日々のタスク実行管理はタスクシュート(TaskChuteやたすくま)で、取りかかる順番に並べて上から実行していくのがベストだと考えていますが、2日以上にわたるタスクは別の管理システム、いわゆる「プロジェクト管理ツール」が必要になります。いろいろ試した結果、結局はEvernoteで管理するのがベストだというのが結論です。
プロジェクト管理ツールの良いところは、まさにプロジェクトを管理するためのツールであるために、プロジェクトを管理するうえで欠かせない機能が一通りそろっていることです。
当たり前なのですが、しかし、言い換えるとプロジェクトを管理することしかできないのが弱点だと思うのです。
プロジェクト管理ツールに新たにプロジェクトを登録するということは、実に「おおごと」だと思っています。言ってみれば、独自ドメインを取得して新しいブログを作るような感覚、あるいは、いま住んでいる家とは別に新たに執筆のための賃貸マンションを一室契約するような感覚に近いです。
もちろん、これから始めようとするプロジェクトが「おおごと」だからこそ、このようにしてうやうやしく儀式的なプロセスを踏むわけですが、すべてのプロジェクトが「おおごと」とは限らず、抱えているすべてのプロジェクトをプロジェクト管理ツールに登録するのは、目的の数だけブログを立ち上げたり、部屋を借りたりするようなもので、「やりすぎ」だと感じるのです。
実際のところ、新しいプロジェクト管理ツールを試すたびに、嬉々としてタスクを登録したり、期限を設定したり、タグを付与したり、といった「作業」が発生しますが、この作業はプロジェクトを前に進めることに直接寄与しないことがほとんどです。
昨今はデザインが美しいアプリケーションが増えているので、ひとたびいじり始めると、「プロジェクト管理ツールに、抱えているすべてのプロジェクトが整然と美しく並んでいる状態」を無意識のうちに目指してしまうことになりがちです。
その結果、プロジェクト管理ツールをいじっている時間ばかりが長くなり、肝心のプロジェクトはまったく進まないという事態が往々にして起こります。
がんがん進んでいるプロジェクトというのは、決して美しく整然と管理されているものではないと思うのです。
プロジェクト管理ツールにプロジェクトを預けることで引き出したいメリットは、以下の2つだと考えています。
- 1.プロジェクトの「これまで」の経緯が把握できること
- 2.プロジェクトの「これから」の流れが把握できること
1.プロジェクトの「これまで」の経緯が把握できること
「発端」に舞い戻れるようにする
意外と忘れがちなのが、「そもそもこのプロジェクトはどういう経緯で始まったんだっけ?」というプロジェクトの発生経緯です。
プロジェクトを進めていくうちに、この「そもそも」を忘れてあらぬ方向に脱線していき、しかもそれに気づかないということがけっこうあります。
そのプロジェクトを始めるにいたった背景やきっかけとなった出来事をふり返ることができれば、プロジェクトがうっかり“軌道”から外れることは減るでしょう。
たった一行のメモでもいいので、そのメモが書き起こされた日時と当時の状況が分かる記録があれば、「そうか、このプロジェクトはここから始まったのだ」と再確認ができます。
プロジェクト管理ツールに新たにプロジェクトを登録するとき「このプロジェクトの目的」のような項目に改めて“清書”されることになる内容だとは思いますが、どんなに丁寧に書いても、むしろ丁寧に書くほどに、プロジェクトに寄せる所期の想いというものが失われていくように感じます。
むしろ、プロジェクトの発端となったファミレスでのミーティングで、その場でナプキンに雑に描いたメモのほうが役に立ちます。ナプキンに手書きでメモを書かないとダメということではなく、「そのとき」の状況(コンテクスト)がありありと思い出されるような、未編集の状態の、生のままのメモが望ましい、ということです。
たとえば、以下は最近のタスクカフェ(ワークショップ)のテーマを決める際に、飲食店で描いたナプキンメモです。
描いた本人であれば、これを目にするたびに「あぁ、そうそう、これを伝えたかったんだ」と所期の想いを脳内に“リロード”できるため、常に「ナプキンメモを描いたときの自分」でいられます。
また、メモの日時を残しておくことは実は非常に重要です。
Evernoteにはそのプロジェクト以外のメモはもちろん、まったく関係のない読書メモや日々の生活上の記録なども一緒くたに保存されていため、「全てのノート」を時系列に並べてみたときに、そのときには気づかなかった意外な前後関係がそこに認められることがあります。
