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「本を書くこと」で得られるものとその問題点

倉下忠憲先週、KJ法+マインドマップの記事を書きました。

「言いたいことがはっきりしないときは、こうやって整理したどうですか?」という一つの提案ですね。

そのエントリーへのコメントとして、佐々木正悟さんが以下のようなことをつぶやかれていました。

Mマップよりも本を一冊書くべきだ。たとえ徒労でしかなくても、とかむちゃくちゃ言ってみる RT @shigotano: 「何か言いたいことがあるのだけれども、何が言いたいのかがはっきりしていない」という by @rashita2 http://t.co/09kPb6QpSun Nov 06 09:30:30 via YoruFukurou




「自分の言いたいことをはっきりさせるためには本を書くべきだ」

というのは一見、むちゃくちゃなアドバイスに見えます。

でも、実際のところ、おそらく一番的を射たアドバイスかもしれません。

少なくとも実体験においては、本を書いたことで理解できたことがたくさんあります。

書くという体験、その心理的な変化

小笠原喜康さんの『新版 大学生のためのレポート・論文術』に次のような文章が出てきます。

卒業論文は、ある面小学校の自由作文よりはずっと簡単である。なのに少し突っ込んで調べていくと、急にわからなくなる。始める前にはわかっていたつもりが、少し知り始めると逆にわからなくなる。論文執筆は、矛盾した作業である。

これは論文のお話ですが、書籍を書き上げる際にも似たような経験が存在します。

私が勝手に物書きの心理曲線と名付けているのが以下のグラフ。

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最初は面白い企画案が出来て、「これならいける!」と高いテンションで始まるのですが、実際に着手してみると、そうそう簡単な話で無いことがわかり始めます。

自分が理解できていると思っていることが実は曖昧だったり、調べていくうちに勘違いしている事実が発覚したり、一つのことを説明するのに、他の二つか三つを説明する必要があったり・・・。「あれ、これって大変なんじゃないか」と作業を進めていくうちに気がついて、ややテンションが下がってきます。

他の人にきちんとわかるように説明するというのは、かなり困難な作業です。少なくとも自分がきっちりと理解していないと、筋道を立てた説明はほとんど不可能と言ってもよいでしょう。その困難さがさらに追い打ちをかけてテンションを下げていきます。

しかしながら、下がりっぱなしというわけでもありません。

再び『新版 大学生のためのレポート・論文術』から続きの文章を印象してみます。

人と違うことをいわなくては論文にならない。だがまったく違っても論文にならない。資料や文献をたくさん集めなくてはならない。だが、そのほとんどを捨てなくてはならない。わかってから書いてはならない。書かないとわからないからである。しかも書き終わって初めて、なにを書くべきだったのかわかる。頭脳作業であるはずなのに、知力ではなく体力を消耗する。なんともやっかいな作業である。

「書かないとわからないからである」「書き終わって初めて、なにを書くべきだったのかわかる」とは、いささかむちゃくちゃな感じがする表現ですが、実際のところ、まさにそういう感覚があります。

本を書く上で必要な作業__資料の読み込み、重要なものの選別、道筋の構築、説明を補足する実例または比喩の抽出__を行っていく中で、「あっ、これってそういうことだったのか!」と理解できることがあります。書き進めることで、理解が進むわけです。

この瞬間、もともと並べていたパーツの配置がおかしかったり、あるいは重要度の選択が誤っていることを発見する場合もあります。そこから、作業の大幅なやり直しを発見することもあります。

そこで少しはテンションが下がるかもしれません。でも、そこまでです。後は少しずつ、少しずつ書く意欲は上がってきます。はっきりとした「道のり」が見えていると、意気揚々と作業を進めることができます。そして作業が進めば進むほど、残りの作業に対する意欲も高まります。

そして最後に、自分が必死で書き並べたものを眺めることで、「あぁ、こういうことが言いたかったんだな」と理解することができます。こうやって書いてみるとまるで箱庭療法のようですが、私の中ではそういう感覚が確かにあります。
※全ての本がそう、というわけではありませんが。

さいごに

こう考えると、「何かを理解するために本を一冊書いてみる」というのは確かに一理ある提案かもしれません。といっても、実際に書籍として出版するのはなかなか難しいでしょう。

でも、簡単な電子書籍ならば一人でも作れます。ブログで連載記事として書いてみるのも一手かもしれません。そういう方向で「企画」を考えて、実際に書いてみるときっと似たような体験が得られるでしょう。

ただ、何か問題があるとすれば、途中やってくるであろう「やる気」の低下をいかに乗り越えるのか、ということです。それが「仕事」ならば強制力が働くものの、そうでなければなかなか難しいものがあります。

おそらくそれが「本を書くべきだ」というアドバイスに潜む最大の問題点です。その問題点の解決策については、心理学ジャーナリストの方の本でも参考にされると良いかもしれません。

▼参考文献:


レポート・論文の書き方が全然わからない、という方向けの一冊。大まかな流れと、各作業時のチェックポイントがうまくまとめられています。

私はゲラ原稿の修正指示の出し方をこの本から学びました。なかなか他の人に聞きにくい類の事柄なのです。

▼今週の一冊:

このシゴタノ!でもおなじみの赤い人の赤い本です。といっても帯が赤いだけですが。おそらく彼の持っているジェットストリーム4+1に非常にマッチする帯・・・みたいな話はどうでもいいですね。

iPhone+クラウドツールを使って、「情報マネジメント」「セルフマネジメント」の仕組みを作り上げる、という内容です。最大の特徴は「てんこ盛り」、いや「メガ盛り」ぐらいのボリューム。本の厚みというよりも、取り上げられているトピックスの多さが圧巻です。

ライフハック系のネタに最近興味を持ち始められた方ならば、何かしら興味を引くトピックスが見つけられるでしょう。

▼編集後記:
倉下忠憲


今回のエントリーは、ノウハウやトピックスではなくエッセイ風に書いてみました。別にネタがないというわけではないんですが、たまにはこんな感じのエントリーも「お試し」な感じで。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

ほぼ日手帳HACKS
倉下忠憲、北真也
PDF: 226ページ