前回は、本文アウトライン以外のものもアウトライナーに乗せていいんだよ、というお話をしましたが、もちろんメインとなるのは本文アウトラインです。
今回は、これを育てていきます。
二つのルート
仮の章立ては以下のようになりました。
ここから次のステップに進むのですが、二つ道のりがあります。
- さらに砕く
- いっそ書く
「さらに砕く」とは、章レベルができたので次にもう一段階細かいレベル(項)について考える、ということです。いわゆるトップダウン的なアプローチですね。
たとえば、「第一章 情報社会とは何か?」という章ならば、ここにどんな項(項目)が含まれるのかを検討します。その際は、ブレストに関するノウハウや発想法が活躍することでしょう。
一方で、「いっそ書く」という手もあります。どういうことかというと、項目については考えずに、そのまま文章を書き下ろすのです。
いや、その言い方だと語弊が生じるかもしれません。もう少し詳しくみていきましょう。
ラフ・ライティング
ここでやることは、ゆるいフリー・ライティングとかっちりしたパラグラフ・ライティングの間のような行為です。それを、ラフ・ライティングと呼ぶことにしましょう。粗いとか大雑把という意味のroughです。
とりあえずは、「情報社会とは何か?」について、自分が考えていることを書きます。少なくとも、こうして章を設定しているのですから、何かしら書けることはあるでしょう。その「何かしら」を書いてしまうわけです。
実例は以下の通りです。
ご覧の通り、非常に雑な文章です。
- 一つひとつの文は読める程度でしかない
- 前後がスムーズにつながっていない部分も多い
- “『情報の文明学』を解説する。”のようにほとんど書けていない部分もある
- あんまり関係なさそうなことも入っている
上記のようなものをまるっと許容するのが「ラフ・ライティング」です。
人の動作は無意識の影響を受けるものですし、また、「書く」という行為ほど無意識から何かを引っ張ってくるものはありません。なので、どうしても「文章を書こう」とすると、上のようなことをしてはいけない、という意識が働きます(というか無意識が働きます)。
よって、ここでは「書かないで、書く」ことが必要です。「書く」という行為の裏側にある、「整った、きちんと内容のある文をつむがなくてはいけない」という認識を解きほぐすのです。
仮に警句としてそれを再表現すれば「判断は保留して、まずは書き出せ」となるでしょうか。これを徹底的にやってしまいます。
文章でアイデアを取り出す
当然、そこに書き出された文章はまったくの未完成品であり、そのまま使えるようなものではありません。それでまったく大丈夫です。
- こうして書き出した文章を、後から肉付けしていきます
- こうして書き出した文章の順番を、後から整形していきます
- こうして書き出した文章から、どんな項目が立てられるのかを考えます
- こうして書き出した文章から、文を移動したり新しい項目を立てたりします
つまり、この文章は次のステップを考えるための土台です。キッチンに材料を並べている感じが近しいでしょうか。
で、こうした見方を取るならば、これも「発想法」の一つだと言えます。頭の中から「文章」の形で、アイデアを取り出すこと。文章表現という形を取った発想法。それがラフ・ライティングです。
ラフ・ライティングのメリット
この発想法の利点は、対象に直接関係なさそうな(≒関係性が少し遠い)項目が出てくることと、項目自体にすでに矢印が内包されていることです。
たとえば「この章に含まれる項目は何か?」というような自問の仕方だと、その章に含まれ得るものしか出てきません。一方で、文章を書いてみると「そういえば」的に連想が広がっていきます。で、そうした連想は、アイデアの豊かさ的にも大切ですし、最終的な文章を「文章」として形付けるためにも有用です(※)。
※箇条書きが並んでいるだけのものは「文章」としては少し取っつきにくいものです。
また、一人ブレストなどでたくさんの項目を出しても、それらの項目は単独で存在しているだけであり、そこには(話の)流れがありません。だから、一見関係ありそうに見えて、話の流れに乗せてみたらまったくつながらない、ということが起こります。
この点が、「先に構造を作ってそれに合わせて書く」のが難しい理由の一つでもあります。自分の中でつながっていると思っていた項目が、あんがいつながっていなかったりするのです。
文章として頭の中の素材を取り出せば、つながっているものはうまくつながりますし、つながっていないものもその時点でわかります。
だからこそ、ラフ・ライティングでは「判断は保留」しなければなりません。話がつながっていない、ということがわかることもまた大切な情報だからです。
さいごに
いったん文章の形で書き下ろすと、わかることがたくさんでてきます。そのわかることの大半は「わかっていないこと」なのですが(なんという面倒な矛盾でしょうか)、わかっていないことがわかれば、そこから詰め始めていけます。
頭の中だけで考えることの問題はここにあります。わかっていないことがわからないのです。だからこそ、一度ラフ・ライティングをして、自分の頭の中の棚卸しをしてみると存外に話が進んでいきます。
▼今週の一冊:
先週も紹介しましたが、存外に骨太な一冊だったので続けて紹介です。ノート術の完成度としては、タスク管理におけるGTDくらいに高いメソッドです。基本的にはアナログノートの使い方なのですが、そっくりそのままその思想はEvernoteのようなデジタルノートでも援用できます。
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今こうして『情報社会の歩き方〜知的生産とその技術〜』の企画案も進めているわけですが、並行して『僕らの生存戦略』という本についても考えています。で、これがめっちゃ面白くなりそう(当社比)な予感です。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。