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ハイブリッド・オーサーという選択

倉下忠憲5月15日に以下の本が発売になりました。

» アリスの物語 (impress QuickBooks)[Kindle版]


ジャンルはライトノベルですが、初めての小説作品となります。電子書籍ということもあり、発売開始直後からご購入をいただけているようで、Amazonランキングも好調です。お買い上げいただいた皆様、どうもありがとうございます。

これでひとまず、「作家デビュー」したとは言えそうです。

つまり、ハイブリッド・オーサーとなりました。

ハイブリッド・オーサーとは?

別に、何にでもハイブリッド付けておけばよかろう、と考えているわけではありません。

ハイブリッド・オーサー(Hybrid-Author)とは、複数の媒体を対象とする著者のことです。私が勝手に命名しました。

もともと私は「物書き」と名乗っています。ビジネス書を複数書いているので、「ビジネス書作家」と見なされることが多いのですが、私の中にその意識はありません。

自分が書きたいものを書いたら、それが「ビジネス書」というカテゴライズを受けた、というだけの話です。しかし、カテゴライズは大きな力を持ちます。なので、「自分はビジネス書だけに限定している著者ではないですよ」というメッセージを__かなり遠回しに__含ませて「物書き」と名乗っていました。

ビジネス書・実用書でも、論評・書評でも、小説でも作詞でもキャッチコピーでも、面白そうだなと思ったら取り組む、というのが、私なりの「物書き」の定義です。

で、ハイブリッド・オーサーとは、ノンフィクションとフィクションの両方を執筆する、という意味__には留まりません。

たくさんの引き出し

  • 紙の本と電子書籍
  • 単独の本と、継続的なメルマガ
  • ノンフィクションとフィクション
  • (出版社経由の)商業出版とセルフパブリッシング

これらを複合的に行うのがハイブリッド・オーサーです。

節操がない、と言われてしまいそうですが、いろいろな表現の引き出しを使えることはメリットです。

ある種のジャンルやカテゴリには、どうしても方向性(もっといえば制約)があります。もちろん、それは良いことです。そうしたフレームがなければ、物事はうまくまとまりません。

しかし、商業出版の採算ラインに乗らないから__個人的にはすごく面白いと思う__コンテンツを引き出しにしまっておく、というのもどこか詰まらなさを感じます。特に、電子書籍によって出版のためのコストが大きく引き下げられた世界ならなおさらです。

特定の媒体には、その媒体に合わせたコンテンツを展開しつつも、単一の媒体には束縛されないように活動する。それがハイブリッド・オーサーです。

変化する書き手

電子書籍の登場によって、「本」というものが相対化されつつあります。

それに伴って、出版社や読者、購入体験や読書体験というものも、変化を迫られています。であれば、作家もその在り方に変化を迫られることでしょう。

今回私は「ライトなラノベコンテスト」の最終優秀賞受賞という幸運に恵まれ、出版社さん経由で小説を世に出せましたが、それがなくてもセルフパブリッシングでこの「アリスの物語」やメルマガで連載していた「Dr.hack」を出版するつもりでした。それが私のやりたいことだからです。

決められた「作家」という役割をこなす__のではなく、自分のやりたいことに適合したメディアを活用していく。それがこれからの物書きに必要なことなのではないかと感じています。

さいごに

とまあ、格好つけたことを書いていますが、「紙の本だけで食べていけないから、いろいろやっているんでしょ」と言われれば別に否定はしません。あるいは一種のリスクヘッジと言えなくもないでしょう。

あと、私が「いろいろなことをやりたい・書きたい」人であることも影響しています。興味の持ち方が雑食なのです。なのでメディアが限定されていると少々窮屈さを感じてしまいます。

タイトルにも書いたように、これは一つの「選択」です。必ず、こうやり方をしなければいけないわけではありません。利益を極大化させるなら別の方法もあるでしょうし、置かれている環境によってはまた別の選択もありうるはずです。

しかしながら、一つのやり方に__しかも、これまでのやり方に__とらわれる必要はないでしょう。新しい時代には、それに見合った新しいやり方があるはずです。

というわけで、来週からライトノベルが連載されるということもなく、引き続き「知的生産」について書いていきますので、よろしくお願いいたします。

» アリスの物語 (impress QuickBooks)[Kindle版]


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▼編集後記:
倉下忠憲



いろいろ慌ただしかったのが、ようやく一段落しました。「R25世代の知的生産」で扱いたいネタも貯まっていますので、ぼちぼちと取り組んでいきます。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。