前回は、読者について考えることで、テーマを絞っていく手法を紹介しました。
では、『情報社会の歩き方〜知的生産とその技術〜』という企画案の読者とは、一体どんな人なのでしょうか。
まず、「情報社会の歩き方」というのですから、これから情報社会を歩こうとしている人、あるいは否が応でも歩かざるを得ない人、というのが対象になりそうです。
そうなると、「現代社会を生きる人全般」が対象になりますが、それでは何も絞ったことにはなりません。もうすこし、読者について考えることが必要そうです。
どんな人に伝えたいのか?
最終的に伝えたいのは、「知的生産とその技術」です。いかに情報を扱い、いかに情報を生み出すのか。その基本的な考え方と実践的な技術の伝達が主要な目標です。
では、それを誰に伝えたいのか。
これは、受け手(≒市場)の話ではなく、書き手の話です。言い換えれば、「私が」誰に伝えたいと思っているのか。そう自問してみると、「現代社会を生きる若い人」という答えが出てきました。
すでに知的生産の技術に親しみがある人に「ほほぅ、こんなマニアックなものがあるのか」と言ってもらうための本ではなく、「そうか。こういうことがあるのか。これから活用していこう」と言ってもらえるような本。目指したいのはそういう内容です。
とは言え、いくら「若い」といっても、中学生ほど若い人までにリーチさせたいかと言うと、そこまででもありません。せいぜい高校生・大学生から、社会人の新人期まででしょうか。そのあたりにダイレクトに届く本になれば、個人の狙いとしては成功です(つまり、商業的成功が確約されているわけではない、ということでもあります)。
もちろん、そうした層をメインターゲットにするからといって、そこから外れる人たちにまったく役立たずな本になってもかまわない、という話ではありません。むしろ、内容が本質的であればあるほど、違う層に届いても役立つ内容が含まれるはずです。
ただし、どんな語り口で、どんな内容を、どう語るのか、ということを考えるためには、まずしっかりと読者層を(イメージの中で)固める必要があります。
それが固まれば、使用する文体や、話運びの速度、そして喩えや用いる例の範囲も決められるようになります。
具体的な自問
たとえば、「高校生・大学生から、社会人の新人期」を想定読者にすると、次の自問を考えられるようになります。
- 知的生産の技術についての、興味・関心は?
- デジタルツール・インターネットの知識は?
- 情報化社会についての、興味・関心は?
- 具体的なノウハウや、私の実際例はどこまで必要か?
おそらくその世代であれば、「知的生産の技術」という言葉そのものを知らないでしょう。ということは、その言葉がいつどんな風に生まれたのかのエピソードを添えるのは効果的かもしれません。逆に、すでにバリバリ知的生産をしている人にはそうした説明は冗長性が高いでしょう。
このように、伝えたい層が固まれば、何を書くか・何を書かないかの判断が行えるようになります。
また、「デジタルツール・インターネットの知識」に関しては、すでに相当有していると想定できます。パソコンの電源をどうやってつけるのか、という話はおそらく必要ないでしょうし、インターネットとは何かという概説も不要でしょう。しかし、「最近の大学生はスマートフォンばかりでパソコンが使えない」という話もたまに耳にしますので、その点は考慮した方がいいかもしれません。
このように、直接本の内容に関係しないことでも、本を書くときに役立つ知識というのはあります。インプットは大切です。
また、「情報化社会についての、興味・関心」があるのかないのかは、現時点の私には予想がつきません。当てずっぽうで「ほとんどない」と決め打ちしてもいいですが、可能ならば身近な誰かに質問してみてもいいでしょう。あるいは、そういう人たちが身近にいる人に間接的に尋ねてみる手もあります。
このように、わからないものは調べてみるという手もあるので、いったんの保留も選択肢です。
さらに、よほど辛抱強い人でないかぎり、概念や理論ばかりが並ぶのは退屈に感じられるでしょうから、具体的な話や実際例はたくさん盛り込んだ方がよいでしょう。もし、近年「知的生産の技術」書籍が多数発売されていて、一般的なイメージが湧きやい状況ならば省く選択もありえますが、実情はどうやらそうではなさそうです。イメージの補助は必要となるでしょう。
さいごに
というように、読み手(受け手)のイメージが固まると、内容もより具体的に固まり始めます。それが企画案を前進させるというわけです。
とは言え、私が描くこのイメージが「正解」であるとは限りません。全然的外れなイメージを描いている可能性はあります。ただ、その「正解」を求めようとし過ぎると、いつまでたっても本は書き進められないでしょう。ある程度不完全であることを受け入れて、自分が思い描く読者に「伝える」ように思い切って原稿を書くことが必要となります。
そうして書いてみれば、案外「思っていなかった」人にもいくらかは届くというのが、文章の面白いところです。
▼今週の一冊:
最近、Twitterで読書メモを公開しているのですが、たいへん面白い本です。哲学・思想系にちょっと興味あるな、という方でも読み通せると思います。
加えて、「粘体」というのは、「なめから」と対比的に捉えられる気がする。ねばりけのある、すっきりと割り切れない何か。それは体系化(ツリー構造化)することはできないかもしれないが、そこにセミラティスな可能性があるのかもしれない。
— 倉下 忠憲 (@rashita2) March 7, 2019
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新刊『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』が発売して結構経ちますが、Twitterでもたくさん反響を頂いており、結構驚いております。タスク管理マスターの方はもちろん必要ないでしょうが、入門、あるいは再入門の人にぴったりな内容かと。
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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。