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直感はどんなときに正しく働くのか?

ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?
ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか? ダニエル・カーネマン 友野典男(解説)

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上巻はすでに紹介しましたが、下巻はいきなり冒頭から引き込まれます。たぶん本書を読み出した人は「いつか出てこないかな…」と心待ちにしていたのではないかと思いますが、マルコム・グラッドウェルの『第1感』がやはり登場するのです。

グラッドウェルに関しては、シゴタノ!の倉下さんのこちらの記事もぜひ参考にしてみてください。

シゴタノ! グラッドウェルのコラムから受ける刺激の例


「直感」の驚異、面白さを、豊富な事例をひきながらよどみなく紹介するグラッドウェルの本ですが、対してダニエル・カーネマンは「直感には懐疑的」です。グラッドウェルに感心しながらカーネマンにも感心するということになると、読者として自己矛盾を覚えることになります。

マルコム・グラッドウェルは物書きであって心理学者ではありません。しかし心理学者のなかにも、グラッドウェルの立場、つまり「直感は信じるに値する」という立場を強力に支持する人たちは多くいます。その中心的な人物の一人がゲーリー・クラインです。フロイトやスキナーといった人たちほど有名ではないですが、名前をどこかで聞いたことがあるという人も少なくはないでしょう。

決断の法則―人はどのようにして意思決定するのか? (トッパンのビジネス経営書シリーズ)
決断の法則―人はどのようにして意思決定するのか? (トッパンのビジネス経営書シリーズ) ゲーリー クライン Gary Klein

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一般的な私達にしてみると、この二人の議論のどちらかを信奉するよりは、両者で信頼に値するコンセンサスを呈示して欲しいところです。つまり「直感は信じるに値するのか? 条件付きで信頼に値するのだとしたら、その条件をわかりやすく教えて欲しい」ということになるでしょう。

スキルとしての直感

私達にとってはありがたいことに、カーネマンとクラインは共同研究を発表するに至っています。これはなかなかのことです。意見の対立する有名ブロガー同士が激しく論戦し合って、炎上している様子を想像してみてください。

研究の方向として、「経験豊富な専門家が主張する直感はどんなときなら信じてよいか」とい質問に答えを出すことに決めた。当然ながらクラインは信じる方に傾くし、私は疑ってかかる方に傾く。この状況で私達は質問の答えを見つけ、合意をみることができただろうか。

 私たちは七、八年にわたって何回も議論し、多くの意見の不一致を解決した。一度ならず決裂寸前になった。何度も原稿を書き直し、友達になり、そして最終的に共同論文を仕上げることができた。論文のタイトルは、この過程を物語るものとなっている。「エキスパートの直感の条件—不一致には至らず」がそれだ。

▼こちらから全文をPDFから読むことができます(英文)
Conditions for Intuitive Expertise
A Failure to Disagree
www.fiddlemath.net/stuff/conditions-for-intuitive-expertise.pdf

しかし英文でなくても論文を全部読むのは面倒だと思いますので、結論だけを抽出してみましょう。カーネマン側から見た場合、両者が最終的に意見の一致をみたのは「専門家」が「規則性のある分野」という環境に従事しているなら、直感が磨かれうるという点でした。

よく心理学では「チェス」が取り上げられます。チェスの達人は直感的によい手を見つけ出せるというやつです。これならばカーネマン側にしても「主観的な自信に裏付けられて、簡単に間違う直感ではない」と認められるわけです。なぜなら「チェスの世界には規則性がハッキリとある」からです。

一方でカーネマンが攻撃する類の「直感的予測」は「明確な統計的規則性」がほとんどないものです。そういった分野においては「予測」などしなければいいのですが、人はそういうところでも「予測」したがり、自分に都合のいい「証拠」を集めてきて、本来答えるべき問いをすり替える。

ファンドマネージャーや政治評論家が長期予想をする状況は、予測妥当性がゼロに等しい。彼らの予測がことごとく外れるのは、予測しようとする事象が基本的に予測不能であることを反映しているにすぎない。

ファンドマネージャーや政治評論家がなんと思うかは分かりませんが、これがクラインとカーネマンが合意したポイントを、カーネマン側からした説明です。

もう一点、カーネマンは重要なポイントを指摘しています。即時的なフィードバックの有無です。直感をスキルとして磨く上で、私もこの点こそ大事だと思います。

例えばスキーを滑っているときには、とくに三五度以上の急斜面を降りていると「あ」と思うことがあります。この「あ」はだいたい正しくて、「このコブとザラメに突っこんだ後はコントロールをいくらか失う」という予測の瞬間的な感覚なのです。

こういう直感が即座に働くのは結局、かなりの回数痛い目を見たからなのですが、その「痛い目」に遭うのが予測の直後に起こるからです。ファンドマネージャーや政治評論家にとって不利なのは、予測が「長期予測」だからです。予測は、直後のことを予測しているわけではなく、したがってフィードバックが得られるにしても、三ヶ月や半年も先になってしまいます。

以上から、仕事に直感を活かしたいと思ったら、ないしは信頼していいかどうかで悩んだら

1.チェスのように法則性を見いだせるフィールドのことか
2.予測へのフィードバックがすぐ得られるか

をチェックしてみればいいでしょう。例えば私は物書きですが「この本が売れるかどうか?」を直感的に予測することは、だいぶ前からやめてしまっています。非常に法則性がわかりにくい上、書き出してから「売れる(売れない)」までのタイムラグが長すぎるからです。

▼編集後記:
佐々木正悟

4月21日 第8回タスクセラピー やりたいことはやれていますか?(東京都)

第8回タスクセラピー。お申し込みは本日真夜中までとなります。

今回は参加者に対してまたしてもコーチの方が多くいらして、1対2〜4の間に収まりそうです。

おたずねになりたいことを列挙し、リストアップなどして要らしていただくと、参加効果を増大できると思います。

皆様のご参加お待ちしております。