エンジニアのための時間活用術、第5回です。
今回は前回に引き続き、「タスク管理」について掘り下げます。
前回は「タスク」に集中しましたので、今回は「管理」について。
タスク管理の「管理」とは何をすればいいのか?
前回は「タスク管理」を「タスク」と「管理」の2つのパーツに分けた上で「タスク」について書きました。
「タスク」とは、次の3つでした。
- 1.アクション
- 2.プロジェクト
- 3.習慣
今回は「タスク管理」の「管理」について見ていきます。
「管理」とは処理工程
まず、「管理」とは何をすることでしょうか。何をすれば「管理」をしたことになるでしょうか。
それを知る上で、ドラッカーの『プロフェッショナルの条件』という本の以下の一節がヒントになります。
私の観察によれば、成果をあげる者は仕事からスタートしない。
時間からスタートする。
計画からもスタートしない。
何に時間がとられているかを明らかにすることからスタートする。
次に、時間を管理すべく、自分の時間を奪おうとする非生産的な要求を退ける。
そして最後に、その結果得られた時間を大きくまとめる。
すなわち、時間を記録し、管理し、まとめるという三つの段階が、成果を上げるための時間管理の基本となる。(p.119)
ここでは、管理すべき対象として「時間」が挙げられています。
この本では、別の箇所で時間を「他のもので代替できない資源」としていますが、どんなタスクも、それに必要な時間が確保できなければ前に進めることはできませんから、真っ先に目を向けるべきは時間ということになります。
そして、「時間を管理する」とは、「記録し、管理し、まとめる」とあるように、準備段階としての「記録」と、目的としての「まとめる」の間に位置する何らかの“処理工程”を指すと考えられます。
ポイントは「記録」にあります。
書いて残すことによって、後から眺めることができます。
どんな仕事であれ、それに取りかかっている最中というのはなかなか冷静にその正体に気づけないものです。
曲がりくねった道を道なりに歩いていたら、いつの間にか同じところに戻ってきてしまうようなもので、一度自分の歩いたルートを空から鳥の視点で俯瞰してみなければ、全体像が見えないわけです。
そのようにして全体像を把握することによって、実は近道があったことに気づくかも知れません。
仕事においては、もっと効率の良いやり方に気づくことがこれに当たります。
「記録」と「成果」の間にあるのが「管理」
『プロフェッショナルの条件』には、次のような事例が挙げられています(p.55)。
抜粋してご紹介します。
シアーズ・ローバック社:通信販売の注文処理の課題とその解決
- 注文に同封されてくる硬貨の勘定がボトルネックになっていた
- そこで、硬貨の勘定をやめた
- 代わりに封筒の重さを計ることにした(それでおおよその金額はわかる)
- さらに、注文件数のカウントもやめた
- 代わりに複数の封筒を束ねて重さを計り、1ポンドにつき注文件数40件とみなすことにした
- これらの重さをもとに注文処理と商品発送のスケジュールを立てるようにした
- この結果、注文処理の生産性は、わずか2年で10倍に向上した
つまり、お金にしても数量にしても「数える」という作業が負荷になっていたことが「記録」を通して見いだされたわけです。
そして、最終的に生産性10倍アップという「成果」につながっています。
このとき、「記録」と「成果」の間にあるのが「管理」ということになります。
事例を見ればわかるように、「管理」とは端的にいえば「やめること」といえます。
それまでやっていたことをやめているのに、成果が上がるということは、本来やらなくても良いことがそこに含まれていたからに他なりません。
近道に気づかずにえんえんと回り道をし続けていた、ということです。
では、どうすれば「成果」につながるような「やめること」を見つけられるのでしょうか。
ここが「管理」の難しさでもあり面白さでもあると思うのですが、ドラッカーの言葉を借りれば
- 「何が目的か」を考える
ということになります。
単に効率を上げるだけではなく、本来の目的に沿った効率アップになっているかということです。
硬貨をきちんと数えることが絶対条件であれば、硬貨をスピーディーに間違いなく数えるための仕組みや方法を考えた方が良いでしょう。
でも、多少の誤差があっても良いからたくさんの注文を処理したい、そして、その方がトータルで見たときに優れた成果につながるなら、硬貨をきちんと数えることはすっぱり諦めるわけです。
まとめ
以上をまとめると、「管理」とは次の3つのステップを踏むことと言えます。
- 1.現在の自分の仕事を知る(どんな作業があるのか?)
- 2.本来の目的に沿って取捨選択をする(不要な作業はどれか?)
- 3.得られた成果を評価する(ビフォー・アフターを見比べる=2は正しかったか?)
この3つのステップは、「コインつかみ」に似ているかも知れません。
アクリルの箱の上部に丸い穴が空いていて、そこに手を突っ込んでコインを鷲づかみにするとき、箱の中でどんなに大量のコインをつかめていたとしても、穴から手を抜く時にその大半がこぼれ落ちてしまうのでは意味がありません。
穴から手を抜く時の脱落数をいかに少なくできるかがポイントになるのです。
この穴の大きさが、今回の話における「時間」の制約にあたります。
いくらでも時間をかけて良いのなら「管理」は不要でしょう。
つまり、穴が手の大きさよりも大きいため、一度つかんだコインがこぼれ落ちることを考えなくて済むからです。
でも、現実には穴の大きさが決まっているわけですから、その中で最大の成果を上げるにはどうすれば良いかを考える必要があります。
そのための手段が、記録(どれだけコインをつかめるか)と管理(穴を抜けるためにどこまで諦めるか)と評価(得られた成果は当初の目的に沿っているか)という3つの自問というわけです。
» 連載記事一覧