私はデジタルとアナログの両方のツールを使っています。いわゆる「デジアナ派」。全体の効率で見ると、ほぼデジタルだけで進めるほうが良いのでしょうが、個人的には両方の長所をうまく使い分ける手法を模索し続けています。
こういう「デジアナ派」の特徴は、それぞれのメソッドを違和感なく受け入れられる所です。例えば、谷岡一郎氏の『40歳からの知的生産術』という本は、全編を通してアナログ主義ですが、こういった本からもちょっとずつエッセンスを吸収する事ができます。
2冊+αのノート術
本書は、もっとも重要な資源、つまり「時間」管理から始まり、本を読むノウハウや、著者の情報整理環境などが紹介されています。このあたりもいろいろ示唆を得るものは多いのですが、一番興味深かったのが「ノートの使い方」。
著者は、アイデアをなんでも書き留めておくための「アイデア・メモ」用のノートと、実際に文章を書くためのノート、この二冊をレギュラーにしておられるようです。このあたりは一般的ですね。
その2冊に加えて、中間的存在の「プロジェクト・ノート」も合わせて運用されているというのがポイントです。
アイデア・メモ帳で、ある種の著作や論文、もしくはエッセーなどがまとまり始め、一応の形を示したとする。その段階に達すると、筆者は別の新しいノートをそのプロジェクトに割り当てることがある。特に量(ページ数)的に多い1冊の本のプロジェクトなどは、必ず1冊のノートにまとめなおすのである。
時系列に書き綴られた「アイデア・メモ」ノートには、さまざまな考えが順不同で並んでいるので、それらを見返して必要なものを「プロジェクト・ノート」にまとめ直す、という手法です。
プロジェクト・ノートの実態
この「プロジェクト・ノート」の構成は、次のような感じになっているようです。
最初のページ:タイトル案、締め切り、ページ数などの基本情報
最初の見開き:全体の構成をまとめる
以降のページ
:各章に最低1ページを割り振り、思いついた事をどんどん書き込む
:参考文献をメモするページ(最低4ページぐらい)
:残りのページはメモ用
こうすることで、執筆に必要な材料が全てこのノートに集約することになり、あとは実際に書くだけ、というわけです。
興味深かったのは、私が本を書いたときに、これとほとんど同様のやり方をしていたという所。
『Evernote「超」仕事術』のプロジェクト・ノート
これが、実際に使っていたノート。その辺に売っている普通のノートです。サイズはA5。なんでも「形」から入るのが好きなので、書き始めようと思ったその日にノートを買ってきて、タイトルと日付を書き込みました。これはノートの基本です。
中のページは、こんな感じです。これは各章ごとに割り当てたページ。この見開きが6個ほど続きます。何をどう書いているのかは、また別のエントリーでも紹介します。
これ以降のページでは、進捗状況を管理したり、
図版のラフを描いたり、
あるいは、作業記録とか起きた問題点、改善案などもどんどん書き込んでいました。企画に関する必要なアイデアや情報がこのノート一冊に集約していた、というわけです。
安心感と、促進効果
作業を進める上で、「この情報はここにある」という安心感はかなり重要だと思います。これがないとやる気が起きにくかったり、集中力が発揮されにくいという問題が生じかねません。
これをさらに進めると、こういった「プロジェクト・ノート」を目にすることで、「このプロジェクトに関するタスクを実行しよう」というやる気が湧いてくる、事もあります。なぜかというと、「過去」がそこに残っているからです。今までどれぐらい進めてきたのかというのが、ページの文章や書き込まれた赤線の数として、視覚的に目に見えるからです。
経済心理学の実験でポイントカードのスタンプを取り扱ったものがあります。買い物をすると押してもらえるスタンプ。これを一定個数集めると特典がもらえる、というサービスはよくあります。この実験は、真っ白のカードに8個のスタンプを集めるのと、10個スタンプ欄があって、そのうち二つはもともとスタンプを押してある場合を比較したものです。実際に集める個数は同じでも、後者の方が最後まで集める人の数が多かった、という結果が出たそうです。
この実験をふまえると、「いままでやってきた事」が目に見える形で残っているというのは行動を促す強い要因になる、と考えることができそうです。
さいごに
『Evernote「超」仕事術』は、このやり方で完成させることができました。
※ちなみに、この本
そこで気になるのは、この「プロジェクト・ノート」は「ノート」つまりアナログのノートでなければならないのか、という点です。
というわけで、次回はEvernoteで「プロジェクト・ノート」を実装する方法について紹介します。
▼今週の一冊:
先日のシゴタノ!で佐々木さんが紹介されていた本。ちょうど読んでいる最中に「あまり紹介するつもりはなかった」というコメントを見てしまって、「えっそんな本なの!?」とか思いながら読んでいましたが、結構面白かったです。
このポモドールテクニックの肝は「タイマーを使う事」ではありません。タイマーを使う事の目的の一つは集中するためですが、もう一つ大きな意味があります。それは、「測定可能な単位」を作り出すことです。何かを管理するならば、この「測定可能な単位」は絶対に必要になってきます。これを導入することで、「ザ・ゴール」に代表される「在庫管理」をタスク管理に持ち込むことができるようになるわけです。
個人的にな印象では「計るだけダイエット」に近い効果があるのではないか、という気がします。
毎週金曜日を楽しみにさせてくれる北真也さん(@beck1240)ですが、いよいよ初の著書を出版されるとのこと。
シゴタノメンバーについてのインタビューの中に私の名前も入っておりますので、興味があるかたはちょっとチェックしてみてください。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。