» 前回:Re:メモから始める知的生活 その2「できメモ」 | シゴタノ!
前回は、「できるだけメモは一カ所に集めること」を推奨しました。そのために、保存ツールと保管ツールを分けて捉え、保管ツールについては一元化することについて検討したわけですが、そこで一つの課題が立ち上がりました。
効率性としては、断片性の保存ツールを使い、気体型の保管ツールにまとめる、というやり方が一番なのですが、はたして本当にそれでいいのか、という問題です。
情報のinとout
まず最初に情報のinとoutについて考えます。情報を取り込むのがin、情報を取り出すのがoutです。セーブとロードという言い方もしてもいいでしょう。
知的生活(あるいは知的生産)において、なぜ情報をinするのかと言えば、後からoutするためです。増えていく情報を眺めてニヤニヤしたいのならともかく、そうでなければ後から利用するために情報は保存されます。
だからこそ、情報は一カ所に保存するのが良いのでした。後から利用する際に、あちらこちらを探し回らなくてよい(あるいは紛失する心配がない)のは大切なことです。
もし、後から利用するつもりがいっさいないのなら、どこに保存しても構わないでしょう。言い換えれば、outという目的があるからこそ、情報を一カ所に集めるわけです。
outの種類
次に考えたいのは、outの種類です。情報の利用法にもいくつかのタイプがあります。
まず、具体的な目的がある場合。あるいは探している対象がはっきりしている場合です。「そうだ、あれについてはメモしておいたぞ」を思い出して、そのメモを探すのがこれにあたります。ここで強力なのは、言うまでもなく検索です。デジタルツールが飛び抜けて優秀な情報管理ツールである理由でもあります。
一般的な情報整理術では、この「具体的な目的がある場合」が想定されますが、実はそれ以外にも情報の利用法があります。
たとえば、その一つがいわゆる「セレンディピティー」です。予期せぬ出会い。自分が抱えている問題があって、まったく関係ない雑誌をパラパラと読んでいたら、〈期せずして〉解となりそうなアイデアと遭遇する。こうしたものもまた、情報の利用法ではあります。そして、このような利用法においては検索はさほど役には立ちません。検索とはまさに「目的の情報」を探す行為であり、〈期する〉情報を手にするための行為だからです(※)。
※この点からいって、不完全な検索機能の方がセレンディピティー性があがる、ということは言えるでしょうが、それはまた別の話です。
他にも情報の利用方法はあります。正確に言えばそれは「利用法」ではないのですが、たとえば書き留めていたアイデアの断片を追記して、膨らませていく、というのがそれに当たります。直接的に「利用」するのではなく、情報そのもの編集していく行為です。outのための準備段階と言えるかもしれません。
もしその準備段階が、明確なプロジェクトに紐付いている場合は検索行為は役立ちますが、そうでなければ、そもそも検索しようとも思わない(≒実行するためのコミットメントが発生していない)ので、検索だけでは不十分となります。
「断片性の保存ツールを使い、気体型の保管ツールにまとめる」アプローチが抱える問題はここにあります。
inとoutの重なり
たとえば、一冊ノートに時系列に次々書き込んでいくメモスタイルを考えてみましょう。連続性かつ固体型のアプローチです。
そうしたノートに新しくinを行う場合、ほとんど必然的に過去書いたものが目に入ります。つまり、意図しないoutが発生するのです。そこでは、パラパラと雑誌を見返すような効果が発揮されるかもしれませんし、昔自分が書いたことに関する新しい着想が生まれるかもしれません。「検索」以外の情報の利用が行われています。inとoutが同居することによって、情報が活性化しているのです。
ロディアのような紙片に書きつけたものをノートに貼り付ける場合(断片性固定型)でも、同種のoutが発生します。どこかのテキストファイルに書き留めておいたメモを、アウトライナーに移す場合でも、必然的にどこかの項目に位置させなければならず、そこでもやはり同種のoutが発生します。
このようにinとoutに重なる部分があることで、「具体的な目的がある場合」以外でも、保存した情報との接点が生まれ、それが情報を活性化してくれるわけですが、唯一、断片性気体型だけはこれが発生しません。
たとえば、Evernoteで考えてみましょう。iPhoneのメモアプリでメモを書き込み、それをEvernoteへ送信。以上、終了です。過去のメモが目に触れることは一切ありません。仮にそのメモがinboxノートブックに送られ、それを別のノートブックに振り分ける作業を行ったとしても、ノートをノートブックにドラッグすれば、作業は終了です。ノートの移動の際に、ノートブックの中身が表示されることはありません。inとoutが重ならないのです。
もちろんそれでも、「具体的な目的がある場合」なら問題なく情報は利用できます。なにしろ検索も強力ですし、「場所」や「時系列」で探すこともできます。しかし、それ以外の多用な情報の利用法に関しては、このアプローチでは活性化されていません。その点には留意が必要です。
さいごに
あとは上記の問題をどのように捉えるか、です。すでに大量に情報を利用しているので、これ以上活性化する必要がない、という場合は特に気にする必要はないでしょう。日常の情報生活が「具体的な目的がある場合」で埋まりきっているなら、それでも問題なさそうです。
ただ、もう少し情報の活性度を上げたいと望んでいるなら、inとoutの重なりに目を向けてみるのが良いでしょう。入れ換えや配置、貼り付けといった多少手間のかかる行為を差し込むことで、それが実現できるかもしれません。ただし、あまり重なりすぎると面倒さが利得を上回ってしまってメモしなくなるので、その点は注意が必要です。
▼今週の一冊:
あえで言うまでもないとは思いますが、一連のメモ連載のタイトルは、以下の小説のパク……オマージュです。
» Re:ゼロから始める異世界生活 1 (MF文庫J)[Kindle版]
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最近、自分用のツール作りに夢中です。ひたすらコードを書いています。とは言え、難しいプログラミング言語ではなくHTML+CSS+Javascriptだけなんですが、結構面白いツールができあがってきました。完成が楽しみです。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
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