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勉強熱心なビジネスパーソンをドキッとさせる『君を幸せにする会社』

文章を書くうえで気をつけるべき心がけがいくつかありますが、その中で僕自身、掲げているだけでなかなか実践できていない心がけがあります。それは、

 「中学生が読んでもわかるような文章を書く」

こと。

どんなに良いことが書かれていても、それが難解でわかりにくいものであれば、そこに込められているメッセージが多くの人に伝えられることはないでしょう。

逆に言えば、中学生が読んでもわかるくらいに平易な文章を目指すことは、書いた文章に影響力を宿らせるための1つの手段となりえます。多くの人に浸透させる力を持つからです。

そんな中、本当に中学生でも読めるビジネス書に出会いました。

君を幸せにする会社『君を幸せにする会社』という本がそれです。

本書は、ある温泉街でリゾートホテルを経営しているクマ太郎の視点を通して、「苦境」から「幸せ」に至るまでの一部始終を描いた物語です。

書かれていることの多くはビジネスパーソンにとっては当たり前のことばかりですが、改めて「クマ太郎」の視点で追体験することによって、そのほとんどが実践できていないことに気づかされるでしょう。

例えば、利益の話。

クマ太郎は、このレストランが最近二号店を出店したという話を思い出した。かなり利益も出ているようだ。その利益の本質とは何なのか?

「どうしてレストランの客である僕は、材料費や人件費などの費用よりも高い価格を払っても高くないと感じるんだろう?

それはやっぱり、心地よい空間でおいしい料理を食べられるという幸福感に価値を認めているからなんじゃないか。

つまりお客様は、料理そのものではなくて、食事を通じて得られる幸福感に対してお金を払っているってことだ」(p.59)

これに類する話はすでに聞いたり読んだりしたことがある、という方も少なくないでしょう。

でも、それは実際の商売を通して身をもって学んだものでしょうか。多くの場合、単に知識として人から聞いたり本で読むことで「知っている」だけなのではないか、と思うのです。少なくとも僕はそうです。

一見正しそうに見える多くの知識は、現場の“洗礼”を受けることによって、そのメッキがはぎ取られ、その真の姿を見せるものです。例えば、クマ太郎は繰り返し次のように思い悩みます。

「会社の利益がお客様の幸せの対価という考え方は、本当に正しいんだろうか?」

クマ太郎は確信がもてなかった。ビジネススクールでは、そんなことは教わらなかったからだ。

「ビジネススクールでは、顧客満足や企業の社会的責任っていう考え方は教わった。でもそれはどちらかというと、やらなければならない義務のような感じだった。

顧客満足や社会的責任を無視してはいけないとは教わったけど、それが果たして利益をもたらすことになるんだろうか」(p.62)

社員からも、次のような“突き上げ”を食らいます。

「第一、社長は本気でお客様の幸せを考えているんですか?

どうせ会社の利益になるからお客様の幸せを考えてるだけなんじゃないですか? そんなのお客様を利用しているだけじゃないですか。偽善ですよ」(p.95)

このように、「そうか、こうすればいいのか!」という“正解”を知って満足していたところへ、「そんなのは偽善だ」という現実に打ちのめされる──。

クマ太郎は、頭で理解していることと実際の行動とが一致していないことがもどかしかった。

「どうしたら感謝の気持ちを忘れないでいられるんだろう。
 それができれば、もっとビジネスはうまくいくはずなのに」(p.147)

このクマ太郎の苦悩は、ビジネス書を読んで「わかった気になっている」多くのビジネスパーソンへの警鐘のように感じられます。

そんな中、ミスばかりするプー太という社員によって、クマ太郎は“目覚め”のきっかけをつかみます。

プー太はつねに感謝の心をもって幸せそうに生きている。
僕はプー太のようにつねに感謝の心をもち続けたいと思いつつ、つい日常のなかで感謝を忘れてしまう。

プー太と僕の違いは何なのか?

経営者と社員という立場の違いだろうか。それだけではない気がする。

「その違いをもたらしている原因に気づけば、もっと幸せに、楽しくビジネスができるんじゃないか」

そう思いながら、クマ太郎はホテルの庭を見つめていた。(p.153)

ここから物語は一気にクライマックスである終章に向かって舵を切っていくのですが、実はここに至るまでに読者はクマ太郎の心の変遷を追体験していますから、終章の中で明かされる“答え”を知ること自体にはあまり意味がないということを薄々ながら感じ取っています。

逆に言えば、終章だけを読んでも、それは「一見正しそうに見える多くの知識」をなぞるだけで終わってしまうということです。その“真の姿”に到達することができないのです。

是非、クマ太郎の視点で「クマの湯ホテル&リゾート」の経営を疑似体験し、知識にこびりついた手垢だらけの“メッキ”をはぎ取ってみてください。

君を幸せにする会社
日本実業出版社
発売日:2008-09-11
おすすめ度:5.0

同じ著者の『価値を創造する会計』の内容を中学生でもわかるように噛み砕いて書かれており、それでいて大人が読んでもスッと入って来ます。本文中にはイラストは一切ないのに、読み進めるうちに、そこにありありと動物たちのビジュアルが浮かんでくる不思議な本です。

▼合わせて読みたい:
終章の中で明かされる「ビジネスにおける真理」は、以下の本に登場する主人公が苦難の果てにたどり着く“答え”と重なるところが大きく、この2つを見比べることでより理解が深まるでしょう。

新装版マイ・ゴール これだっ!という「目標」を見つける本
イーハトーヴフロンティア
発売日:2005-10-23
おすすめ度:3.5

» 『これだっ!という「目標」を見つける本』 – シゴタノ!ショートレビュー

▼次にすること:
『君を幸せにする会社』を読んで自分が「知っていること」と「知っているつもりになっていること」を選り分けてみる

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