デジタルノートについて考えていく上で、まず最初にその特性を押さえておきましょう。
ノートツール全般の特性ではなく、アナログのノートと比べたときに際立つデジタルノートの特性です。
その特性を押さえておくことで、アナログノートとは違ったデジタルノートの運用について考えやすくなるはずです。
データ性
もっとも目を引く特性は、保存される情報の「データ性」です。
デジタルノートでは、情報は手書き文字としてではなく、デジタル形式で保存されます。今書いているようなテキスト情報はわかりやすいですが、iPadの手書きノートやボイスメモといった「アナログ」な情報も、最終的にはデジタル形式で保存されます。
そうして保存されたデータは、編集容易性が高く、複製や共有のためのコストは低くなっています。さらに、キーワード検索のような新しいアクセス方法も使えます。場合によっては、自動処理などを走らせることもできますし、データなので時間が経っても(手書き文字のように)劣化することがありません。概して言えば、情報利用の方法が多様であり、また低コストで行えるのが特性です。
デジタルノートで主に注目されるのは、この特性でしょう。もちろん、大きな特性であり、決して見過ごせないものではありますが、特性はこれだけではありません。むしろ使用者の観点から言うと、デジタルノートとアナログノートの一番の違いは次の点だと言えそうです。
包括性
たとえば、大学ノートならば30〜50枚くらいのものが主流です。
たくさん書き込む方ならば数ヶ月で使い切ってしまう量でしょう。300ページほどある厚めのノートでも一年間程度が限界かもしれません。手帳などと同じタイムスパンです。
一方で、デジタルノートにはそうした「タイムスパン」がありません。区切りなく情報を保存していけます。言い換えれば、そのノートを使い始めてから、現時点までのすべてのデータが包括的に扱えるのです。
これはもちろん素晴らしいことです。しかし、十年間使えば、十年分のすべてのデータが私のノートに溜まりこむことになります。それはメリットをもたらすと共に、デメリットももたらします。アナログノートではなく、デジタルノートを使っていくならば、この「使い続ければ使い続けるほど、保存される情報の量が増えていく」という点は肝に銘じなければいけません。
ならぜならば、一つには私たちの意識はそんなに大量の情報を一度に扱うようにはできていないからです。多すぎる情報=選択肢は、私たちを選択困難な状況をもたらします。また、情報が増えれば増えるほど、「目的の情報と近しい情報」も増えていき、探そうとするときにノイズと同じような効果を発揮してしまう状況も生まれ始めます。
そうした問題は、データが100個程度ではまず起こらず、数千個程度でようやく起き始め、万を超えたときに深刻な困難を露呈し始めます。言い換えれば、そこまで増えてみないと事の深刻さは真剣には体験されません。でもって、気がついたときにはもうだいたい手遅れなことがほとんどです。
アナログノートならば、こうした問題は表面的には起きませんでした。ノート歴が何年であっても、ノートが無限に分厚くはならないからです。アナログノートには代替えがあり、そのたびごとに(概念的な)データベースに文節化が発生していました。もちろん、引き出しや本棚には使用済みのノートが溜まっていくわけですが、そうしたノートたちは、普段使っているノートを利用する上での妨げになることはありません。
しかし、代替わりという文節化を持たないデジタルノートでは、すべてのデータが包括的に保存され、利用できます。そのことが逆に使いにくさを引き起こしてしまう、という問題があるのです。
デジタルノートを使っていく上では(つまり、使い+続けていく上では)、この点に留意しておく必要があります。今便利に使えても、同じ使い方で十年先まで便利とは限らないのです。
カスタマイズ・プログラミング性
最後に一つ、アナログノートとの大きな違いを挙げるとすれば、カスタマイズ・プログラミング性があります。
正直なところ、この話はまだ一般化できるほど環境が整備されていません。デジタルノートツールによってまちまちなのが現状です。
しかし、原理的に考えれば、デジタルノートツールは背景色・フォント・外観・追加機能までを含めてカスタマイズが可能なものですし、そうした機能を自分でプログラミング可能なものでもあるはずです。むしろ、そこまでできてデジタルノートは、初めて「ちょっと便利なアナログノート」と決別することができます。それが次世代のノートツールの在り方でもあります。
画一的に与えられるツールではなく、手に馴染む「自分のツール」を自分で作っていくこと。そうしたものが一般化した情報化社会は、きっととんでもないことになっているでしょう。そうした未来に期待したいところです。
さいごに
今回紹介した3つの特性はより細かい話があり、そうした話はまた個別のトピックとして浮上してくるでしょうから、そのときにまた掘り下げてみたいと思います。
とりあえずは、上記の三つを押さえておいてください。
特に二つ目が重要です。
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アウトラインを立てないでこの連載を書いているので、次回何を書くのかはまったく不明です。何か具体的なツールの話から入れたらと思います。もしこういうトピックを扱って欲しいというものがあれば、ぜひTwitterの@rashita2までお願いします。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。