本書のポイントはこの一節にはありませんが、とても印象的だったので引用しました。
ふと思いついて、ブラウザの選択が離職に関係しているかどうかを分析してみた。どのブラウザを使うかは好みの問題だろうから、関連性を見いだせるとは思ってもみなかったのだが、得られた結果に驚いた。
ファイアフォックスまたはクロームを使っていた従業員は、インターネットエクスプローラーまたはサファリを使っていた従業員よりも一五パーセント長く勤務していたのだ。
ちょっと真偽のほどに疑問が残るものの、要はIEやSafariをなんの疑いもなく使い続けている人よりは、Chromeなどをわざわざ使う人のほうが、会社員としても「有能だ」と言いたいようなのです。
Chromeだなんて…。と私は思いました。
人々の「デフォルト」ぶりに衝撃を受ける
私の知っている人やセミナーに参加してくださる方のほとんどはChromeです。少なくともIEを見ることはほとんどなくなりました。会社で強制でもされないかぎり、IEを使っているという人は本当にめったに見かけない気がします。
しかし…。
一歩外へ出てというかPTA総会などに出席すると、人々の「デフォルト」ぶりに衝撃を受けます。iPhoneユーザーなどとても少なくて、たまに使っている人に画面を見せていただくと、1画面。新しいアプリなど一つもインストールしてなかったりするのです。
あるいは「ガラケー」をそのまま完璧にデフォルトで利用している人だってちゃんといます。そんな人も私よりは年下です。
一般的に人間というのは、私などが想像するよりも、はるかにはるかに保守的で、現状への適応能力がきわめて高いものらしい。そう思わざるを得ないのです。私が間違っているのです。
ファイアフォックスまたはクロームを入手するには、少しばかり頭を使って別のブラウザをダウンロードしなければならない。
「今あるもの」をそのまま使うのではなく、みずから行動を起こして、よりよい選択肢がないかを探し求めるわけだ。
そしてこの自発的な行動が、どれほど小さいとしても、職場での行動を決定づけるヒントになる。
少なくとも私は会社の人事担当官にはなりませんし、面接して「ふだんお使いのブラウザはなんですか?」と尋ねようとも思いませんが、デフォルトに納得できないということは、それだけですでに相当程度に「変わっている」のかもしれません。少なくともそう考えてみる価値はありそうです。
スティーブ・ジョブズほど個性的であるためには、実に意外にも「Chrome」からほんの少し踏み出せばいいのだ。Chrome使っているならジョブズまでもうほんの半歩だと、ことを『ORIGINALS』は言いたいようなのです。
最低所得者層は一貫して、最高所得者層よりも「現状を支持する傾向がある」 ことがわかり、ジョストらはこう結論づけた。
「現状による害をこうむっている人ほど、逆説的ながら、その状況に疑問をもったり異議を唱えたり、はねつけたり変えたりしようとしないものである」
これは政治的な心理調査でもときどき指摘されるテーマではあるのですが、即座に納得する気にはなれません。しかしながら、私の政治的好みとは別にしても、政権の政策と、その政権を支持する「支持層」との整合性については理解に苦しむようなケースがしばしば見受けられます。
だからこそ「陰謀論」というものがよく指摘されるのでしょう。そういう見方にも一理あるでしょう。しかし、そもそも人は一般に現状と自分の利益が合致してようと反していようと「現状を支持する傾向がある」のだと考えるのも、同じくらい合理的だろうと思います。
というのも、ある種のウェブ・ブラウザから「遅延」や「突然死」などの実害を何度もこうむっているにもかかわらず、それを受け入れる点については頑なと言っていいほど「保守的」な人がマジョリティなのです。人がChromeを使わないからと言って、IEの陰謀にはめられているとはさすがに言えないでしょう。
あなたのお使いのブラウザはなんですか?
もしかすると、現状に適応すべく努力するより、ジョブズのような「改革側」に立った方があなたの気質に合っているのかもしれません。
ということを『ORIGINALS』を読めば読むほど考えさせられてしまうのです。そういう意味でこれは危険な本です。もしかするとこれこそが陰謀なのかもしれません。