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原稿を前に進めるための三つのコツ

倉下忠憲短い文章なら、一日で書き上げられます。しかし、分量が多くなるとそうはいきません。執筆作業を積み重ねていくことが必要となります。

「10万字の原稿も、1文字打つところから」

とはよく言ったものですが(今私が作った言葉ですが)、やはりコツコツ続けることは欠かせません。

しかしながら、「コツコツ続けること」は、「新しい習慣を身につけること」と同義であり、それはつまり「思ったより簡単なことではない」ということも同時に意味します。

というわけで、今回は「いかにして大きな文章を仕上げるのか?」について考えてみましょう。

定期的に着手する

メイソン・カリーの『天才たちの日課』を読んでいると、多くの偉大なクリエーターたちが、定型の日常を繰り返していることがわかります。

中には、「インスピレーションが湧いてきたときだけ仕事する」という、いわゆる天才肌なタイプもいますが、基本的にその数は少なく、毎日決まった時間に決まった分だけの仕事をする、というタイプの方が多勢です。

定型の日常を繰り返すことは、もちろん作業量の増大を意味します。毎日仕事をすれば、その分進捗は増える。簡単なお話です。しかしそれ以上に、リズムを作ることと、判断を削ぐことが大切かもしれません。

定型の日常であれば、仕事と休みのバランスも自然に発生します。仕事しっぱなしということも避けられますし、休みっぱなしということも避けられます。また、「午後2時からは休むのだから、午前中にここまで終わらせておかなければいけない」という計算も成りたちます。

「今日は一日休みなので、たくさん作業できるぞ」のような見積もり(という名の幻想)がうまくいかないのは、実体験を振り返ってみても思い当たる節が多いでしょう。「区切り」が日常に織り込まれていることは、案外大切です。

また、定型の日常を繰り返していると、「今日は仕事をしようかどうしようか」といちいち判断することがなくなります。これが地味に強力です。

実際、探してみれば「仕事をしない理由」などいくらでも見つけられます。「今日は疲れているから」「今日はゲームのイベントがあるから」「今日は楽しみにしていた番組があるから」……。もちろん、それには合理性があるのでしょうが、その「今日は〜」に流されていては、いつまでたっても進捗は生まれません。

なので、「今日は仕事をしようかどうしようか」という判断を始めから消し去っておくのが有効です。

もちろんそれは、決して休んではいけない、ということではなく、デフォルトの設定は「仕事をする」であり、どうしようもないときは(オプションとして)仕事をしない、という条件分岐にする、という話です。

触れるだけでもやる

とは言え、定期的に仕事をするのは簡単ではありません。原稿執筆においても、毎日同じように同じだけ進むとは限らないでしょう。頭が回らない日、疲れている日、アイデアに困っている日……。いろいろあるはずです。

それでもなお、作業は行うべきです。

パソコンであれば、原稿のファイルを開くだけでもする。少しだけ書き直す、あるいは書き加える。それも無理なら、前日まで書いた分を読み返す……と、なんでもいいから着手します。過去の作業記録やアイデアノートを読み返しても構わないでしょう。

ともかく、なんらかの形で、作業にコミットしておくことです。そうすれば、「定型の日常」を繰り返しやすくなります。逆に、そうしたときに作業から離れ始めると、「今日は仕事をしようかどうしようか」という判断が頭をもたげ始めます。

キリをコントロールする

もう一つ、キリを意識しておくことも大切でしょう。

作家によっては、わざとキリの悪いところで書くのを止める、という人もいらっしゃるようです。言い換えれば、明日の自分がこの原稿の続きを書ける、と思えるところでキーボードの手を止める、ということです。このやり方ならば、作業の継続はしやすいでしょう。

逆に、キリなどまったく関係なく、一定の文字数や一定の作業時間が経過したら、そこで作業を終える、という作家もおられるようです。

どちらにせよ、「区切りのポイントを自分で設定している」のが一つのコツで、それがなければ、ダラダラと作業を続けてしまいがちです。でもって、そうしたダラダラは「リズム」を作るのには適していません。中長期の運用には適していない、ということです。

繰り返すためには、区切りを意識する。

大切なことです。

さいごに

今回は、「いかにして大きな文章を仕上げるのか?」について考えてみました。

基本的に、「コツコツ続けること」しかないのですが、コツコツ続けるにもコツは必要です。

特に、「今日は仕事をしようかどうしようか」という判断を無くすことはかなり大切で、そうでなければ、ついつい「気分転換」に作業が流されていきます。でもって、現代では人生の始まりから終わりまでの時間を満たすほどの良質の「気分転換」が溢れかえっていることは、心に留めておいた方がよいでしょう。

▼参考文献:

タイトル通り、さまざまな偉大なクリエーターたちの日常が描写されています。いろいろ変な人は多いのですが、思った以上に生活のリズムを大切にしている人が多かったのが印象的でした。もちろん、村上春樹さんも名前が挙がっています。


▼今週の一冊:

12月8日に発売されたばかりの新刊。電子書籍オンリーです。

執筆の裏舞台というのは、いつでも興味深いものです。『勉強の哲学』がいかにして書かれたのかが解説されているということで、今から読むのが楽しみです。


▼編集後記:
倉下忠憲



私も、とりあえずは、ファイルを開き、読み直し、少し追記できるところがあるならそれを行う、ということを毎日繰り返しています。本当に微々たる進捗しかないのですが、それすらなくなると、0+0=0みたいなことになりがちなので、0.1でも加算していきたいところです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


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