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なぜ今デジタルノートなのか



倉下忠憲なぜ、今デジタルノートなのでしょうか。もっと辛辣に言えば、「なぜ今さらデジタルノートについてなんか考えるのか」となります。

たしかに、パソコンの普及はもうずいぶん昔の話ですし、スマートフォンやタブレットは一家に一台レベルではなく、一人一台レベルで広がっています。当然、デジタルノートもまた、その中のアプリケーションとして個々人の手に渡っています。珍しくもない、ごく「当たり前」のツールになっているわけです。

だからこそ、デジタルノートの話をしようじゃないか、というのが私の意見です。

デジタルノートが目新しく、物珍しいツールであれば、たしかに話題性はあったでしょうが、それを使える人とそうでない人の格差が間違いなくありました。いわゆるアーリーアダプターだけに通じる話になるのです。しかし、そのツールが目新しさを欠き、「当たり前」のツールになったのならば、ようやくそれは広く開かれた舞台に立つことができます。

そしてそれが現代という時代なのです。

ノートのメンタルモデル

とは言え、ツールが当たり前になっても、その「使い方」までも当たり前になっているかと言えば少々怪しいところです。前回にも書きましたが、デジタルツールであってもアナログノートの延長線上で利用されている場面は少なくありません。言い換えれば、ノート利用に関するメンタルモデルがアナログノートのそれしかないのです。

しかし、それでいいのでしょうか。せっかくデジタルの力を発揮できるツールがあるのに、「ちょっと便利なアナログノートの代わり」としてだけ使うのはもったいない気がします。

何も効率性を最大化しようとか、スペックをフルに使おうぜという話ではありません。デジタルノートは、私たちと情報との付き合い方を変えてくれる可能性を持ってます。それを積極的に利用することで、私たちは情報をよりうまく(ないしは適切に)使っていくことができます。そうした情報との付き合い方の変化は、社会の情報化が進んでいくほどに重要性を帯びてくるでしょう。

ツールの変化

ツールの側も、ただじっとしているわけではありません。さまざまな変化を遂げています。

去年はNotionが無料ユーザーでも無制限にノートが作れるようになりましたし、Evernoteは先日のアップデートで「ホーム画面」という新しいインターフェースを手に入れました。現在開発が盛んなObsidianも、毎週のように何かしらのアップデートが行われています。すばらしい変化です。

もちろん、アナログノートでも、アイデアフルな商品が毎年発売されていますが、ハードウェアとソフトウェアではやはり改善のサイクルを回せるスピードが違います。短期間に少しずつ機能改善できるソフトウェアとしてのデジタルノートは、相当な速度で変化を進めていけるのです。少なくとも十年前のデジタルノート事情と現代のそれとでは大きく違っていると言って過言ではないでしょう。

その点はしっかりキャッチアップしていきたいところです。

十年間の蓄積

そして、一番大きな変化がアーリーアダプターの変化です。

デジタルノートが出始めた頃は、その使い方の方針が定まらず、さまざまな試行錯誤を積み重ねてきた彼らは、この十年を経て、デジタルツールの特徴を捉まえつつあります。つまり、得意なこと・不得意なこと、やるとよいこと・よくないこと、などを体験として理解しているのです。

ごく単純なことを言って、「十年分のデジタルデータをどのように運用するのがよいのか」は、実際に十年分のデジタルデータを貯めてみるまではわかりません。しかし、デジタルノートを始めるなら、誰もがいずれかはその地点にたどり着くのです。

すでにその経験をしているアーリーアダプター(すいません、私もここに含めています)の体験は、それをどのように利用するにせよ有用なものだと言えるでしょう。

今こそデジタルノート

上記な要素がさまざまに合致した結果、「今こそデジタルノートについて語るときがやってきた」と判断しました。五年前では早すぎたでしょうし、五年後では遅すぎます。まさに「今こそ」そのタイミングなのです。

ちょうど最近は『独学大全』のヒットもあって、「自分で情報を扱えるようになりたい」というニーズが高まりつつあるのも感じます。デジタルノートはまさにそういうニーズを応えるためにあると言っても過言ではありません。ある種すべてが自動のもので記録されうる現代にあって、わざわざ「自分でノートを取る」ことの意義がそこにあるからです。

だからこそ、今このタイミングでデジタルノートについて考えていきたいと思います。

デジタルノートテイキング連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲



突然思いついて、駆け足で作った本が発売されました。

ライフハック界隈で使われているツールのカタログです。よろしければご覧ください。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中