電車やバスでの移動中は本を読みます。でも、乗り換えで歩いている最中は本が読めません。よほど面白い本なら歩きながらでも読んだりしますが、危険です。
乗り換えで歩いている時間というのは時間にすれば数分でしょう。でも、自宅から目的地までという移動全体で考えると、歩いている時間、少なくとも本が読めない時間というのは意外と長いのではないか、と思っています。
というより、実際のところ長いです。例えばドアツードアで片道45分の移動をする時、電車に乗っている時間、すなわち本に没頭できる時間というのは半分以下の20分足らず。
残る25分はコマギレに分断された徒歩の時間や階段を上り下りしている時間、あるいは売店でガムを買ったり、といったことに消えてしまっているのです。
日々消えていくこの時間を毎日積み重ねていくと、
- 25分×往復×週5回=250分(4時間10分)
ということになります。
この時間を有効に活用する手段がオーディオブックです。
オーディオブックを仕事に活かすための10のポイント
先日、オーディオブックのポータルサイト「FeBe」を運営するオトバンクの上田社長とオーディオブックについて情報交換する機会がありました。
彼自身ももちろん、オーディオブックのヘビーユーザーで、仕事中でもずっとイヤホンをして「ながら勉強」を続けていらっしゃいます。
そんな上田社長の「ハック」もまぜこみつつ、「オーディオブックを仕事に活かすための10のポイント」をご紹介。
1.予備情報を排して聴く
本との大きな違いは、オーディオブックは原則として先読みや拾い読みができない点です。早送りをしたり、複数巻に分かれているタイトルなら、先の話を前もって聴くこともできますが、一手間必要です。逆に言えば、最初からきちんと聴くのが最も手間がかからない聴き方であり、そもそも順送りで聴くことを促すメディアといえます。
本の利点は目次から興味あるところを拾い読みしたり、見出しや太字の部分だけを追っていくことで、自分のペースで読み進められることですから、オーディオブックは対極に位置することになります。
では、オーディオブックの利点は何か。それは、“読み返し”がしづらいことです。一度通過したポイントは巻き戻しの操作をしない限りはもう一度聴けませんから、行きつ戻りつ自由に読める本よりもシビアといえます。
その分、聴き逃すまいと緊張感をもって臨むことができます。さらに、本であればイラストや図表といった視覚情報が理解を助けてくれますが、オーディオブックはひたすら聴覚だけが頼りです。おのずと、心を空っぽにして耳から入ってくる音に集中することになります。
人と対面して話すことのメリットは、常に相手の発する言葉にその場で応じることを強いられることでしょう。メールのやり取りであれば、時間を掛けて返答を検討することができますが、目の前に相手がいれば、即答といかないまでも、そうそう時間はかけていられないわけです。
オーディオブックについても同じことがいえます。オーディオブックはあなたのことなどお構いなしにどんどん話を進めてしまいますが、だからこそそのペースに追随すべく、自然と自分の力を可能な限り発揮するようになるのです。
聴き逃すまいという緊張感が集中力と注意力を高め、結果として多くを吸収できるようになります。
そういう意味では、「この話は知っているぞ」などという油断の入る余地をなくすためにも、予備情報は可能な限り排除して聴く方がいいでしょう。
2.歩きながら聴く
本と違って、オーディオブックが占有するのは聴覚のみです。視覚はフリーになっていますから、耳から入ってきた音とは別に、目から入ってくる情報は普段どおり“処理”されていきます。
すなわち、耳から入ってくる音声情報と目から入ってくる映像とが結びつけられて記憶されていくということです。
同じオーディオブックをもう一度聴いてみると、目をつぶって聴いていても、例えば「あ、この話は銀座線のホームを歩いている時に聴いたぞ」という、通常ならつながりえない記憶同士がつながっていることに気づくのです。
このこと自体は別段どうということはありませんが、ポイントは人の記憶は自分が身を置く場所と密接に関わるという事実です。
ずっと机にかじりついて勉強をするよりも、歩き回りながら耳で聴いた方が記憶に定着しやすいのではないか、と考えられるわけです。
3.短く刻んで繰り返し聴く
これも記憶の定着に関わる話ですが、1時間の話を1時間かけて1回聴くよりも、10分の話を1時間かけて6回繰り返し聴く方が記憶の定着という面では間違いなく有利でしょう。
