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本の原稿は、最初はとにかく書く


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倉下忠憲今、本を書いています。スタート地点に近い段階です。

本を書く期間は長く、それぞれに違った工程を持ちますが、最初に大切なのは「勢い」です。少なくとも、私はそう考えています。

現場では勢い

一番最初は、だいたい目次案を立てます。こういう本にする、こういうことを書く、というのを見通すための作業です。これはなかなか楽しいものです。

それが終われば本文執筆です。こちらは楽しいことばかりではありません。苦労もいろいろあります。

これは旅行の計画と実際の旅行に近いかもしれません。出発前に予定を立てるのは楽しいものの、実際に現地に行ってみると思ってもみなかったトラブルや出来事に遭遇して苦労してしまう。そういうことってよくありますよね。執筆でも同じです。

いきなり書き出して、そのままスイスイと最後までいける書き手もいらっしゃるでしょうが、なかなかはそうはうまくいきません。少なくとも、私はそうです。

だからこそ「勢い」が大切になります。

ひたすら手を動かす

「勢い」とは、手を止めないことです。

目次案があるならば、それぞれの章で大まかに何を書くのかは決まっているでしょう。だったら、まず、それについて思うところ・書けることをずらずらと書いていきます。

最初の段階で手が止まるのは、ここでいろいろなことを考えてしまうからです。順番はこれでいいのか、説明はこれでいいのか、この内容はこの章に配置するべきなのか。

そんなことを考えながらでは、なかなか文章は紡げません。だから、その思考を一時的にストップさせて、まず頭の中にあるものを文章にしていきます。説明不足でも、日本語としておかしくても気にしません。そういうのは後からいくらでも直せます。

デジタル文章は後から容易に編集できるのですから、その力を存分に活用して、まずは頭の中にあるものを外に出します。

その際、私が使っているのは、以下のツールです。

ツール群

空っぽのカギ括弧

文章を書いているとき、固有名詞がうまく思い出せない場合が多々あります。

もちろんGoogleを使えば発見できるでしょうが、すぐにうまく見つかるとは限りません。そこで5分や10分使ってしまうと、文章の勢いが止まってしまいます。

そこで、ぱっと出てこない固有名詞に関しては、「」とだけ書いて、先に進めます。

空っぽの段落

文章を書いているとき、「この場所には、これに関して書いた方がいいな」と閃くことがあります。しかし、残念ながらそれについて書ける引き出しが、そのときの脳内にはない場合があります。

そうしたときは、空っぽの段落を作っておきます。たとえば、マークダウン式で書いているなら、

### 整理とは何か

とだけ書いて先に進むのです。軽く書けることがあればそれを追記しておいても良いですし、何もなければ見出しの1行だけでも気にしません。

項目名すら思いつかず、単に「ここはワンクッション置いた方が読みやすいかも」と思っただけならば、

###

と、見出しの記号だけ入れて置きます。これだけでも十分意味はわかります。

コメント

文章を書いているとき、説明が不十分なのでもう少し参照資料を読んだ方がいいなと感じることがあります。

そうしたときは、自分への指示書を文章中に書き込んでおきます。たとえば、以下のような形です。

(自分が書いた記事を読み返すこと)

他にも原稿に関するちょっとした思いつきも気にせず書き込みます。

(ここは次の章に回してもいいかもしれない)


できるだけ素早く処理する

上記のような書き込みを使うことで、執筆の手を止めることなく原稿を書き続けることができます。

そして、後から原稿を読み返したときに、空いている空欄を埋めていけばOKです。あるいは、コメントに書かれていることを実行・検討すればOKです。

ただし、この作業は原稿執筆からあまり時間を置かないで実施するのが吉です。あまりにも時間が空いてしまうと、自分が何をやろうとしていたのかをすっかり忘れてしまう可能性が出てくるので、極力数日内に実施します。

さいごに

とにもかくにも、ポイントは「手を止めない」ことです。

手が動いている限りは文字が増えていきます。その多くは修正が必要だったり、最終的には不要になるかもしれませんが、何もないよりははるかにマシです。

一番困るのは、いろいろなことを考え過ぎて、原稿執筆作業をしているにも関わらず、文字がまったく増えていないことです。思考がきちんと前に進んでいるならよいのですが、たいていはいろいろなことを同時に考え過ぎて空回りしていることがほとんどです。

実際書いてみて判断できることは多くあります。

「この説明は後に回した方がいいな」「ちょっと説明が足りないかもしれない」「文章の流れが良くないな」

書いてみてはじめてわかることを、書く前に考えようとしても無駄骨です。そういうところで、時間を吸い取られないためにも、最初はとにかく手を動かすことを意識します。

もちろん、その後には、じっくり原稿を整える作業がまっているわけですが、それはそれで特別な楽しさがあるので問題ありません。

▼今週の一冊:

もちろん、本当に意識をどこかに集中させる状態が必要ないわけではなく、過剰な集中力・集中信仰へのアンチテーゼとして語られている本です。


▼編集後記:
倉下忠憲



上記の書き方をしていると、逆に普段文章を書いているときは、同時にいろいろなことを考えているのだな、ということを思い知ります。もちろん、そうしたこと考えなくてよいわけではなく、単に「後から考えればよい」と思うことが肝要です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。