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事前のアウトラインは「見通し」を得るため


unsplash-logoChang Duong

倉下忠憲文章を書く前に、アウトラインは作りますか。

私はあまり作りません。特に短い文章ならまず作りません。思いついたことをその都度書き留めていく感じで進めます。

しかし、長い文章だと話は変わります。必要に応じて事前に章立てを行い、その項目について検討します。アウトラインを作成するわけです。

では、そのアウトライン通りに執筆は進むか?

そうではないのが、この話の難しいところです。

作る手間と直す手間

事前に作成したアウトライン通りに執筆が進むことは、ほぼありません。規模の大小はあれ、何かしらの改変が発生します。追記、削除、配置替え、そうした「手入れ」が入ります。執筆の状況によっては、頻発することすらあります。

なぜかと言えば、実際に書いてみないとわからないことが結構あるからです。私はそれを「現地に行ってみないとわからない現象」と呼んでいます。で、「現地」の状況に合わせて執筆内容も調整が迫られるのです。

「だったら、アウトライン作りに時間など使わず、最初から執筆を進めていけばいいのではないか?」

おそらくそういうツッコミが入るでしょう。これは非常に正しい指摘です。ただし、前提があります。

アウトライン作りに使う時間 > 執筆時の調整で使う時間

この関係が成り立っているときは、アウトラインなど作らず、いきなり執筆を進めていけばよいでしょう。そうでないときは、一考が必要です。

旅行計画のメタファ

アウトラインというと、「概要」という感覚があります。直接書かれる原稿とは違っている感触があります。

しかし、それは、紛れもなく文章の一部です。文章の骨子です。

つまり、アウトラインを作っている段階で、もう文章を「書いている」のです。つまり、その段階でも「書かなければわからないこと」がいくつか判明します。とは言え、すべてではありません。あくまで全体の一部だけで、その粒度は非常に荒いものです。

旅行について考えてみましょう。

ガイドブックを買ってきて、旅行の計画を立てるとします。地図を見れば、明らかになることがいくつかあるでしょう。

仮にあなたが日本の地理に疎ければ、地図を見てはじめて「香川県と徳島県は近くて、神奈川県とは遠い」と発見するかもしれません。すると、香川県に行くなら今回は神奈川県に行くのはやめておこうと判断できます。

冗談を書いているように思われるかもしれませんが、頭の中にある「すんばらしい、しょせきのあいであ」というのは、香川県に行ってうどんを楽しんだ後、神奈川県で海軍カレーを食べる、みたいなものが簡単に混じり込みます。空想の中では、人は自由でいられるのです。

事前にアウトラインを作れば、そのような齟齬を減らせます。あらかじめ県同士の配置を把握した上で、旅行計画を作れるのです。もし、それがなければ、香川県でうどんを食べた後に、神奈川県がむちゃくちゃ遠い場所にあることを知り、海軍カレーは諦めるはめになるでしょう。あげくのはてに、実は食べたかったのはカレーの方だったのに、なんて悲しい事態すら起こるかもしれません。

小さい規模の文章の場合、こうしたことはさほど問題はなりません。セブンイレブンと間違えて隣のローソンに入っても、入り直せば済むだけです。もちろん手間は手間ですが、対処できる量の手間です。この場合は、いちいち「旅行計画」を精査する必要はないでしょう。

さいごに

事前にアウトラインを作るのは、その文章の「見通し」を得るためです。そして、その「見通し」は、予知でもなければ、予言でもありません。ましてや、命令なんてとんでもないものです。せいぜい、予測、あるいは推理といったものが近しいでしょう。

まずアウトラインを「書く」ことで、粒度の大きい情報を得る。さらに、本文を書いていく中で、粒度の小さい情報を得る。その追加の情報で、予測(あるいは推理)を変更していく。その積み重ねで執筆は進んでいきます。

ただし、たった一つの情報で、予測(あるいは推理)が根本から覆ってしまうことがあるように、粒度の小さい情報のせいで構成の大きな部分が変わってしまうことがあるのが困ったところです。でも、アウトライナーなら、そうした変更も容易にできますね。

つまり、アウトラインとアウトライナーは「変更」を支えるための道具なのです。

▼参考文献:

アウトライナーについてはこの一冊。

» アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~[Kindle版]


アウトラインについてはこの一冊。


▼今週の一冊:

一口に読書といっても、その実体はいろいろあるので簡単に語ることはできません。その点、本書は読書をいくつかのタイプに分けているので、ずいぶん実際的です。だいたい、本が好きで好きでしょうがない人と、案外そうでもない人に同じ読み方を迫るというのがいびつですからね。


▼編集後記:
倉下忠憲



最近Scrapbox熱が高まっています。特にそこで原稿が書けないかにチャレンジしています。今回の原稿もScrapboxで書いてみました。案外いけるものです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。