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『独学大全』を読む その3「調べる技術」



倉下忠憲引き続き、『独学大全』を読み込んでいきます。



今回は第2部「何を学べばよいかを見つけよう」です。

調査の方法

第2部は第7章から第11章が割り当てられており、以下の18の技法が挙げられています。

技法16 カルテ・クセジュ
技法17 ラミのトポス
技法18 NDCトラバース
技法19 検索語みがき
技法20 シネクドキ検索
技法21 文献たぐりよせ
技法22 リサーチログ
技法23 事典
技法24 書誌
技法25 教科書
技法26 書籍探索
技法27 雑誌記事(論文)調査
技法28 目次マトリクス
技法29 引用マトリクス
技法30 要素マトリクス
技法31 タイム・スケール・マトリクス
技法32 四分割表
技法33 トゥールミン・モデル

「知的生産の技術」の観点から、個々の技法について詳しく見ていきたいところですが(特に技法28〜は大いに役立ちそうです)、ここでは視点を一歩引いて「学ぶことを見つける」について考えます。

何を学べばよいかをどうやって見つける

「何を学べばよいかを見つけよう」というタイトルだと、「これから10年生き残る分野」とか「あなたの強みに適した学習分野マップ」みたいな話が思いつくかもしれませんが、本書ではそうした話題はまったくなく、「調査の技術」が語られています。なぜでしょうか。

まず前提として、独学者とは、自分で何を学ぶのかを決められる存在です。と言うよりも、既存の整えられた環境では足りないものがあるから自分で学ぶことをデザインせざるを得ない存在が独学者である、と言った方がよいでしょうか。

よって、「これから10年生き残る分野」とか「あなたの強みに適した学習分野マップ」といった「誰かがこしらえた地図」に納得できるなら──その納得の是非についてはここでは問いませんが──、それは独学者という獣道を歩かなくてもよいことを意味します。

また、「俺は、なんとしても、これについて、学びたいんだ!」という決意に満ちあふれている人は、そもそも他者の助けを必要としないでしょう。そのままMy Roadを爆走していけばOKです。

つまり、「何を学べばよいかを見つけよう」という情報が必要になる人とは、学びたい気持ちがあり、しかし既存の環境では十分ではなく、かといって自分でははっきりと何を学ぶべきなのかを見つけられていない人、ということになります。だからこそ「調査の技術」なのです。

自分で何を学ぶか決める、という当たり前の独学を行うためには、汎用の調査技術が必要である。

軸になるのは、知らないことを探し求めるための技術、調べもののスキルとノウハウだ。この中には「自分はいったい何を知りたいのか」から「知りたいことを知るためにどんな資料をどうやって探し、また入手すればいいのか」を知るための方法が含まれる。


調べる技術の個人における有用性

著者はまた、この技術をアカデミック・スキルとつなげています。

調査の技術はまた、アカデミック・スキルズの一部をなすものである。というのは、巨人の肩の上に立つことが学問という知的営為の前提であるからである。

論文をベースにした学術書を読むと、頭の部分でこれまでの類似の研究への言及と、著者がその研究を行った意図を説明した記述にぶつかります。

言い換えれば、そうした研究を進めるためには「これまでの研究」を確認していかなければならない、ということです。

そして、そうした活動があるからこそ、学問の分野は──多少行ったり来たりをしながらも──着実に前に向かって進んでいけるわけです。

この話は、二つの意味において個人の活動でも重要です。

一つは、ログの重要性です。学者が「これまでの(人類の)研究」の成果をリサーチ(サーベイ)するように、個人の活動もまた、過去の自分の活動の成果をリサーチし、それに付け足すように動いていければ着実に前に向かって進んでいけます。

当然そのためには、リサーチ(サーチ)可能な記録を持っていなければいけません。それがログ(ないしデータベース)です。

その重要性は、自分でプログラムを書いているときに痛感します。過去に書いたはずのコードを再利用できるのとそうでないのとでは大きな違いがあります。たとえ小さな部品でも、毎回同じコードを書いていると、ちょっとバカらしい気持ちになってきます。

これはプログラミングに限ったことではないでしょう。かつて調べたこと、考えたことをリサーチできるなら、それを土台に次なる一歩を踏み出せます。それがあるとないとでは、かなりの違いが生まれるでしょう。

もう一つは、検索技術の重要性です。

現代において、Googleで求める情報を探すための検索技術(あるいは不要な情報をフィルタリングする技術)の有無は、極めて大きな結果として返ってきます。

どれだけGoogleの検索結果が賢くなろうとも──その賢さの定義はさておくとして──、情報が大量に増え、しかも何かしらの結果を狙っている情報たちがSEOに長ける中、単純な検索だけでは必要な(ないしは適切な)情報を見つけるのは難しくなっています。

「調べる技術」は、他者の知見や情報を利用する上でも、極めて重要な存在なわけです。

さいごに

ちなみに、プログラミングでは過去の自分のコードを活かすだけでなく、Webの大海から求めている機能のコードを探し出す技術も極めて重要となります。

つまり、上記の二つはシームレスにつながっているのです。これは、「過去の自分は他人と同じ」という定理を用いれば簡単に接続できる事柄です。

自分以外の人が着々と残している知見にアクセスするための「調べる技術」を磨き、自分で自分の成果をサーチできるようにログを残し、そして自分の成果を他の人が利用できるようにそれをオープンにしていく(≒パブリッシュしていく)。

そうした活動は、現代における「知的生産の技術」だと呼んで間違いないでしょう。

よって『独学大全』は現代の知的生産者においても有用な本だと言えます。

(つづく)

▼編集後記:
倉下忠憲




唐突に新しい企画案がスタートして、現在並行して執筆を進めております。『僕らの生存戦略』とその新しい企画案です。現状一日に何字くらいのペースなら並行して続けられるかを試しているところですが、そういう情報もまた「未知」であり、他の人が知っているはずもないので、自分で「実験」をしていくしかありません。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中