私はタスクシュートユーザーではありませんが、以下の記事を興味深く読みました。
» 「たすくま」でもタスクシュートでもログがすべての起点になる理由
つまりタスクシュートにおいて「ログがない」という状態は「まだ使ってない」という状態なのです。タスクシュートはすべての起点にログがあります。
「すべての起点にログがある」
ログが生まれるまでの段階は、ウォームアップ・ランみたいなもので、本番ではないわけです。
今回はこれについて考えてみましょう。
「見通し」を得ること
『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』(佐々木正悟)という本の付録に、大橋悦夫さんによる「TaskChute開発秘話」が掲載されています。そこには、記録について以下のような記述があります。
「見通し」は、実績記録に基づいた見積時間を合算することで得られます。見通しを得るために、特別な能力は要りません。1つひとつの仕事にどれだけの時間をかけているかを記録していけば、おのずと得られるものだからです。
作業記録を残すメリットは、ここにあります。シンプルな作業記録__たとえば、タスクの開始時間と終了時間のログ__だけでも、かなり効果があります。
そして、「見通し」が得られるようになると、それまでに比べてタスクに着手しやすくなる効果があります。面倒に感じていた作業でも、実際やってみたら7分で終わった、ということが記録としてわかっていると、次回同じタスク着手する際、心理的抵抗感が減るのです。
これは「記録」でなければ、効果がありません。かかった時間が記録としてわかっていないと、面倒という感情に影響されて、作業に取りかかるためのハードルはいつまでたっても下がらないのです。
脳が苦手なこと
別の視点から考えてみましょう。
『脳の中の時間旅行』(クラウディア・ハモンド)という本に「計画錯誤」という私たちの脳の特徴が紹介されています。長くなりますが、引用してみましょう。
作業にかかる時間を過小評価するこの傾向は、“計画錯誤”と呼ばれる。その原因は、すでに述べた、将来を考えるときの性質にある。それは細部を考えないということだ。遠い将来を考えるときほど、私たちは細部を無視する。ところがおもしろいことに、誰か他の人の将来を考えるときは、細部まで考えるのだ。自分以外の人が何かしようとするときは、その人が同様の作業をしたときはどのくらい時間がかかったか、そして途中で妨げとなりそうな要素もいろいろ考える。病気、思いがけない友人の訪問、疲労など。ところが自分で何かしようとしているときは、そうした情報をすべて無視して、その作業の本質だけを考える。
私たちは他人の計画ならば、細部までを考慮にいれて、その計画を評価することができます。しかし、それが自分の計画になると、うまくいかなくなるのです。とるべき行為だけが頭にのぼり、周辺に存在する雑多なタスクや、起こるかもしれないがあまり起こって欲しくないトラブルについては、無視しがちです。
そんな状況で立てられた計画は、楽観的にならざるを得ません。
こうしたものは脳の癖みたいなものなので、完全に回避することは不可能です。「うんうん、そういうことあるよな」と思っていても、やっぱり自分で計画を立てるときは、同じような狭い視野で行ってしまうのです。
3つの対策
「計画錯誤」を前提にしたうえで、「うまい計画の立て方」を考えると、いくつかの対策が思い浮かびます。
- 第三者に計画を立ててもらう
- 当事者が立てた計画を第三者に評価してもらう
- 当事者が計画を立て、結果によるフィードバックでそれを修正する
ちなみに『アリスの物語』の冒頭では、この「計画錯誤」が描写されています。主人公が自分の記憶を頼りに一日のスケジューリングを行えば、きっと買い物時間の見積もりを大幅に間違えてしまっていたでしょう。
そうならないように、アリスという第三者が主人公のスケジュールを立てています。ただし、主人公の行動ログを頼りに、という点がポイントです。その意味で、アリスの手法は1と3を合わせたものと言えるかもしれません。
ちなみに、タスクシュート方式は3になります。これも一つの方法です。
さいごに
完璧な計画を立てることに意味はありません。立てた計画によって行動を生み出せるかどうか。それが鍵です。
目標や計画を立てることは、モチベーションを刺激する意味でも重要です。でも、不思議なことに最初に立てた計画通りにいかないから、という理由で挫折感を覚えてしまう場合があります。で、それによって行動できなくなってしまう……。
行動を生み出すためのものだったはずが、それと真逆の働きをしてしまうのは実に皮肉な現象と言えるでしょう。
一番最初に立てる計画と、それによって生み出された行動とそのログ。これはウォームアップ・ランのようなものです。
「計画錯誤」を考えれば、そもそもその通りにうまくいくわけがないのです。でも、実際に取った行動とログは無意味ではありません。むしろ、おそろしく有効なデータです。なにぜ、現実として実行に移された行動がそこにあるわけですから。
一週間に6回やろうと思っていたことが、実際やってみると3回しかできなかった。そんな状況は残念かもしれませんが、一週間に3回ならできる、ということがわかったわけです。今度はそれを土台にして、新しい計画を立てれば、以前よりは現実的な計画になるでしょう。
そうしたことを行うためには、どうしても記録が必要になってきます。
ある程度ログを蓄積している人なら、こうしたことは「言われなくても」なことかもしれません。でも、これまで一度も作業記録を残したことがない人は、シンプルなものでもよいので(つまり、タスクシュート方式でなくてもよいので)、ぜひ記録をとってみてください。
なにかしら発見があると思います。
▼参考文献:
タスクシュート方式について書かれた一冊。
実際にタスクシュート方式で仕事を進めるかどうかは別として、タスク管理に降りかかってくる問題を理解する上でも、面白く読める本でしょう。
» なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか? ~「時間ない病」の特効薬!タスクシュート時間術
物理的な時間ではなく、私たちが体感する時間について書かれた本。
私たちの感覚的な時間が大いに歪むのならば、それを頼りに計画を立てるのはいかにも危ういということがわかるでしょう。記録の力を使うのが一番です。
冒頭部分は、まるっとタスク管理についてのお話です。そうとわからないようには書いていますが。
» アリスの物語 (impress QuickBooks)[Kindle版]
▼今週の一冊:
与える人が成功するらしいです。
そうなると、どうやったら与えられる人になれるかが気になるわけですが、むしろ「自分は何を与えたいのか」を考えるのがまっとうでしょう。「今一番人気の与えるものは、コレ!」みたいなものを追いかけるのはちょっと違っている気がします。
それよりなにより、やはり市民的倫理としてテイカーにならにように気をつける、というのが大切そうです。あと、できるだけテイカー的な人に近寄らないようにも心がけたいところ。
» GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 (単行本)
Follow @rashita2
驚くほどの速度で月末が迫ってきていますが、まだ「月刊くらした」計画7月分が完成しておりません。当初立てていた予定に無理があったということを、肌として感じている次第です(計画錯誤)。エンジン全開で進めて、何とか今月分は間に合わせたいところ……。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。