ替えたり、構造を作り替えたりできるのです。
前回のお話を思い出していただければと思います。最初別々のものとして書き出したリストが、変形し、統合されて一つのリストになりました。それとまったく同じことが上記に挙げた用途についても言えます。あらかじめ決まっており、固定されているような枠組みはアウトライナーにはありません。枠組みを便宜的に作成し、便宜的に作り替えていけるのがアウトライナーの最大の魅力です。
つまり、アウトライナーは上記の3つの用途があることだけが「便利」なのではありません。上記のようなことをやりながら、それを逸脱できることが「魅力」なのです。
むろん、そんなややこしい管理など必要なく、毎日扱う情報は極力固定化したいという場合もあるでしょう。アウトライナーは、そうでないときに最大の力を発揮してくれます。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。