例えば、会社から仕事を持ち帰ったとします。
帰宅して一通りの家事や用事を済ませて少し落ち着いてから、すわ「持ち帰った仕事を寝る前になんとか片づけてしまおう」とPCに向かいますが、どう考えても終わりそうもありません。
突如として「あ~、ビールが飲みたい!」という衝動に駆られ、勢いのままに飲んでしまいます。
こうして衝動は満たされるでしょう。
でも、肝心の仕事はいっこうに進みません。
進まないどころか、「終わりそうもない」という事態はいっそう悪化してしまいます──。
どこで間違えたのでしょうか?
今すぐできないことは、後回しにしてもできない
言うまでもなく「ビールを飲んだ」ところでしょう。ここで衝動に負けなければ良かったのです。
でも、その「ビールを飲みたくなる」シチュエーションを作り出したのは自分自身です。
つまり、
- 「ビールを飲みたくなってしまうシチュエーションを予防する」
ことが真っ先にとるべき対策になります。
「ビールをガマンする」という、一見すると対策のように見えるものは、しかしムダな抵抗でしかありません。
仮に「ビールを簡単にガマンするための10のコツ」のような“ライフハック”があったとしても、です。
実はこの「負けパターン」は僕自身が会社員だった頃にはまっていたものです。
今すぐできないことは、後回しにしてもできないのです。
「どうしてこうなった?」に注目する
お金で考えるともっと分かりやすいでしょう。
今すぐ支払えないものは、後でも支払えないのです。
にもかかわらず、
- 「ひょっとすると明日なら払えるかもしれない」
と考えてしまう。
かくして「今だけだから」ということでお金を借りるという行為が正当化されるわけです。
この問題を解決するには、
- 「今は払えないけど明日なら払えるかもしれない」
- 「今はできないけど自宅に持ち帰ればできるかもしれない」
といった間違った“ホログラム”を発生させないようにするしかありません。
“ホログラム”それ自体ではなく、その発生装置に目を向けるようにします。「どうしてこうなった?」に注目するわけです。
そのためには、自分のそれまでの行動をつぶさに記録・観察し、「ここで道を踏み外したのか!」というポイントを特定する必要があります。
そのポイントは人によってさまざまですので、一様に「ここ」と一般化することはできません。
冒頭の例でいえば、仕事を持ち帰りたくなるまでにどんな「踏み外し」があったのかを解明することになります。
それが解明できれば、先ほどの“ホログラム”が発生することはなくなるので、「負けパターン」に陥ることもなくなります。
それをせずして、とにかく
- 仕事を持ち帰らない
- 家でお酒を飲まない
といった“対策”を立てても、焼け石に水にしかならないのです。
究極の対策
「どうしてこうなった?」が解明できたら、あとはこれを再発させないようにするための対策を考え、これを実行するだけです。
ところが、ここに落とし穴があります。
それは「なるほど、こうすればいいのか」と納得したうえで「よし、明日からやろう!」と明日に回してしまいがちなことです。
対策がはっきりすることで、安心してしまうのでしょう。
では、どうすればいいか?
ここで思い出されるのが『アイデアのつくり方』に載っていた以下のくだり。
説明は簡単至極だが実際にこれを実行するとなると最も困難な種類の知能労働が必要なので、この公式を手に入れたといっても、誰もがこれを使いこなすというわけにはいかない。
これは著者のジェームス・W・ヤング氏の言葉ですが、これに呼応するかのように竹内均氏が同書巻末の「解説」で以下のように書いています。
最後に一つ、重要な注意事項がある。それは方法論や道具に凝ることなく、直ちに仕事を始めよということである。
方法論についての議論の最後にこういうことを言うのは、ややぶち壊しの感じがする。しかし私はそれを言わずにはいられない。
世の中には方法論や道具だけに凝って、結局何らの仕事をもしないでしまった人が大部分である。ワープロやコピーやパソコンが容易に手に入るようになった最近では、この傾向が特に著しい。
私の考えでは、1.好きなことをやり、2.それで食べることができ、3.その上それが他人のためにもいささかの役にたった人生が自己実現の人生であり、理想の人生である。方法論や道具はそのためのものであり、本末を転倒してはならないのである。
ということで、究極の対策は「今すぐにできることから始める」ということになります。