昨日の佐々木さんの記事「資産としての時間と負債としての時間」の中で、次の一節に目が留まりました。
本を読んで、深く考えもせず気になったところに付箋を貼り、「あとで読もう」と考える。これは将来の時間を削りにかかっているという意味で、まるで時間のローンを組んでいるようなものと言えます。
僕自身も本を読む際には、ページの角を折り返したり(ドックイアー)、赤ペンでメモを書き込んだりといった、「あとで読み返して何らかのアクションを起こすためのトリガー」を仕掛けるようにしています。これは本に限らず、雑誌でも同様です。
ブログで紹介するという“出力先”があるために、まるまる死蔵させてしまうことはないのですが、それでもドックイヤーすべてが出力されるということはありません。
「まぁ、一部でも日の目を見ることができたから御の字かな」
というところで自分を納得させていました。
それでも、日の目を見なかった“トリガー”たちがまったく気にならないわけではありません。いえ、正直なところ、これらも何とか活用したい、と思っていました。
そんな折、この問題に真正面からスポットライトを当て、ズバリその答えに迫っている本に出会いました。
21世紀は「片付けができない人」にチャンスが
以下の本です。
この名前を聞いた瞬間、真っ先に古典名著として名高いジェームス・ヤングの『アイデアのつくり方』が思い浮かびました。
でも、中身を読んでみると、確かに思想としては似通っている部分はありますが、それはあくまでもオマージュであり、内容は今の時代、もっといえば「21世紀」という時代にフィットした実践的なものになっています。
この本のテーマは情報を片づけないこと。情報を片づけないって聞くと、「どういうこと?」という人も多いと思います。「情報は一度ラベルを貼ってフォルダに入れて片づけてしまうと死んでしまう!」。要するに情報をキッチリ整理するとダメよ!というのがこの本の主張。(p.13)
情報をのびのびと、ごちゃ混ぜに飼う。そうすることで一見まったく関わりのないように見える情報と情報とが結びつき、新しい知識やアイデア、視点など、新しい情報が生まれる可能性が高まります。(p.31)
著者は、情報を片づけずにおくことを「放牧」、新しい情報が生まれることを「交配」と呼んでいます。種の掛け合わせのメタファーですね。
そのうえで、様々な「交配」の事例が紹介されています。
情報の「放牧」と「交配」の手順
本書よりプロセスだけ抜き出すと次のようになります。
- 1.集める
- 2.寝かせる
- 3.放牧する
- 4.化学反応を起こさせる(交配)
- 5.アイデア!
このプロセスだけ眺めると、ジェームス・ヤングの『アイデアのつくり方』を連想させます。
1.事実を観察する(収集)
2.咀嚼する(整理)
3.放り出す(寝かす)
4.アイデアが飛び込んでくる(ユーレカ!)
5.現実に適用する(実用化)
でも、微妙に違うところがあることに気づくでしょう。そう、「放牧」と「化学反応」というステップの存在です。この2つに注意しながら、それぞれ見ていきます。
1.集める
ソースを大きく2つに分類しています。
- 1.本や雑誌
- 2.上記以外のすべて(人から聞いた話、テレビやラジオで耳にしたこと等)
1については、気になったところにどんどん付箋を貼っていきます(使用する付箋としてはこちらでもご紹介した、一部が透明になっているポストイット・フラッグが推奨されています)。
2については、「二軍ノート」を用意せよ、とあります。「二軍」というからには「一軍」もあるわけですが、著者はいずれのノートもモレスキンがよい、としています。
使い分けについては以下。
日々目にする、耳にする情報、面白かったことなどは、まずは第一ステップとして二軍ノートに記録しておくのです。
そして、その中からこれは面白い、興味深いと思ったものをあとでセレクトし、一軍ノートにデビューさせるのです。(p.72)
二軍ノートの段階では、ムダと思ってもとにかくメモをすること。後から必要ないと判断したら、一軍に昇格させなければいいだけだ、としています。
2.寝かせる
付箋を貼った本や雑誌、あるいは二軍ノートに書いたメモの一部が一軍に移されるわけですが、その前に1ヶ月寝かすべきだと主張されています。その理由としては次のようなことが書かれていますが、
- ウィスキーやワインの熟成のように、寝かせると味わいが出る
- 寝かせることによって記憶のシナプスを強化させる
いずれも料理番組における「きつね色になるまで〜」のような曖昧さが残ります。著者は明示していませんが、ここで大切なことは、「一定の成果を得るにはそれなりの時間が必要なのだ」という真理ではないかと個人的には思います。オーブントースターに入れたグラタンがこんがりと焼き上がるまでワクワクしながら待つ、そんなイメージと重なったからです。