これを応用するなら、オーディオブックを買うときは10〜20分程度の単位で分割されたものを購入すべき、ということです。少なくとも、ダウンロードが楽ちんだから、という理由で、例えば「2時間まるまる1本」という買い方はやめた方がいいでしょう。
また、2時間のコンテンツを聴き始めて、ちょっとした誤操作で次の曲にスキップさせてしまった日には目も当てられません。再生位置の時間を覚えているのならともかく、特に気にしていなければ時間を掛けて頭出しをするハメになります。
その点、短い時間単位で分割されていれば、こういったダメージは最小限に抑えられます。
僕自身はiPod nanoで聴いているのですが、シングルリピートにして「もういい!」となるまで1章分を繰り返し聴くようにしています。こうすることで、単位時間あたりに同じ言葉や文言が回ってくる頻度が上がりますから、頭に残りやすくなります。
さらに「もうこの章は飽きたから次に進もう」ということで、新鮮さを求めて主体的に聴こうという姿勢がはぐくまれます。
4.聴いたらレートをつける
そんな風にして繰り返し聴いているうちに「この章はいい!」と思ったら、レートをつけます。iPodですから以下のように「★」の数で「良さ」を表現できます。
5.聴いたら読む
オーディオブックに対応する書籍があれば、聴いた直後に読むことで高速で復習することができます。
一度耳で聴いていますから、字面を追うスピードが自分でもびっくりするぐらいに速くなるのです。時間を掛けてリフトで山頂までたどり着いて、そこから一気に斜面を滑り降りるような感覚です。
6.聴いたら調べる
ここから先は、本を読む時にもいえることですが、気になった言葉は時をおかずに調べることです。一度調べておけば、繰り返し聴く中で、その言葉を何度も耳にすることになりますから、やはり記憶の定着に役に立つでしょう。
7.聴いたら一週間試す
特にビジネス向けのオーディオブックでは、考え方や心がけなど、すぐには効果は出ないものの「是非やってみたい」と思わせる内容がひんぱんに登場します。せっかくですから、しばらくは試したいものです。
とはいえ、挫折を恐れるあまり、やるからにはきちんと準備ができてからにしよう、などと構えて結局ずるずると先延ばしにしてしまうケースが少なくありません。
そこで、一週間だけやってみる、という方法が有効です。
一週間やってみてイマイチしっくり来なければやめても良いことにするわけです。もちろん、一週間やってみてそれなりに手応えを覚えていれば、そのまま続けてしまえばいいでしょう。
8.聴いたら一つやめる
新しい習慣を始めるにあたって、障害となるのが古い習慣です。
逆に言えば、古い習慣をやめることができれば、空いたスペースに新しい習慣を“インストール”するのは簡単です。
何か新しい習慣を始めた人というのは、何をやめるかを決められた人なのです。
» やめるコツ
9.聴いたら人に話す
聴き終えたら、その内容を誰か別の人に話します。
わかっていたつもりでも、実際に人に説明しようとするとうまくいかないことが少なくありません。そういった自分の理解の「不確かさ」を確かめる上でも役に立ちます。
10.聴いたら書き取る
最後はテストめいていますが、聴きながら書き取るのではなく、聴いた後に思い出しながら書くことです。
人に話すのと同じような効果が期待できます。すなわち、聴けば分かることでも、それを一から人に説明するのは容易ではないのです。
おすすめのオーディオブック
「野心を抱け」(全7巻)
僕自身が繰り返し聴いているオーディオブックです。一部は以下でご紹介しています。
「史上最高のセミナー」
9人のセミナーを一気に聴ける贅沢な1本。「野心を抱け」のジム・ローンも最初に登場しますから、初めての方は、まずはこのオーディオブックから聴いてみるのが良いと思います。
聴き終えたら、同名の書籍で高速復習。ハードカバーだけに通常であれば歯ごたえたっぷりなところですが、オーディオブックを聴いた後なら、驚くほど短時間で通読することができます。読むのは初めてなのに既視感たっぷり、という不思議な感覚を味わいながら。
「プロカウンセラーの聞く技術」
最近聴いて感銘を受けた1本。8年前に刊行された以下の本のオーディオブック版なのですが、先にオーディオブック版を知って、慌てて本も買いました。
このオーディオブックが素晴らしいのは、通常は声優一人ですべてをこなすところを、会話例の部分に複数の声優を登場させて、リアリティと臨場感を持たせている点。
例えば、聞き上手な主婦の場合と聞き下手な主婦の場合とで、その違いがプロの声優によって巧みに演じ分けられており、本を読んで字面を追うだけでは到底得られない納得感が生まれます。
▼次にすること:
» オーディオブック生活を一週間だけ試してみる