自転車をこぎ始めるとき、最初はペダルが重いものですが、スピードが乗ってくるとどんどん軽くなっていきます。スピードに乗ってくれば心地よさも手伝ってそれまでの苦労も吹き飛ぶものです。
そして次回以降に自転車に乗るときも、最初のペダルの重さは加速に必要なステップであることがわかっているので、多少しんどくても「自分にはこれ以上ペダルをこぎ続けるのはムリ…」と諦めることなく乗り越えていくことができます。
あるいは、試行錯誤の末に“重いペダルをこぐコツ”を体得することもあるでしょう。
このアナロジーは仕事にも見いだすことができます。
仕事には少なくとも以下の2つの能力が必要とされます。
- 1.定形的な仕事(ルーチン)をうまく処理する能力
- 2.非定形的な仕事を具体的な作業に落とし込む能力
例えば、思いついたアイデアを商品に活かすには、2の能力が求められるでしょう。このような非定形的な、言い換えれば毎回手順が変わる仕事をうまく処理するためには、一見とりつく島がないように見えても、何かしら取っ掛かりを見いだし、自分が得意とする“ルーチン作業域”に持ち込みます。
新しい仕事は新しい方法でしか取り組めない、ということも当然ありますが、古いやり方の痕跡がいっさいない、まったく新しい方法というのはそうそうあるものではなく、どこか自分の経験が活かせるものです。
これに気づくことができれば、仕事は楽しくなります。少なくとも楽になるでしょう。なぜなら人は、似た構造を発見すると非常にうれしいからです。
養老 認識能力の基本の一つに、似た構造を発見する能力があります。
似た構造を発見すると非常にうれしい。なぜかというと、脳のエネルギーを節約できるから。
全く違うものでも同じだと言えるのなら、非常に楽じゃないですか。
毎日まったく異なる仕事をしている、という人でもその人なりに「似た構造」を次々と押し寄せる仕事の中に見いだしているものです。
では、この「似た構造を発見する能力」を鍛錬するにはどうすればよいでしょうか。
それは、当たり前のようですが、毎日繰り返し取り組むしかありません(『似た構造を発見する能力が3時間で身につく本』があれば別ですが…)。
ただ、繰り返す時の繰り返し方いかんで結果が変わってきます。繰り返す過程で、
- どうすればもっと早くできるようになるか
- どうすればもっと楽にできるようになるか
- どうすればもっとシンプルにできるようになるか
などなど、“改善欲求”を意識します。別の言葉で言えば、無意識に抑え込んでしまう「面倒くさいなー」という感情を素直に表に出します。
先月のセミナーで「面倒感度」という言葉をご紹介しました。
面倒なことは長続きしないものなので、「面倒くさいなー」と感じたら、すぐに「どうしたら面倒を解消できるか?」という質問を自分に問いかけて、対策を考えます。つまり、面倒なことを面倒なまま「仕方がない」と放置するのではなく、何とかできないかをあがいてみるわけです。
あがいてみた結果、うまいアイデアが浮かべば「あがいてよかった☆」という成功体験が刻まれます。成功体験があれば、次回はより少ない負荷で行動ができるようになるでしょう。この一連のプロセスで大切なことは、面倒と感じる度合い、すなわち「面倒感度」を研ぎ澄ませておくことと言えます。
「面倒感度を研ぎ澄ます」とは、具体的には、飽きることに敏感になることだと思います。飽きているにもかかわらず無理矢理続けてもストレスという不快感がつのるばかりです。
自転車のペダルが重いのであれば、自然とこぎ方を変えてみる、足の力だけで足りなければ背筋力を援用したり、ハンドルを強く握ってペダルを踏み込んだり、という工夫をするでしょう。
繰り返し作業だからと言って、足だけでこぐ必要はないわけです。こぐために使えそうなもの、こぐという動きに似ているものであれば何でも使ってみる、という姿勢で臨めば、もっと楽になるはずです。
そしてどこかで“加速スイッチ”が入るのではないでしょうか。