押して出ないものは引くと出ることが多い。
でも、一度は押さなければ引く余地が生まれない。そして、最初から引いてしまうと押すことを忘れてしまう。
選択肢は、「押す」と「引く」だけではない。「横にずらす」というのもあるし、「上に持ちあげる」や「下におろす」もある。
ふと『峠』の以下の一節を思い出す。
愚考いたしますに、人というものが世にあるうち、もっとも大事なのは出処進退という四つでございます。そのうち、進むと出ずるは上の人の助けを要さねばならないが、処(お)ると退くは、人の力を藉(か)らずともよく、自分でできるもの。拙者がいま大役をことわったのは退いて野に処る、ということで、みずから決すべきことでござる。それをそのようにふるまって帰ったまでのこと、天地に恥ずるところはございませぬ。
その場に「処る」という選択肢もあった。今、押すべきか引くべきか迷ったら、動くのではなくその場にとどまるというのも1つの手だと思う。