※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

What You Think is What You Write.


unsplash-logoAllef Vinicius

倉下忠憲文章を書くときに必要になる、大きな二つのものが「書くこと」と「書き方」です。

『思考のエンジン』では、これをより精緻に捉え、「ライティング・プロセスにおける二つのテキスト操作」として〈ポイントの設定〉と〈アーチ〉が見出されています。


〈ポイントの設定〉に含まれるもの

  • 思いつき
  • 走り書き
  • 短い文章
  • パラグラフ
  • ライティングの展開を示したプロット
  • 問題を説明する「論旨」

〈アーチ〉に含まれるもの

  • アイロニー
  • 主張したいテーマ
  • 筋書き
  • 概念
  • 原理
  • 物事を説明する工夫
  • 内容をしめす表題

これらの要素を管理し、制御し、ときに創造するのが、テキスト・ライティングです。

そして、うまく文章が書けないときも、このどちらか、あるいは両方が関与しています。

異なる粒度、混ざり合う思考

「これについて書こう」と、「これはこう書こう」は、基本的に別の粒度、あるいは別レイヤーの事象です。たとえば、「物事を説明する工夫」は本文を整える際に効いてきますが、本文に直接記述されることはありません。

しかし、です。

それらは「私の頭の中」という同一の容れ物の中に入っています。しかも、脳はフォルダ管理をしないので、思い浮かぶときは一緒くたなのです。

粒度の異なるものを同時に扱おうとすれば脳は混乱しますし、また、「原理のことを念頭に置きながら文章を書く」というのもあんがい疲れるものです。

だったら、どうすればいいのでしょうか。

ヒントは、『アウトラインから書く小説入門』にあります。

意外な詳細アウトライン

『アウトラインから書く小説入門』では、小説を実際に書き始めるまえにアウトライン(プロット)を作ることが提案されているのですが、その中に「詳細アウトライン」というものがあります。


「詳細アウトライン」は、ストーリーの要所を詳しく並べたものなのですが、おそらく「アウトライン」と聞いてイメージするものとは少々、いやかなり異なっています。以下が、『アウトラインから書く小説入門』で提示されている著者の「詳細アウトライン」の冒頭です。

1. 本編の始まりはストーリーの少し前からがいい。でもどのくらい前かは未定──アナンがロデリック司祭の依頼を請け負う時? エイカーの戦いの時(ではない──単純なアクションだけで人物紹介がない、それが最優先事項:できるかもしれないが大変そう。できるかな)? 彼がケガする時? 戦いとケガの間?

端的な箇条書きリストではまったくありません。その場面がどんな場面なのかだけでなく、どのように描かれるべきなのかも合わせて書き込まれています。あるいは、そのアイデアや考察が書き込まれています。

簡単に言えば、この「詳細アウトライン」には〈ポイントの設定〉と〈アーチ〉の両方が書き込まれているのです。

すべてを書き出す

頭が真っ白で何も書けない場合は除いて、書こうとしているのに書けないときは、〈本文〉だけを書こうとしている場合が多いようです。

読み手の目に入る最終的なアウトプットを書こうとはするのですが、その頭の中にはうまく整理されていない〈アーチ〉が大量に潜んでいて、それが頭の中から文章を出すことを邪魔します。あるいは、脳の負荷が上がりすぎているのかもしれません。

どちらにせよ、対処は書くことです。考えていることを、そのまま書き出すのです。そのシーンについて、その説明について、その章について、その一部について、その図について、そのエピグラフについて考えていること、期待したいこと、発展的アイデアを書き出すのです。

どれだけ著者の頭の中を書き出しても、最終的に本文に残っていなければ何も問題はありません。ソースコードにおけるコメントと同じです。

とりあえず書き出して、それを参考にしながら文章を整える。そういう作業を繰り返して、徐々に本文に近づけていけば、全体としての脳の負荷は大きく下げられるのではないでしょうか。

さいごに

「本文」をダイレクトに書こうとすると、脳は同時にいろいろなものを処理しなければならないので、非常に疲れます。

それでも書けるならば問題はないのですが、どうしても詰まってしまうなら、いったん「本文」を書こうとせず頭の中にあるものをそっくり出してしまうことです。「書く」という行為のレイヤーをいったん舞台裏に引き下げてしまうのです。

たとえば、「//ここはもう少し短くまとめたい」という一文を書き出しておくだけでも脳の負荷は結構減ります。もちろん、それで「短くまとめる」ための作業が楽になったりはしませんが(それはそれで頭を使うわけです)、CPUが冷却されているような感覚はあります。

原稿用紙しか書くツールがない時代ならともかく、現代はデジタルのライティングツールがたくさんあり、いくらでも削除や変更は可能ですし、書き方を工夫すれば「コメント」以外を出力するようなこともできます。

だからじゃんじゃん考えていることを書き込んでいきましょう。

▼今週の一冊:

職業的コーダーではまったくないのですが、読みづらいコードを書くのはあんまりよろしくないなと最近痛感しまして、読みやすいコードの書き方を勉強しはじめました。たぶん、解説文を書く際にも役立つのではないかと思います。


▼編集後記:
倉下忠憲



レイヤー型のテキストエディタって、ほとんど見かけませんね。不思議です。まあ、自分で作ればいいのかもしれませんが。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中