メモは記録を生成する手段です。
そして記録にもいろいろな目的があります。となると、メモにもいろいろな種類があると考えられるでしょう。
さて、記録と対をなすものとして記憶があります。で、その記憶にもいろいろあるのです。
まず短期記憶と長期記憶の二つがあります。短期記憶は作業記憶とも呼ばれ、ごく短時間の情報の扱いに使われます。長期記憶は、さらにいくつかの分類を持ち、そのどれもが私たちの日常的な生活の役に立っています。
おおざっぱにまとめれば、次のような構図となるでしょう。
- 短期記憶(作業記憶)
- 長期記憶──意味記憶
- ──エピソード記憶
- ──手続き記憶
さて、メモはどうなるでしょうか。
作業メモ
「そうだ、後からこれについて調べよう」
と思ったときに、手近なメモ用紙に書き留めておくことがありますね。それが作業メモです。調べ終われば、もうそのメモは用済みとなり、その役目を終えます。この点は、短期記憶と同じですね。
あるいは、難しい数式を計算を紙に書いて行うことだったり、脳内のイメージを図形的に整理することも、この作業メモに加えられるでしょう。こうしたメモは後から(たとえば検算に、たとえばラフスケッチに)使うことも想定できますが、その時点では紙の上という作業空間を使っているだけにすぎません。つまり、使用の射程はごく短いのです。
意味メモ
「この言葉いいな。あとで引用できるようにメモしておこう」
これもメモの用途の一つです。ただし、位置づけ的にはノートとして扱われるかもしれません。が、どちらにせよ、「保存しておいて、後から使う」ことが想定されています。
後から使うのは一度かもしれませんし、複数かもしれません。あるいはまったく使わないことすらあるでしょう。それでも、メモする目的は「後から使うこと」であるのです。
メモというと自分で記述するイメージがありますが、新聞の記事を切り取って「貼る」こともここではメモに含まれます。
エピソードメモ
「あの映画面白かったな。感想を書いておこう」
日記や手帳にそんなことを書くことも多いでしょう。これは、自分の心的状況の記述と言えます。この記録もメモよりはノートとして扱われることが多いかもしれませんが、どちらにせよ記録であることに違いはありません。
こうした記録は、情報として後から活用するというよりは、時間が経ってから自分の心的状況を想起するために使われることが多いでしょう。過去の自分を思い出したり、過去の自分を振り返るために使われる記録です。そうした記録は、人生(を構成する記憶)に厚みをもたらしてくれます。
手続きメモ
「まずこれをやって、次にそれとそれ。忘れないように手順を書き留めておこう」
これもメモの一種でしょう。内容的には意味メモと似ていますが、手順はバージョンアップしていく点に違いがあります。新しい手順が加わったり、既存の手順が改良されたりすることがあるのです。また、その情報は実行の際に活用されるという点でも違いがあります。
こうした手続きメモは、簡単に言えば「チェックリスト」です。これも記録の有効な使い方の一つでしょう。
さいごに
ざっと、記憶に対応させる形でメモの種類についてみてきました。
ただし、これは単純な切り分けにすぎません。たとえば、「ライフログ」と呼ばれるものは、意味メモであったり、エピソードメモであったりします。情報を加工すれば、手続きメモも作れるでしょう。
同じく「着想メモ」も、エピソードメモの性質を強く持ちながら、「意味メモ」的な要素も持っています。
情報の利用の仕方は単純ではないので、上のような切り分けもあくまで便宜的なものにしかなりません。
ただし、作った記録を後からどのように利用するのかの視点を持つことは、メモについて(ひいては記録について)考える上で有用でしょう。
スパンは短期なのか長期なのか。使うとして、どう使うのか。単に見るだけか、何かに使うのか、時間と共にバージョンアップするものなのか。そうした性質を理解していれば、適切な管理方法も見つけやすくなるはずです。
▼今週の一冊:
まだ読書中なのですが、なかなか興味深い内容なので紹介します。
「沖仲仕の哲学者」とも呼ばれたエリック・ホッファーをシンボルにしながら、在野で、つまり大学などの機関に所属せず独学で学問の道を進んだ人たちのライフスタイルや学問スタイルが紹介されています。
私も言ってみれば、在野なわけですから、本書に出てくる事例は面白く読めました。必ずしも道は一つではないことがよくわかります。
「好きなことをして生きていく」といっても、さまざまな可能性がある、ということが感じられる一冊です。
» これからのエリック・ホッファーのために: 在野研究者の生と心得
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由