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知的生産における情報の整理

倉下忠憲
前回は「モノ」と「情報」における整理について考えました。今回は「情報」の整理について、もうすこし詳しく考えてみたいと思います。

情報といってもさまざまな捉え方がありますが、今回は「アウトプットのために利用するもの」に限って考えたいと思います。
基本的に知的生産における「情報」はアウトプットするための材料です。その材料をどのように整理するのかが今回のテーマです。

 
あるテーマがあってそれに関する情報を集めている場合は「情報整理」はあまり難しくありません。一冊のノートでもクリアファイルでもよいので、集めた情報を一定の場所にまとめておく事で管理できます。

しかし、漠然とした情報収集においてはこの手法はつかえません。
明確に目的の見える情報となんとなく集めた情報を一緒にしてしまえば、後から利用するときに非常に「探しにくく」なります。

今回は「情報」を二つの軸───「いつ」使うのか、「どのように」使うのか───で分けて4つの分類をしてみたいと思います。

ちなみに、「いつ」は使うタイミング、「どのように」はその情報を使う目的・文脈といった意味合いです。

 

「いつ」だけ

特定の日に書かなければいけない文章に関係するデータや資料、アイデアなどです。「タスク」に連動する情報と言い換えてもいいかもしれません。

週一回メルマガでエッセイを書いていてそのネタを集めている、という場合に当てはまるでしょうか。あるいは、書き終えた文章を3日後読み直して修正するという場合には、3日後にその文章がすぐに参照できると便利です。

これは、特定のタイミングでその情報が参照できればよいので、「リマインダー」に関連させて情報を整理しておくと便利かもしれません。適したシステムとしてはGTDにおいて有名になった備忘録ファイルというシステムがあります。
※備忘録ファイルは参考資料『ストレスフリーの整理術』参照

 

「どのように」だけ

あるテーマにおいてまとまった文章を書く場合の情報整理がこの分類になります。知的生産においてはこの情報が一番多いのではないでしょうか。

ブログのネタや、企画書を書くときに使えそうなアイデアなどがその対象で、一つ一つをプロジェクトと考えて関連する情報をまとめておく方法が効率的だと思います。

実際例としては「ネタ帳」などがこれにあたるでしょう。そのテーマについて考えるときはそれを見ればOKというシステムを作っておけば安心です。

 

どちらもわかる

「いつ」「どのように」と明確に利用方法がわかっている情報です。例えば「明日更新予定のブログネタ」とか、「その週の金曜日にまとめるつもりの新企画のアイデア」などです。

後者ならば「金曜日」というファイルを作ってそこに入れておいてもよいでしょうし、「新企画」というプロジェクトにまとめておくこともできます。

先に挙げた二つの分類のどちらでも対応できると思います。

 

どちらもわからない

これが一番厄介な問題です。前回の「モノ」と「情報」の差で扱った「情報」にあたるものがこれです。

関心を持った新聞記事や「おもしろい」と思ったWebページ。使うタイミングもどのような文脈で使うかもわからない。ようするに「もしかしたら何かに使うかも」というレベルの情報です。新聞を隅々まで読んだり、ウェブサーフをしていたり、Twitterを眺めていたりするとこういった情報によく出合います。

このような情報には二種類の対応があります。

  1. そもそも収集しない
  2. 細かく整理しない

1は非常に簡潔です。「もしかしたら何かに使うかも」というレベルの情報は収集しない、と決めてしまえばその情報の整理に悩まされることはなくなります。当然、使いたくなったときに使えない、あるいは検索できない可能性はでてきます。

2は収集はするが本格的な整理はしないという方法です。雑多に集まってくる情報を細かく分類することには大変な労力がかかります。そして、その情報を再利用する可能性はかける手間に見合うものではないでしょう。

こういった情報については、集めるだけ集めておいて、後から検索するというシステムを利用する方が賢明です。アナログでこのシステムを構築するのはなかなか大変ですが、デジタルにおいてはグーグルデスクトップ検索やEvernoteなどのノートアプリを使えばかける手間は最小ですみます。

