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執筆は、下ごしらえの後で



倉下忠憲文章を書こうと思っても、なかなか進まない。そんなことはよくありますね。

頭の中がうまくまとまらない。文章がつらつらと書けない。そういう症状は結構苦しいものです。

そういう苦しさこそが、完成する文章に価値を生むのだ、というストイックな姿勢もあるでしょうが、苦しみすぎてまったく完成しないのも本末転倒かもしれません。

なぜ、うまく書けないのか。書く材料がないわけではないのに、筆を進めることができないのか。そこにはいろいろな理由があるでしょうが、一つには、文章を完成させるためには複数の脳の働き(思考)が必要になるからという点があるでしょう。それらを一気に進めようとすると、どうしても負荷が高まります。

キッチンをイメージしてください。

材料の詰まった冷蔵庫があります。ピカピカに磨かれたガスコンロがあります。そのままの状態で、「よし、料理を始めよう」とコンロに火をつけてフライパンを温め始めたとしたらどうなるでしょうか。きっと、それ以降はすさまじく慌ただしいことになるでしょう。切る、煮る、骨を取る、冷やす、出汁を作る、下味をつける……いろいろなことを一気に進めなければなりません。

できるなら、あらかじめ材料を取り出し、必要な下ごしらえをしてから料理を始めたいものです。

執筆も同じです。事前のちょっとした下ごしらえが、執筆を助けてくれます。そこで今回は、いくつかの「下ごしらえ」法を紹介してみましょう。

箇条書き

もっともありふれた下越しらえが「箇条書き」でしょう。

これから書くことについて、短い文章やフレーズでまとめていく。アウトライナーを使っても構いませんし、普通にテキストエディタを使っても構いません。短い言葉で、どんな要素があるのかを整列させていきます。

材料メモ

立花隆さんの『「知」のソフトウェア』で紹介されているのが「材料メモ」です。

書き出す前に、もう一度集めた材料に目を通す。そのとき心覚えのメモを取る。これが「材料メモ」である。これは簡略であればあるほどよい。私は通常原稿用紙を裏にして、それ一枚にすべてがおさまるように書く。「一枚に」というのが重要である。メモに目を走らせたときに、全材料が一瞬のうちに視野に入るようにしておくということである。

箇条書きに似ていますが、こちらは別に縦一列に整列させる必要がない点に違いがあるかもしれません。文章は出てこず、単語かごく短いフレーズの集まりとなります。

ラフスケッチ

もう少し材料を整理すると、文章のラフスケッチが描けます。

以下は、Honkureの「テトリス・エフェクト」の記事を書いたときにあらかじめ作ったラフスケッチです。材料メモに似ていますが、どの話題がどの話題と関連しているのか、といった話の流れも簡易に書き留められているのが違いと言えるかもしれません。



フリーライティング

上記は単語や短いフレーズの記述ですが、逆に文章から攻めることもできます。

細かい形式やテーマへの整合性はあまり気にすることなく、ただ頭に思い浮かんだ文章を記入していきます。それがフリーライティングです。ポイントは、「完成稿を書いている」のだとは思わないことです。とりあえず、思いつくままに書き出してみることで、どんんな材料があるのかを可視化できます。話の流れを考えるのは、そこからでも十分間に合います。

口述筆記

上記のフリーライティングを、音声入力することもできます。

書き言葉でまとめようとするとうまくいかないことも、誰かに話しかけるようにしてみると案外スラスラと単語やフレーズが出てくることがあります。もちろんこれも完成稿を作るつもりではなく、あくまで前段階の準備を整える気持ちでやってみると良いでしょう。勢いがのってくれば、頭の中身がズルズルと引き出される感覚が味わえるかと思います。

さいごに

本当にちょっとしたことではありますが、こうした下ごしらえをしておくと、徒手空拳で書き始めるよりもはるかに楽に(≒認知的負荷が小さい状態で)スタートが切れます。

もちろん、ある程度慣れてくればこうした作業は省略できますが、脳が疲れているときなどは慣れている人でもこの方法は案外役立ちます。

ちなみに、まじめな人はこの下ごしらえの段階で完璧なアウトラインを作りがちですが、そこまで欲張らない方が全体としてはうまくいくでしょう。結局、「完璧なアウトライン」を作ろうとするならば、多面的な脳の働きが必要になるからです。

まず、冷蔵庫を開けて材料を確認する。できれば、その皮を剥くなどをしておく。それくらいで十分です。流れを整えるのは、もう少し後からにしておきましょう。

▼参考文献:

「あらかじめアウトラインなど作らず、流れで書く」派の人には参考になる書き方が紹介されています。


▼今週の一冊:

先週に引き続いてこの本を読んでいるのですが、もう一度書くとむちゃくちゃ面白いです。ライフハックに興味を持つ人なら、どこかしらヒットする要素がありそうです。


▼編集後記:
倉下忠憲



徐々に気温が上がってきて、体調も(実感としては)戻りつつあります。仕事の量もそれなりに増やしていますが、とりあえず「腹八分目」くらいがいいのだろうなと抑え気味のペースであります。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。