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他人の“白米”より自分の“玄米”


大橋悦夫「日経ビジネスアソシエ」2006年1月17日号でサイバーエージェントの藤田晋社長の連載記事「企画力は情報量と経験で決まる」に以下のようなことが書かれていました。

当社では新しい商品やサービス、そして社員の才能を発掘すべく、社内で事業プランコンテストを行ってきました。しかし、この方法だとヒットにつながる良い企画がなかなか上がってこないことに最近気づきました。私が思うに「コンテストだ。さぁ、考えよう!」と、普段の仕事から離れ、改まって考えようとするから、実現性の低いアイデアばかりになってしまうのです。

では、どうしたら実現性の高いアイデアが出てくるのでしょうか。

情報量

藤田社長いわく、良い企画が思い浮かばないのは情報が足りないから、と書かれています。そして、

持っている記憶=情報の少ない人の思いついた企画はどこか現実味に欠け、物足りなく見えます。経験の浅い若いビジネスパーソンならば、普段から情報をそれこそ浴びるように集めておく必要があるでしょう。

という藤田社長は、日経4紙に加え、朝日新聞、日刊スポーツの6紙を毎朝欠かさず読んでいるそうです。

もちろん、情報がたくさんあればそれが即、実現性の高いアイデアにつながる、ということはないでしょう。

「情報を集めること」と「アイデアを出すこと」をつなぐためには“コネクタ”が必要です。

経験を通して得られるもの

何度かご紹介している『東横インの経営術』によると、ホテルの支配人が業務を学んでいく過程で大切なこととして、実際にやってみることが強調されています。

着任して間もなく、才覚を発揮し、好調な業績へと導く者もなかにはいる。彼女たちは、こちらから教えるまでもなく、「支配人はかくあるべき」ということを、先輩支配人から学び取ったり自分で感じ取ることができる。

しかし、こういう人は少数派。大半は、その能力を花開かせるまでに右往左往を繰り返す。むろん、それでいいと思っている。そうした苦労こそが、ホテル運営におけるノウハウへと直結するからだ。

本で読んだり人から聞いたことというのは、エッセンスが凝縮されていて、短時間で吸収することができるというメリットがある半面、なかなか実際の行動に活かされることが少ないように感じています。

読んだり聞いたりして「あ、いいなぁ」と思っても、それを行動に移そうとする前に次の情報が押し寄せてきて、「お、これもいいなぁ」「あー、こっちもいいー」などと「いいなぁ」を連発して一時的に気持ちよくなるだけで、日常生活や日々の業務には何の変化も起こらない、ということが往々にしてあります。

そう考えると、やたらとインプットを増やしまくるのは「ちょっと待てよ」という感じがします。

多少インプットの量を減らしたとしても、それで浮いた時間を「いいなぁ」と思ったことを実際に自分でやってみることに費やす方が、全体として得られる効果は大きいように思うのです。

それゆえ「そうか、藤田社長は毎朝6紙も読んでるのか。

よし、じゃぁ僕は8紙読むぞ!」というのは「ちょっと待てよ」です。

おそらく藤田社長は淡々と新聞を読むのではなく、何らかの「質問」を持ったうえで読んでいるはずです。

例えば「どうしたら、最近始めた×××というサービスをより多くのお客様に使ってもらえるようになるだろうか」というような質問です。

それがあれば、自然とこの質問の答えやヒントになりそうな記事が目に止まるようになるでしょう。

東横インの新米支配人が右往左往するのは、その過程で自分なりの「質問」を身体の中に構築するためではないでしょうか。

実際に痛い目に遭ったり、逆に思い通りにコトが運んだ、という実体験がなければ、「どうしてこんな失敗をしたんだろう」とか「今回はどうしてうまくいったんだろう」と思い返すことはありません。

思い返すからこそ、「次はこうしてみよう」という工夫が生まれ、さらには「どうしたら、もっとうまくできるんだろう」という質問に発展していくのです。

このような試行錯誤を繰り返していくと、自分の中に「どうやら、こうすればうまくいくようだ」という自信が芽生えます。

これを言語化したものが、例えば「支配人はかくあるべき」であり「新聞を毎朝6紙」読む、というノウハウになります。

この質問こそが、「情報を集めること」と「アイデアを出すこと」をつなぐ“コネクタ”の役割を果たすわけです。

そして、質問は経験を通してしか得られないものです。

一見余計なものに見える過程にこそ価値がある

誰かが考えたノウハウというのはおいしいところばかりでお米で言えば白米に似ています。

これに対して自分が苦労して編み出したコツは玄米。

いろいろと余計なものがついていて苦い思い出や辛い経験など味としては白米に劣りますが、実はそういう一見余計なものに見える過程にこそ体を動かすための“栄養”、行動を促すためのエキスが詰まっています。

例えば、藤田社長の次の言葉は、“玄米”について説明している“白米”です。

お客様にお話を伺っていて、ニーズを感じたとか、あるいは仕事をしていてこの部分にすごく矛盾を感じたなど、自分の生々しい体験に基づいて考えたものでないと顧客はもちろん上司の心も動かせません。企画は働きながら、動きながら考えることが基本なのです。

日々の仕事に没頭するとわざわざ新しい商品やサービスを考えようなどと思わなくなりがちですが、実は日々の仕事の中にこそヒットの種は隠されているのです。