発想手法の一つに、「刺激語法」と呼ばれるものがあります。
やり方は簡単で、
「刺激を受けそうな言葉を書いたカード群を作り、ランダムに引いたカードから連想を広げる」
というもの。誰にでも簡単に使える発想術です。もし、「発想」を一度もやったことがない場合は、この手法から試してみるのが一番でしょう。
しかし、この方法には、ある種の問題があります。
それをEvernoteを使って解決してみましょう。
カード、カード、カード
刺激語法を行うためには、カードが必要です。それも数枚のカードではまったく足りません。アイデア出しは数が勝負です。
というわけで、「よし、これからアイデア出しするぞ」と思い立ってからカードを作っても、若干手遅れです。カード作りだけで、その日のアイデア出し作業は終了してしまうでしょう。
それに作ったら作ったで、大量のカードを抱え込むことになります。それを日常的に持ち歩くのは難しいものがありますね。
対策としては、すでに刺激語(トリガーワードともいう)が記載されたカードを購入する方法も考えられます。こうした製品は、厳選された刺激語が記載されているので、カードの枚数自体もそう多いものではありません。使い勝手もよいでしょう。
が、今回はあくまで「自作」にこだわってみます。突き詰めて考えれば、考具(考えるための道具)は、自作したものが一番使い勝手がよいものです。
刺激語の収集
刺激語法で使う言葉は、日常的に少しずつ収集していくのが一番です。そして、そういう細かいメモの保管はEvernoteが最適です。
気になった言葉を、スマートフォンでEvernoteに保存しておけば、徐々に刺激語が蓄積されていきます。専用のノートブックを作ってもよいでしょうし、「刺激語」というタグをつける方法もあります。そのあたりは、自分の運用方法の中で違和感のない方を選んでください。
収集する刺激語には、大きく分けて二種類あります。
一つは、「単語」。多くは名詞になるでしょう。人や物や概念や現象の名前です。「タブレット」「ミシュラン」「地酒」「萌え」「ネットワークビジネス」「ハイブリッド」・・・、なんでも構いません。自分がなんとなく気になった言葉をメモしていきます。
もう一つは、「疑問文」。名詞よりも、さらに強く連想を促すものです。「逆の立場から考えてみるとどうなるか?」「メリットをたった一つに絞るとすると?」「もし前提となるルールがなかったらどうなるか?」「人間にたとえるとどうなるか?」・・・、こちらもいろいろあります。
ビジネス書を読んでいれば、いくつも拾い上げることができるでしょう。直接疑問文の形で書かれていなくても、著者の考え方を疑問文の形で表現すれば刺激語として使えるようになります。
この二つは、区別して保存しておくとよいでしょう。
表にまとめてみる
「単語」を使った刺激語法の場合、異なる二つの単語を組み合わせて発想を進めます。
何か考えたいことがあるのならば、【その言葉+ランダムな単語】の形で、まっさらな状態からアイデア出しを行うならば、【ランダムな単語+ランダムな単語】の形になります。
実物のカードの場合は、シャッフルすることでランダムに単語を引っ張り出せますが、Evernoteの場合、それ単体ではなかなか難しいものがあります。
そこで、一工夫してみましょう。
これは、私が作った「アイデアワード表」です。10x10で、合計100の単語が表に収まっています。日常的に収集した単語をEvernoteの「表」に一つずつはめ込んでいきました。
※この作業はわりと面倒そうですが、やってみるとなかなか面白いです。
で、この表から言葉をピックアップします。
言葉の選び方はいろいろ考えられますが、10面体のサイコロを使うのが一番簡単でしょう。サイコロを二回振って、それぞれの数字を表の横と縦の座標に当てます。(2、9)と出たら「エンディング」、(7、7)と出たら「アルゴリズム」となります。この二つの単語から、何かを考えていくわけです。
10面体のサイコロは、少々マニアックなので、表を6x6にして、それを複数個作っておくのもよいかもしれません。6x6の表を6個作れば、216個の単語が”収納”できます。この場合サイコロを3回振って、何番目の表の、何行目の、何列目の単語、といった選び方ができます。
若干アナログ要素が混じっていますが、スマートフォンやタブレットとサイコロがあれば「刺激語法」を実施することが可能です。
EverShaker
個人的に、サイコロをころころ転がす行為はなかなか楽しいものですが、
「せっかくデジタルなんだから、もっとスマートにやりたい」
という人もいるでしょう。
そういう場合は、iOSアプリの「EverShaker」です。
ノートブックやタグの検索条件を使い、そこからランダムにノートをピックアップしてくれます。まさに、この手法のためのようなアプリです。
タグ「トリガーワード」を指定し、シェイクします。
ランダムで、ノートが選び出されました。スワイプしていけば、次々にノートが表示されます。
この方式であれば、ノート1つにに一つ刺激語を保存し、ノートブックかタグのどちらかで選別できるようにしておくだけで済みます。簡単ですね。
この方法は「疑問文」タイプの刺激語を使う場合に有用です。
さいごに
Evernoteは、知的生産の土台を支えてくれるツールでもありますが、一工夫すれば、発想を広げるためのツールとしても使えます。
不定期になりますが、そういった一工夫をちょこちょこ紹介していきたいと思います。
▼参考文献:
さまざまな発想法のやり方が紹介された本です。拙著『ハイブリッド発想術』を読んで、具体的な個々の発想法に興味を持たれたら、参考になる一冊です。
▼今週の一冊:
献本で頂いた本。
習慣を扱った本の中では、非常に読み応えがある一冊でした。なかなか分厚いですが、それに見合うエキスが含まれています。
習慣が持つ力と、そのメカニズムに注目し、いかにそれに変化を加えていくのかが話のスタートで、そこから個人の習慣→組織の習慣→社会の習慣と、徐々に視点が上がっていきます。
セルフマネジメントに興味がある方だけではなく、「企業文化」の作り方に関心を持っている人でも得るところが多い一冊でしょう。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。