今回は25と26を。デジタル時代の「情報整理」について考えた本たちです。
- 『グーグル時代の情報整理術』(2009)
- 『ライフログのすすめ』(2010)
『グーグル時代の情報整理術』
最初にお断りしておくと、今回紹介する二冊は入手しにくい状態になっています。おそらく中古か図書館で借りるしかないでしょう。そういう本を紹介するのは心苦しいのですが、それでも大きな転換点となった二冊ですので──再販されることを期待しつつ──紹介したいと思います。
ちなみに、2020年頃にビジネス書で「革命だ!」などと謳われているデジタルツールの使い方は、この本が書かれた時代からすでに提唱されていました。言い換えれば、ようやく時代が(というよりも、ツールの普及が)追いついてきた、ということです。
その本書の内容ですが、大きく三つのパートに分かれています。入手が難しいので目次も合わせて紹介しておきましょう。
目次
まえがき
パート1 自分を客観的に見つめ直す
第1章 自らの脳を探る旅
第2章 どうしようもなく間違った現代社会の仕組みと向き合う
第3章 自らの制約と向き合う
第4章 目的を明確にすることが重要
パート2 新時代の整理術を身に付ける
第5章 検索が重要なわけ
第6章 検索技術をマスターする
第7章 情報を目立たせるには
第8章 紙とデジタルの使い分け
第9章 電子メールを検索可能な”自分履歴”に変える方法
第10章 カレンダーをクラウドに保存すべき理由
第11章 文章とウェブ・コンテンツの整理
パート3 代償さまざまな困難に打ち克つ
第12章 注意の散漫をなくし、仕事に集中する方法
第13章 仕事とプライベートを融合させる方法
第14章 想定外の出来事に対処する
第15章 まとめ
エピローグ 考えるな、滑れ!
まずパート1では自分自身、あるいは自分が置かれた環境に向き合うことが提案されます。非常にまっとうな提案です。
自分が置かれた状況がどのようなもので、自分は何を欲しているのか、ということがわからなければ、物事を「整理」することなどできません。むしろ、それが「整理」の意義であり、「整頓」との違いでもあります。この点をすっ飛ばして「整理だ、整理だ」と叫んでいても、参加者のいない祭のようなものでしょう。
目標と制約は裏表の関係だ。制約は障害だが、目標は可能性だ。このふたつを明確に理解することが、最小限のストレスと労力で成功を収めるキー・ポイントとなる。物事を整理するには、現実的な制約を念頭に置きながら、目標に沿った行動を取ることが重要だ。
方法やノウハウの話をする前に、自分自身の目標と制約について考えておくことが大切なわけです。
続いてパート2では、情報の「整理術」が語られます。上の話を引き継げば、「誰にでも効果がある具体的な整理術」ではなく、むしろ個々人の環境に合わせた整理術が語られると想定できますが、実際にそれが指向されています。
たとえば、このシゴタノ!で記事を書いている執筆者は皆Gmailを使っていると思いますが(おそらくそうでしょう)、その「整理」の仕方は人によって違っているはずです(それもずいぶん違っているはずです)。ある人はラベルを多用するかもしれませんし、別のある人は自動の振り分けを多用するかもしれません。デジタルツールは(本来)そのような個人的な使い方に開かれているのです。
とは言え、デジタルツールを使う上で、ほとんど共通的とも言えるが「検索」を利用することです。何をどのように検索するのかは違っていても、検索を主力とする点はデジタルツールの利用においては共通しています。むしろ、デジタルツールへの親しみは、この検索との親しみにあるといっても過言ではありません。これは何度も指摘していい重要な事柄です。
検索を主力にし、自分の環境にあった整理体系を作り上げていくこと。さまざまな選択肢があるデジタルツールであるからこそ、重要な営みでしょう。
情報は、物事の整理に重要な役割を果たしている。したがって、今すぐにでもあなたに合った足場を組みはじめよう。巨大化しつづける情報のビルを管理する自分なりの方法を生み出してほしい。現在のあなたの足元にある足場には、どんな欠点があるのか? あなたにどのような制約をもたらしているのか? どうすれば改善できるのか? 本書の目的は、私の方法を押し付けることではない。しかし、この数章で紹介した足場は、私たちの脳や現代社会の実際の仕組みに最も適しているというのが、私の意見だ。
最後のパート3では、やや細かい話、作業を進める上での注意事項が語られています。これは仕事術として参考になるでしょう。
『ライフログのすすめ』
こちらはかなり極端な主張がなされているので、まとめるのも簡単です。
「自分の人生に関することは、何でも記録せよ」
2020年のテクノロジー状況でも、本書が主張するような完全記録はさすがに難しいものがあります。その意味で、今から読み返すと「やっぱりそこまでは無理だよね」という感覚が湧いてくるのですが、それはそれとして「記録は役に立つ」ことを再確認させてくれる一冊です。
完全記録の意義については、たとえばテッド・チャンの『息吹』というSF短編集を読むことでさらに深めて考えることができるでしょう。人の記憶以上に記録が信頼される社会は、どのようなものになるのかは興味深いテーマです。
とは言え、そこまでいかなくても、私たちがあまりに多くの物事を忘れながら生活していることは間違いありません(その記憶の選別が脳の重要な機能でもあります)。記録を残し、それを振り返り、自分について知って、そこから生き方を考える。それぐらいの用途の「記録」であるならば、現代でははるかにたやすく残せるようになっています。別段自分の人格をAIとしてネットに残すところまでいかなくてもよいのです。
デジタルツール(というよりもスマートフォン)の普及によって、個人でも簡単にテキスト、写真、音声の記録を残せるようになりました(ついでに位置情報も)。一方で、それらの情報を十分に意識して使えているかというと微妙なところでしょう。
そういった話が「市民の技術」として取り込まれていくのは、これからの話なのだと思います。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。