このシゴタノ!で「オフィスサーファーの仕事術」を書かれている濵中さんの新刊が発売されたということで、早速買ってみました。
タスク管理を「情報整理」と「時間管理」の二つに分け、前者をGTDを中心とした枠組みで、後者をタスクシュートをバックボーンにした考え方で紹介されています。「それぞれの名前は聞いたことがあるけど・・・」という方が、実際例を知る上で役立つ一冊と言えるでしょう。
さて、本稿の趣旨は上の本の紹介ではなく、本の出版に合わせてアップされた記事を触媒としたある事柄についてです。
» 初めて電子書籍を出版させていただいてわかったことなど(はまラボ)
実際にやってみて、初めてわかることはたくあんあります。もちろん、本の出版についても同様です。
というわけで、今回は私が本を書くようになって、はじめて気がついたことを紹介してみます。
その1:編集の偉大さ
編集者というのは、「原稿を催促しにくる人」であり「誤字・脱字を指摘する人」だとずっと思っていました。
それはあながち間違いでもないのですが、編集者さんの仕事はそれだけではありません。そもそもの企画を検討したり、原稿の構成を提案したり、文章を過不足を指摘してくれたりもします。
ブログは1人で好き勝手に書けるのが魅力ですが、反面独りよがりな文章になりがちです。編集者という第三の視点を導入することで、文章のクオリティはぐっと上がります。
本の出版というと、どうしても著者が目立ちますが、実際の所、編集者さんもコンテンツにクリティカルな影響を与える存在なのです。
その2:出現する谷間
本を書く作業は、「楽しいもの」でしょうか「苦しいもの」でしょうか。実は、その両方です。
ものすごくラフな図で申し訳ありませんが、実体験を元にした感覚を図にするとこんな感じになります。
最初は意気揚々とテンション高めで取り組み始め、途中絶望的とも呼べる状況をくぐり抜け、最後は強い達成感と共に脱稿というフィナーレにたどり着きます。
もしこれから本を書かれるなら、点Bと点Cの落差についてあらかじめ覚悟を持っておいた方がよいでしょう。少なくともその存在を知っていれば、回避はできなくても対ショック体勢ぐらいは取れるはずです。
ちなみにうまく書けなくなった時は、
- (仮)のつもりでラフに書く
- 前の部分を読み返す
- 全体像の確認をしてみる
あたりの対処法があります。
最終手段は「気分転換に、まったく別のことをする」ですが、早々に切れるカードではないので慎重に扱って下さい。
その3:時間がかかる
とにもかくにも、本の執筆には時間がかかります。
はたから見ると、物書きはお気楽な商売に見えるかもしれませんし、実際ある部分でそれは正しいのですが、執筆が非常に手間のかかる作業であり、地道な活動の積み重ねであることはやってみるまではわかりませんでした。当然、手間だけではなく、時間もかかります。
上の記事でも触れられていますが、
「1日に書ける文字数は限られている」
という点は、見過ごしやすいポイントです。執筆に使える時間が限られていることだけではなく、1時間に2000字書けるからといって、2時間で4000字、4時間で8000字書ける、という計算が成り立たない点もあります。連続使用で、脳がオーバーヒートしてしまうのです。そうすると、遅れた分を「あとでまとめて取り返す」ことも、なかなかできません。
原稿が完成したら完成したで、その読み直しが必要になってきます。この記事であれば2000字程度ですが、一冊の本ともなると8〜10万字規模になります。それら全てを、いちから読み直すのです。それも何度も。考えただけで頭がクラッとしてきますね。
というわけで、本の執筆を目指す方は「ちょちょちょーいと書いて、バババーンと仕上げる」という曖昧なプランニングは止めた方がよいでしょう。一日5000字書き続ければ、10万字の本なんてあっという間、というのは頭の中だけでしか存在できない空想プランニングです。
さいごに
本を書くようになって、「本を書く」ことについての印象はずいぶんと変わりました。
毎日地道な仕事が続きますし、ぶつかる問題の難度は異質です。どこかの本にその問題の答えが書いてあるわけではありません。なにせ、これまで書かれなかった本を書くわけですから。
その分、「本を書く」ことに、予想以上の楽しさを感じたりもしています。難しいからこそ、奥深さがある、ということかもしれません。なんであれ「仕事が楽しい」のは良いことです。
今後、電子書籍が盛り上がってくれば、本を書く機会を得る人も増えてくるでしょう。いろいろ困難にぶつかるとは思いますが、チャンスがあれば思い切ってチャレンジしてみてください。きっと、思っていた以上の体験ができるはずです。
▼関連エントリー:
▼今週の一冊:
畑違いも甚だしいのですが、以下の本を読みました。
「憲法とは何か」を語った本、ではなく、新司法試験の憲法過去問の解き方(アプローチ法)を解説した本です。しかも、物語形式で。
単純な問題と答えの提示ではなく、どのような思考の手順を踏んで解答を書いていくのか。そういう普段は目に見えない「脳内」のプロセスがのぞき込めるかのような内容です。
しかし、畑違いなので意味が取れない言葉が出てきたり、とんでもなく長い一文が出てきたりと、微妙に戸惑う場面もちらほらありました。法律家の方は、日常的にこういう文章と接しているんだ、という新鮮な驚きも味わえます。
気軽に買える値段でも難易度でもありませんが、「考え方」を伝えるコンテンツの例として、なかなか参考になりました。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。