それよりも、日々収集している情報ごとに「どの情報が一ヶ月の熟成期間を終えたか」を管理するノウハウが気になります。おそらく厳密さは要求されないのだと思いますが、冷蔵庫の中の賞味期限が気になる身としては、
「しまった、気づいたら2ヶ月寝かせてしまった!Σ(゚ロ゚ )!」
という事態は避けたいため、何らかのリマインダーをセットしているのかな、と思いながらこのあたりを読み進めていました。結局、関連する言及は見あたりませんでした、おそらく、どうでもいいのでしょう。
3.放牧する
いよいよ放牧の時がやってきました。時間がかかった分だけ期待も膨らみます。
でもフタを開けてみると、
- 手帳に連番を付けて書いていく
だけでした。片づけずに、すなわち整理分類は一切せずに、生のまま「ひたすら出てきた順に情報を並べていくだけ」だといいます。
手帳は、いつでも、どこでも、パラパラとページをめくることができると書きましたが、このアトランダムな情報の羅列もそういう読み方を可能にさせます。情報の羅列だから、どこから始まってどこで終わるということはありません。開いたページから牧場のチェックが始められます。(p.100)
これが放牧の実態、ということになります。著者はこの方式でモレスキンの手帳を何冊も情報で埋め尽くし、旅に出る時には、適当に数冊選んで持ち出すといいます。さしずめ“ポータブル放牧”というところでしょうか。ちなみに、1冊あたり約1000の情報が収まるそうです。
このあたり、アイデアマラソンの樋口健夫さんによる『「金のアイデア」を生む方法』とも重なります。
これを続けるのだ。そうすれば、必ず宝物を見つけることができる。これが本書のメインテーマである。
事実、私は23年間、アイデアマラソンを継続してきた。この経験を通して確信を持って言えることがある。それは感じたことを毎日、少なくとも一個、ノートか、手帳に(場合によっては、パソコンかブログに)、書き続けたおかげで自分の求めていた貴重な思いや、発想を見つけ出すことができた。また、多くのことを実現することができた。
4.化学反応を起こさせる(交配)
さて、このような手帳を活用した放牧を通じて次の3つの力が発揮できるといいます。
- 1.雑談力
- 2.プレゼン力
- 3.企画力
特に最後の企画力については次のように指摘します。
手帳における情報交配の一番気持ちがいい効果は、見知らぬ情報が出会って、そこからさらに新しい企画が生まれることです。Aという情報とBという情報から、Cというまったく新しい指針、アイデア、つまり企画が生まれるケースです。(p.111)
こうした“交配”はしかし、一朝一夕にできるものではありません。そこで、「交配を進めるためのちょっとした訓練」の方法が紹介されています。キーワードは既成概念。いいかえれば常識でしょう。
5.アイデア!
最後はゴールであるアイデアが生まれる瞬間です。
このように、一見、無関係な情報が交配して、そこに「筋」を通すひらめきがあると企画が出来上がっていきます。その組み合わせのタイミングの、ジャンプ力こそ企画力だと考えます。意表をついた組み合わせ、え、そっちに飛んでいくのという意外性。それをドシドシ鍛えていきましょう。(p.134)
デジタルで同じようなことはできないか
ここからは僕の意見です。本書の中では「手帳でパラパラ繰ること」が重視されているようですが、同じようなことはPC上でもできないかと(いつもそうですが)思います。
例えば、自分がブックマークした記事の概要やオンラインツールに書いたメモをiPodに転送して、ランダムに“再生”するような仕組みが考えられます。ちょうど、受験生が単語カードをシャッフルして繰るようにです。iPod touchならできそうですね。
オフィスにいるなら、Googleガジェット(あるいはウィジェット)でそのようなツールがあれば面白いかもしれません(誰か作ってください!)。
「今日のひとこと」というGoogleガジェットがあり、ランダムにいろいろなメッセージが出るのですが(誰かが登録しているのでしょうか)、ここに出てくるメッセージがすべて自分のメモという状態が目指すところです。
代替案というわけではないのですが、ローカルドライブの指定フォルダ内にある画像ファイルをランダムに表示する写真ガジェットを最近は活用しています。
昔描いたマインドマップに“再会”できたり、何の変哲もない風景写真に“示唆”を感じたり、といった効果があります。以前は、こういったツールはむやみに注意を逸らされるので毛嫌いしていたのですが、しばらくぶりに使ってみると新しい発見がありました。
この場合は、「いろいろなツールを使った経験」を放牧していた、ということになるのでしょうか。