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メモとリストの魔の力



倉下忠憲前田裕二さんの『メモの魔力』にはこうあります。

メモは単なる”ノウハウ”ではなく”姿勢”である、というのが僕の意見であり、スタイルです。

また、堀正岳さんの『「リスト」の魔法』にはこうあります。

このように、リストはテクニックとして覚えればすぐに効果が出てくるものではなく、信頼して、心理的に向き合うことを通して効果が生まれるものです。

この二つが意味するところはなんでしょうか。

メモを取る姿勢

以前「メモを装備する」ことについて記事を書きました。

メモを即座に取れるようにしっかり「装備」しておくことは必要なことですが、それだけでは十分ではありません。「世界」に向けて、好奇心の眼差しをギラギラさせておくことが、最低限必要です。

そうした姿勢を欠いた状態でメモ帳をいくら「装備」していてもあまり意味がありませんし、生まれるものは義務的な記録だけになってしまうでしょう。当然そこから、知的生産が生まれることはありません。

なぜなら、知的生産の出発点が(一番広い意味での)好奇心だからです。好奇心を持ってメモを取り、取ったメモに対してさらに好奇心を向ける。その繰り返しの中で、思索はどんどんと発展していきます。

逆にいえば、好奇心をまったく欠いた姿勢では、新しいものは何も生み出せないでしょう。

リストとの関係性

リストについてはどうでしょうか。

リストを作る際でも、対象を把握しよう、整理しようという心づもりがまず必要です。機械的に項目をリストアップするだけでは十分ではありません。なぜか。

それは、そのようなリストアップでは、「リストに書いたから大丈夫」「要素はここにきちんと揃っている」とは思えないからです。逆にいえば、リストを書くときに大切なのは、そのような安心感を得られるようにリストを書くことです。

GTDに「信頼できるシステム」という表現が出てきますが、機械的にリストアップしただけのリストは信頼を置けないでしょう。頭をめぐらし、心を吐き出し、そこに書き出された要素について検討した結果として、「うん、これで大丈夫だ」と思える心境がやってきます。それを欠いたリストは、形式的にはリストであっても、「自分のリスト」とは言えません。それではうまく使えなくても当然です。

つまり、要素について検討したい気持ちがあり、その現れとしてリストが作られる。そういう構図が大切なわけえす。当然、その気持ちは、作られたリストそのものにも向けられるので、それがより大きなリストの作成(アウトライナーでいえば、一つ上の階層の作成)につながったり、すでに作成したリストを一から書き直す行為を呼び寄せたりもします。

そうした行為を継続的に行うからこそ、リストと私たちは結びつくのです。

根底にあるもの

メモとリストの話からわかることは、両方とも個人の生活にとってたいへん有用なツールでありながら、単にそれだけではツールに留まってしまう、という点です。

道具がそこにあるだけで、大きな変化は訪れません。実は、その道具を使おうとする裏側にある「姿勢」が大切なのです。言い換えれば、その姿勢を「現実」に作用させるためにツールが使われるとき、最大限の効果が発揮されます。

その姿勢は、当人がもともと持っている場合もありますし、ツールやメソッドに習熟していく中で開発される場合もあります。逆にどれだけやっても、それが芽吹かない場合だってあるでしょう。その場合は、いくら優れたツールを持ち込んでも、状況が変わることはありません。何か根本的な変化──個人的価値観におけるパラダイムシフト──が起きない限りは、そのままであり続けます。

さいごに

ツールやメソッドはたしかに有効です。しかし、そればかりに注目していると、大切なものを見逃すことになります。ある意味それが、「魔の力」の両側面ではあるでしょう。たしかに有効ではあるが、ついつい別のものに視線を向けてしまいたくなる誘惑が、そこにはあるわけです。

ツールやメソッドによって実現しようとしているもの、そしてそれを求める気持ち。その点について考えてみることは、ツールやメソッドを自分で活かす上では重要なはずです。

▼参考文献:

メモをいかに取るか、それをいかに知的生産に結びつけるのかが語られています。わりあい新しい本ですが、中身はデジタルではなくアナログ寄りです。

リストについて実用的かつ思想的に掘り下げた一冊です。



▼今週の一冊:

自己啓発書ではありますが、既存の「あなた自身を高めなさい」というアプローチではなく、「あなたを取り巻く環境を変えなさい」と解く一冊です。考え方的に、(努力や根性で解決しようとしない)ライフハックと親和性が高そうです。



▼編集後記:
倉下忠憲



日々、カメのように『僕らの生存戦略』の執筆を進めています。近々完成する見込みはまったくありませんが、それでも進んでいればいつかは終わるので、その良い感触を胸に抱いて進み続けたいと思います。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中