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デジタルノートにおける検索以外の情報の利用方法



倉下忠憲デジタルノートでは、手軽に情報を保存できるがゆえに、蓄積される情報の量が尋常ではなくなります。それこそ「どこになにがあるのか」が体感的にわからなくなるのです。

結果、「検索したら見つけられるけども、検索しなければ永久に目に入らない」という事態がやってきます。

もちろん、それでも別に構わないというスタンスはあるでしょう。「過去に日経平均が3万円を超えたときの新聞記事を見つけたい」とか「Xさんの電話番号を知りたい」といった情報利用の形態であれば、実際問題はありません。

一方で、日ごろ気をつけたいこと、中途半端な状態で止まっている考え、ちょっと思いついたことなどは、そのような検索的利用だけでは十分ではありません。ここで言う「十分ではない」というのは、そうして保存した情報をうまく活かせていない、ということです。

では、どうすればうまく活かせるようになるでしょうか。

制限的保存

一番最初に逆説的なことを書きますが、保存する量を減らすことで「情報が目に入る」状態を維持することができます。いわゆるアナログノート的な発想です。なんでもかんでも保存するのではなく、自分が注意を向けたい対象に限って保存し、上限を決め、そこから溢れたものは削除してしまうやり方をすれば、上のような悩みは避けられます。

とは言え、それはあまり「デジタル的」な解決ではありません。間違いなく有用な方法ですが、アレンジも考えてみたいところです。

固定表示

もう少しだけデジタルに寄せた方法だと「固定表示」があります。ツールでは「ピン留め」などとも表現される機能です。

どんどん情報が新しく追加され、フローが加速していく中にあっても、目に入る場所の情報が固定されているならば、「検索しなければ永久に目に入らない」状態は避けられるでしょう。Scrapboxにはまさにその通りの機能があります。Webブラウザでもタブをピン留めすることができます。良く使うものをそこにおいておけばたいへん便利です。

過去を振り返ってみても、野口悠紀雄さんの「押出しファイリング」というフロー更新型の情報整理術では、「神様ファイル」──使用頻度は低くても決して捨てられることのない封筒──を設定するのでした。これもまたフローの中のピン留めと言えます。

この「押出しファイリング」からも極めて重要な教訓が見出せます。それは、「情報を扱うアプローチは、一種類の流れでは不十分である」という点です。均一的な、あるいは統一的なやり方では、どうしても拾い切れない要素が出てきます。よって、単純に処理してしまうのはやめて起きましょう。「例外」を受け入れる気持ちが大切です。

ちなみに、この「ピン留め」をさらに拡張すると、いわゆるリスト/アウトライン型のツールとなります。すべてが固定表示され、フローによって更新されることがありません。すべての位置づけに、恣意的な意味が宿るのがこうしたツールです。

とは言え、「ピン留め」であろうと、リスト/アウトライン型のツールであろうと、「数が増えすぎたら機能しなくなる」という点は留意したいところです。フローによって更新されることはなくても、あまりに大量であれば一覧することは叶わず、どこに何があるのかもわからなくなります。数には注意が必要です。

ランダム呼び出し

さらにデジタルに寄せると、「ランダムな呼び出し」が考えられます。これまたScrapboxに備わっている機能です。ObsidianでもPluginで追加可能です。一方で、それ以外のデジタルツールではあまり「ランダム」な情報の呼び出し機能を見かけません。デジタルならではの機能だと思うのですが、不思議です。

ともあれ、ランダムで情報を呼び出すことは、「検索して情報を見つける」行為とはずいぶん違っています。「検索して情報を見つける」場合は、あらかじめ見つけようとしている情報があるわけですが、ランダム呼び出しの場合はそういったものがありません。散歩や散策に近いものです。非目的的なぶらぶら歩き。

アナログノートであれば、パラパラとめくってみたり、適当にカードを一枚抜き出す行為が相当しますが、デジタルであれば「意識的な操作」を抜きにランダム呼び出しが可能なはずです。まだそのような機能を実装したツールは見かけたことがありませんが、毎日一枚自分が指定したノートブックからランダムにノートを表示させる、という機能があってもまったくおかしくありませんし、その機能によって活用できる情報の幅は広がるはずです(Anki的な機能があってもよいでしょう)。

この方法をとれば、数がたくさん増えても問題ありません。数が増えるほど、ある情報と邂逅できる確率は下がっていきますが、ピン留めのように方法自体がまったく機能しなくなる、といったことはありません。その意味でも、デジタルノート向きの利用方法だと言えます。

関連想起

一番デジタル的な方法がこれです。その情報に近しい情報をセットで表示するやり方です。このやり方には、二つのタイプがあります。一つは、情報を探すときに近しい情報を表示する方法。もう一つは、情報を入力するときに近しい情報を表示する方法です。

前者は、たとえばGoogleで検索するときに一緒にEvernoteも検索してくれるといったサービスが該当します。その情報を検索するつもりのないところで検索が働くので、「検索しなければ永久に目に入らない」が多少緩和されます。ただし、やはり意識的な「探すこと」が必要なので、それほど強力ではありません。

一方後者はもっと強力です。情報を探すときではなく、入力するときに関連情報を提示するのです。これもまたScrapboxで実装されていますし、なんならScrapboxの一番の強みと言えるかもしれません。

自分が何か新しいことを入力している最中にキーワードをリンクすれば、そのキーワードに近しい(2hop先の)情報が提示されるのです。ここでは情報を意識的に検索する、という行為は一切行われていません。想起は、入力と並行して行われています。言い換えれば、アウトプットとインプットがここでは重ね合わせられているのです。

このやり方であれば、新しい情報を入力する動作を継続的に行っている限り、過去の関係ある情報を検索せずとも目に入れられる可能性を手にできています。逆に、何も入力しなければ何も想起はありません。つまり、新しく書くことが必須である、ということです。

これは一見デメリットのように思いますが、そういうわけではありません。この用途で利用したい情報は、資料のように保存するだけでOKなものでも、単語帳のように暗記するものでもないからです。その情報を使って、自分の思考をアップデートしていくことが主要な目的であり、そのためには常に新しく書いていくことがどちらにせよ避けられないのです。

よって、入力と出力がセットになっているこのやり方はきわめて強力だといえます。

もちろんこの方法でも、ノートの量がどれだけ増大してもまったく関係ありません。むしろ、増大すればするほど、ニッチな情報のつながりが生まれるようになります。まるでインターネットのように。

さいごに

本稿の内容をざっと振り返ってみると、「Scrapboxってスゲー」という話になりそうですが、もちろんこれは「ある情報の利用方法」を前提にした話です。資料保管庫や作業場所、そしてアウトラインの作成では他のツールが向いていることは十分ありえます。そのあたりは適材適所です。

とりあえず大切なのは、「情報を扱うアプローチは、一種類の流れでは不十分である」という点です。管理する人間として、ある画一性・統一性のもとで支配したい欲求が出てきますが、それは諦めておきましょう。情報が窮屈な思いをするだけです。

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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中