まず、この本は良書です。タイトルでピンときたら、必ず手元に置かれることをおすすめします。通しで読む必要はありませんが、このタイトルに惹かれるようであれば、どこを開いても多少は心が安らぐはずです。
その上で気をつけて欲しいのが、この記事のタイトルのことです。人間関係の問題なのに、「タスクリスト」で解決しようとしていませんか? それをやると、自分を苦しくします。
それはあなたの「仕事」ですか?
たとえばExcelで「キチンとした表」にまとめて提出しないと、びっくりするくらい不機嫌になる上司がいるとしましょう。
そういうことがあるからただちに「キチンとした表」にまとめようとして、悪戦苦闘するクセがありますか?
そうすることが必須だというのは会社の規則ですか?
私が言いたいことはなにも、会社の規則でなければそうしなくていいとか、会社の規則だったら仕方がないけど確認しよう、ということではないのです。そういうことも必要かもしれませんが。
しかしここで言いたいことは、「規則だとか、機嫌を害するといったことは人間関係の問題かもしれず、必ずしも仕事やスキルの問題ではない」というだけのことなのです。
人間関係の問題をなにもかも、スキルの問題にしてしまう。約束を忘れるのは「人間性の問題」なのか「記憶力の問題」なのかそれとも「認知発達の問題」なのかは、心理学者に聞いても「正解」など決まりません。
でもそれをことごとく「手帳の工夫」で乗り切ろうとするのはきっと、「自分は人間関係のことが全部苦手だ」という強い不安感があるからだと思います。
「約束をすっぽかすなんて、人間がなってない」なんて言われるのは誰だってイヤなものです。もしそれが事実でないならば、つまりあなたの性格にはさしたる問題がないなら、言ったほうの人間性に疑問符がつきます。
自分の負担を自分で増やしていませんか?
この種の議論全般がとにかくわずらわしいというか、本当に嫌いなので「手帳を徹底的に工夫して、乗り切ろう」とする傾向の人が、一定数います。そしてそういう人は、とても苦しい思いをしがちなのです。
なぜなら結局、自分の人間性についての申し開き(「いいわけ」ととられる?)は一切行わず、ただひたすら自分の「記憶問題」として、手帳やタスクリストに押し込めてしまうからです。そうすると結果としてすべてが自分の負担となってしまいます。
物忘れを防ぐ工夫をするのは良いことですし、いまの時代には必要なことでもありますが、人間関係のスキルを放棄して、代わりにそれを認知スキルで完全補完しようとするのは、無謀というものです。
うまく言い逃れするスキルを磨いた方が、よっぽど楽に生きられる可能性があります。
以上のようなことをアタマの片隅にでもおいてから、いま一度この本をお読みになると、たとえ発達障害とは無縁でも得られることが多いと思います。
拙著、『すごい手抜き』も、今回の記事のような文脈で読んでいただければと思って書いた本です。
じつはかなり微妙な問題なのです。
たとえばどう見ても「押しつけられているような仕事」を残業中にやらねばならないといった時。
しかし同僚や上司ともめてまで、自分の仕事ではないからと突っぱねるべきなのか?
そういう人もいるでしょうが。。。
「時間を上手ににやりくりして」でも、「タスク」としてこなすべきなのか?
人間関係の問題として、他のやり方をとるべきなのか?
そういうことで悩まない人なんて、いないと思います。
悩まないという人はどこかで「割り切って」いるのです。
ではどうしたら「割り切る」ことができるのか?
と悩むような人はそもそも「割り切る」ことが難しい。
『すごい手抜き』でいいたいことは宗教的・哲学的な話ではまったくありません。
読者の中に、ある感情を強めて欲しいと思って書いた本でもあるのです。