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『反脆弱性』で不確実性を味方につける



倉下忠憲不確実、不安定なものは怖いものです。できれば、確実なもの、安定的なものを求めたい。そういう気持ちは、誰だって持ち合わせているでしょう。

しかし、どうあがいても不確実でしかないものに、確実性を求めてしまうと、手痛いしっぺ返しが待っています。日常の小さなところでは、確実性が機能するのですが、その裏では不確実性のエネルギーが蓄積していき、何の備えもないタイミングで一気にそれが爆発してしまう。100のうち99で成功して、最後の1ですべてが吹っ飛ぶ。そんなことが起こりえます。

世の中には、確実性を持ち込める分野もありますが、そうでない分野もあります。そして、私たちが生きる「人生」は、概ね後者に属します。だからこそ、不確実性との付き合い方を学ばなければいけません。

それを提示するのが、ナシーム・ニコラス・タレブの新刊『反脆弱性』(はんぜいじゃくせい)です。

» 反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方[Kindle版]


» 反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方[Kindle版]


概要

上下巻におよぶ大著ですが、その内容は大きく三つに分けられるでしょう。

  • 反脆弱性(AntiFragile)とは何か
  • どうすれば、反脆さ(はんもろさ)を利用できるか
  • 何をしてはいけないか

一つの目標は、反脆さ(読みは「はんもろさ」)を利用することであり、そのために反脆さ(反脆弱性)を理解する必要があります。とは言え、この「反脆さ」という物の見方は、実際的に利用しなくても、世界を眺める視点を、ひいてはそこから得られる風景を変えてくれるでしょう。その意味で、読み物としての面白さも十分にあります。

本書に登場するキーワードはたくさんあるのですが、中でも重要なのがオプション性とバーベル戦略でしょう。前者は、反脆さの理解に、後者は反脆さの活用に役立ちます。

細かい解説は本書に譲りますが、オプション制とは、ある種の非対称性であり、利益のあるときだけ選択できる選択肢のことです。ストック・オプションがわかりやすい例でしょう。

バーベル戦略はそのオプション性をベースにして、小さい(限定的な)リスクをたくさん積む代わりに、たった一つの大きな出来事から巨大なリターンを引き出す、という戦略で、これこそが著者が提案する不確実な状況を生き延びるための方策でもあります。

加えて、そのような戦略を、他者を利用して実施する連中、言い換えれば、他者にリスクを負わせる代わりに、リターンだけは自分が持っていくような「身銭を切らない」連中になるな、という倫理的な提案もあります。これも合わせて考えておく必要があるでしょう。

さいごに

おそらく、私たちの脳は秩序を好むようにできています。その方が脳のエネルギー効率が良いからなのでしょう。それはそれで別に構わないですし、日常の大半では問題も起こりませんが、無秩序でしかありえないもの、混沌としていた方が利益があるものに対して、同じような視線を向け始めると、歪みが生じてきます。

そして、人類全体を通しても、あらゆるものを「秩序化」「安定化」「確実化」しようとする動きが出ているのではないでしょうか。そのように押さえつけるほどに、その裏側で見えないリスク(ブラック・スワン)は高まっていきます。

「成功法則」を求めれば求めるほど失敗に近づいていく、というのは卑近な例でしかありませんが、私たちはもう少し、自分の手で制御できないものとの付き合い方を学んでいくことが必要でしょう。うまくいけば、そこから利益を引き出せるかもしれません。

とは言え、本書の対象はあまりにも広く、上記は本当にざっくりとしたまとめでしかありません。タレブの頭の中は、ぜひ本書を通じて覗いてください。おそらく、2017年でも飛び抜けて重要な一冊になるかと思います。

» 反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方[Kindle版]


» 反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方[Kindle版]


▼編集後記:
倉下忠憲



9月に入ってずいぶん涼しくなりましたが、家庭のあれこれがあってあまり原稿執筆に時間を使えていません。はたして9月中に電子書籍の新刊が発売できるのか……。乞うご期待。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


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