デジタルにおいては、何かしらのキーワードさえ思い出せれば、その情報を後から見つけられる可能性が出てきます。1の場合だと検索対象が全ウェブページになってしまうのに対して、2の場合だとPCファイルの中だけとかEvernoteの中だけと、検索する場所が限定されることで再発見できる確率はたかまります。

デジタルを有効に使うという意味では2のやり方が「費用対効果」としては良いかもしれません。

 

コウモリ問題

番外編的ですが、情報の整理で少し考えておきたいのは

「○○についてブログで書く」

と思いついたときの事です。これは「タスクリスト」にいれるべきでしょうか。それとも「ネタ帳」でしょうか。

こういった「コウモリ問題」に備えておかないと、後々ややこしいことになりがちです。
※「コウモリ問題」は属性が分類の複数にまたがる物が発生する問題。参考文献『「超」整理法』参照。

「タスクリスト」に入れれば、忘れる事はなさそうです。しかし、ネタを思いつく度に加えていけばそのリストがどんどん長くなっていきいきます。
逆に「ネタ帳」に入れておけば、他の雑多なアイデアの中に埋没してしまうかもしれません。

対応の一例として、ブログのアイデアをまとめた「ネタ帳」を作っておいて、その中で「どうしても書きたい」と思うテーマを日付でリマインドさせる、という複合形が考えられます。

「アイデア」なのか「タスク」なのかは一見はっきりわかりそうですが、意外に区別しにくい物が含まれる事もあります。そういった場合の対応も考えて整理のシステムを作る必要があります。

 

まとめ

今回は知的生産における「情報」の扱いについて考えてみました。

「情報」の整理で混乱するのは、使う目的が見えているものと、そうでないものをまぜて整理しようとしてしまうことが原因だと思います。

あくまで生産が目的である以上「どのように利用するのか」が整理のポイントになってくると思います。簡単にまとめると

・情報の整理は「それをいつどのように使うのか」の視点を軸にする
・使う見込みの低いものに関しては「手抜き」をする

となります。

整理ばかりに時間をかけて、生産行為の時間を失ってしまうのは本末転倒です。時間の使い方に関しても「整理」が必要なのかもしれませんね。

▼参考文献:

はじめてのGTD ストレスフリーの整理術
デビッド・アレン
二見書房 ( 2008-12-24 )
ISBN: 9784576082110
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

整理といえばGTD。GTDといえばこの本ですね。GTDって何?という方から始めたばかりの初心者さんにおすすめの一冊です。

 

「超」整理法―情報検索と発想の新システム
野口 悠紀雄
中央公論社 ( 1993-11 )
ISBN: 9784121011596
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

物理的ファイル(紙の書類など)の整理法「押し出しファイリング」を提案している一冊。整理についての考察も非常に面白いです。

▼関連エントリー:

整理を始める前に考えたいこと ~汝自身を知る~ 
「モノ」と「情報」の整理の差 

▼今週の一冊:

『フリー』に名前の感触が似ていますが、こちらは「行動経済学」の入門書と呼べる本です。この学問がどのような人々の手によって生まれ、何を目指してきたのかということに触れながら、人間のヒューリスティックや行動原理についての実験などが紹介されています。

「行動経済学」は企業対消費者の構図の中だけではなく、自分の認知の限界について知る上でも重要な分野だと思います。

プライスレス 必ず得する行動経済学の法則
ウィリアム・パウンドストーン
青土社 ( 2009-12-24 )
ISBN: 9784791765287
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 

▼編集後記:倉下忠憲
しばらく「整理」についての記事が続いています。考え出すと深いテーマであることに改めて気づかされます。整理とは一種の知的生産とも言えますし、行動様式(哲学)とも言えるかもしれません。

もうちょっと書き足りないので、たぶん次回も整理についてです(笑)

 
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。