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「変われない」を変えよう

倉下忠憲
チップ・ハース&ダン・ハースが送る『スイッチ!』は、彼らの前著『アイデアのちから』のアップデートバージョンと言えるでしょう。しかも、大がかりなアップデートです。

スイッチ!
チップ・ハース, ダン・ハース
早川書房 ( 2010-08-06 )
ISBN: 9784152091505
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 
『アイデアのちから』は人の記憶に焼き付くアイデアの組み立て方がメインテーマでした。力強いアイデアは人の行動に変化を与えます。本書はその「変化」に焦点を合わせた内容になっています。テーマは「ちょっとした工夫で、変化を容易にする方法」。

登場するのは、「象」と「象使い」です。

 

変化についての意外な事実

「行動に変化を与えたいと思っているけども、なかなかうまくいかない」

そういった場合、変化に抵抗する人を責めたり、あるいは新しい習慣が身につかない自分をさぼり癖があると考えたりすることはよくある事です。本書を読み進めていく内に、そういった考えはあまり意味をなさない事が理解できます。

「変化」についての3つの意外な事実として、

  • 人間の問題に見えても、実は環境の問題であることが多い
  • 怠けているように見えても、実は疲れきっている場合が多い
  • 抵抗しているように見えても、実は戸惑っている場合が多い

があげられています。

直感に反するものがあるかもしれませんし、あるいは「そう言われてみれば」と思い当たるものもあるかもしれません。本書では、心理学の実験を引きながらその理由を説明し、また成功している実際例から具体的な一般解を導き出していきます。

本書が優れている点は、「記憶に焼きつく」「フレームワークとしてまとまっている」の二つがあると思います。

 

記憶に焼きつく

本書の中では人の行動に影響を与えるものとして「感情」と「理性」が上げられています。もしこの二つの関係性を対等な関係、あるいは「理性」が絶対的に優位というイメージで捉えてしまっていると大きな過ちを生むことになります。

著者は、私たちが持つ感情を「象」、理性を「象使い」に喩えに用いています。表紙にも大きな象にまたがるライダーのクリップが載っています。

象にまたがって手綱をつかむ象使いは、一見するとリーダーに見える。しかし、象使いの制御は不安定だ。象使いは象と比べればはるかに小さいからだ。体重六トンの象と象使いが進む方向でもめれば、負けるのは象使いだ。

これが「感情」と「理性」の関係性です。一時的には「理性」でコントロールできたとしても、それは続きません。嫌がる象の手綱を引っ張り続けるほどの力が象使いにはないからです。変化を与え、それを持続させるためには、象と象使いその両方に同じ方向を向いてもらう必要がある、ということです。

「感情」と「理性」の関係が、この喩えを用いることで理解しやすくなります。ポイントは「理性が優れていて、感情が劣っている」ということではなく、それぞれが異なった役割を持っているという点です。行動に変化を与えるためには、それぞれの役割の違いを意識しながら、適切なアプローチを選択する必要があります。

ちなみにこの「象と象使い」を、前著「アイデアのちから」のSUCCESで分析してみると

・単純明快である →象と象使い。シンプル。
・意外性がある  →理性が感情よりも強いと考えている場合は意外。
・具体的である  →抽象的な「理性」や「感情」を実在の象や象使いで喩える。
・信頼性がある  →読み進めていくうちに・・・
・感情に訴える  →いやがる象を無理矢理引っ張り、疲れ果てる象使いは印象的。
・物語性      →象と象使いが同じ方向性を向いて、「変化」の道のりを歩くイメージ。

となります。「記憶に焼きつく」要素が込められていると思います。

 

フレームワークとしてまとまっている

「変化」についての3つの意外な事実と「象と象使い」の喩えを組み合わせて、行動を変える際の3つのステップが提唱されています。

  • 象使いに方向を教える
  • 象にやる気を与える
  • 道筋を定める

このフレームワークを理解しておくと、何が変化を起こすのに役立つのか、あるいは何が変化を起こす上で邪魔になっているのかを捉えやすくなるでしょう。「あぁ、象使いが疲れているんだな」「おっ象がやる気を出したぞ」という感じです。

例えばGTDの「次の行動」を考えるのは、象使いに方向を教えることにつながります。次の行動リストに載っているのは、常に「具体的な行動」なはずです。そこには「どうやったらいいのか」と象使いが迷う余地はありません。

タスクを細分化するというのは、象にやる気を与えることに近いでしょう。小さいタスクであれば「これならできる」と象は思います。不安を覚える要素を削っていくわけです。

また、とるべき行動がチェックリストになっていれば、「道筋を定めた」ことになります。

このように、本書を読むと見知ったライフハックをいくつも発見します。ある意味で、散らばったライフハックを一つのフレームワークの元にまとめた一冊と言えるかも知れません。

 

まとめ

本書をお薦めしたい人は次のような人です。

  • 新しい習慣を身につけたい人
  • 組織の文化を変えたいと思っている人
  • 他の人の変化を手助けしたいと考えている人

本書を読めば、今までよりも「ラクに」変化を起こすことができるようになるでしょう。必ず変化が起こせるとは限りませんが、効果のないことに時間やお金を使う割合は減るはずです。

私なりに、本書の「変化に関するコツ」をまとめれば

「手に取れる、小さな変化を、起こし続けていくこと」

となります。

 

スイッチ!
チップ・ハース, ダン・ハース
早川書房 ( 2010-08-06 )
ISBN: 9784152091505
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 

▼参考文献:

成功するアイデアが持つ共通する要素とは何か。ありがちなアイデアを「記憶に焼きつかせる」ための方法。自分のアイデアをチェックする際に役立つ視点を得ることができます。

アイデアのちから
チップ・ハース, ダン・ハース
日経BP社 ( 2008-11-06 )
ISBN: 9784822246884
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

▼今週の一冊:

9月の1日から発売されるほぼ日手帳2011。その解説本です。京都のロフトに行って、糸井さんの発表会の後に思わず購入してしまいました。ちなみに私は2003年からずっとほぼ日手帳を愛用しております。

「たのしい手帳」に興味がある方は、ちょっとチェックしてみてください。いろいろな人のたのしい手帳の使い方が紹介されています。

ほぼ日手帳 公式ガイドブック 2011 いっしょにいて、たのしい手帳と。
ほぼ日刊イトイ新聞
マガジンハウス ( 2010-08-19 )
ISBN: 9784838721597

 

▼編集後記:
倉下忠憲
象と聞いて思い出すものの筆頭はやはり「Evernote」です。

 
というわけで、最近はずっと宣伝していますが、引き続いて自著の宣伝です。Evernoteのとっかかりがわからないな、という方向けの本となっております。

EVERNOTE「超」仕事術
倉下忠憲
シーアンドアール研究所 ( 2010-08-18 )
ISBN: 9784863540729

 
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。