特に、直近に読んでいた本には強く影響を受けていることが多いので、改めてその本を読み返してみると、ヒントが得られることがあります。
「その後の経緯」を辿れるようにする
その後にやり取りしたメールや打ち合わせでのメモなども時系列に残しておくことで、現在進行中のプロジェクトがどのような経緯で今に至っているのかをいつでも再確認することができます。
タスク管理ツール的に言えば、そのプロジェクトに関する完了済みタスクの一覧を確認できる状態、ということになりますが、単に完了済みの「タスク名」が並んでいるのを見るだけでは、結果は分かるものの「どうしてこうなった?」はなかなか分からないでしょう。
シリーズドラマで、各話の冒頭で「前回までのあらすじ」をダイジェスト的に紹介することがありますが、この「前回までのあらすじ」が必要な理由は、各話の視聴の間に時間的な断絶を挟むからです。
この「前回までのあらすじ」は重要なシーンのみをダイジェスト編集した映像として提示されるため、一度でも観ていれば「あぁ、そうそう、こういう流れだったね」とすぐに合点がいきます。
もし、「前回までのあらすじ」が箇条書きの文字情報として提示されたら、合点度合いはぐっと下がるでしょう。
つまり、冗長にはなりますが、経緯をふり返る際には、リッチで生々しい形が望ましいのです。
Evernoteが有効な理由
僕自身、プロジェクトにおいてターニングポイントとなったメールや、打ち合わせ時に手書きでメモを書き込んだ資料のスキャンなどはもれなくEvernoteに取り込んでいます。
なんなら打ち合わせが行われたカフェの写真なども添えています。
ムダにノートが増えますが、これらのノートを連続的に読み返すことで、シリーズドラマの「前回までのあらすじ」を観るのと同様の効果が得られます。
「こういう経緯があって今があるのだ」というプロジェクトの「今」を正しく認識できるのです。
↓以下はあるプロジェクトでのミーティングメモです(モザイク部分にメモを残していますが、これらの写真を目にするだけで、当時の記憶がフラッシュバックします)。
2.プロジェクトの「これから」の流れが組み立てられること
「これまで」が正しく把握できるからこそ、ここを足がかりにして、目指すべきプロジェクトのゴールに到達するための「これから」の流れを組み立てることができます。
むしろ、「これまで」さえ正しく把握できていれば、次にすることはおのずと見えてくるはずなので、「プロジェクトを進めるために次に何をすればいいか?」という問いは不要になります。
僕が好きなプロデューサーのJ・J・エイブラムスが以下のようなことを言っていたのを思い出します。
» 『FRINGE/フリンジ』 あのJ・J・エイブラムスに尾崎英二郎がインタビュー!
インタビュアー:ストーリーは、どのくらい先まで考えられているものなのですか?
エイブラムス:沢山考えて準備しているね。しかし、ショウを作っているときには方法論がある。
それはね、物語が進む毎に僕らは何かを学ぶ、ということさ。ショウにとって何が必要で、何が適し、何が適さないかがその行程で判ってくる。そういう意味では、どこに辿り着くかというのは、完全には予測はできないんだ。
考えもつかなかったアイデアが、突如として湧くこともあるからね。
キャラクターがどう機能していくかということもその1つさ。
予めストーリーを考えていたとしても、実際に撮影を進める中から新しいインスピレーションが生まれ、当初とな異なる展開を見せることもあるわけです。
プロジェクトにおけるタスクの実行はドラマでは「撮影」に当たりますが、映像として作品が残るドラマと違い、プロジェクトにおけるタスク実行は意図的に記録に残しておかない限り「再生」することはできません。
そういう意味で、マイケル・ジャクソンの「This Is It」という作品はまさにプロジェクトの記録そのものですね。
監督は、ドラマの「これから」を考えるうえで、おそらく「これまで」を繰り返し観るはずです。
プロジェクトにおいても、「これまで」の記録を読み返すことがそのままプロジェクトの「これから」を紡ぎ出すことに直結します。実際のところ、僕自身がプロジェクトに取り組むときに最初にすることは、Evernoteに蓄積したプロジェクトに関するノート(メールのやり取りや打ち合わせのメモ)を読み返すことだからです。
もちろん、毎回すべて一から読み返すことはしませんが、「次に必要なことは何だろう?」という疑問にぶつかったときに、ヒントは過去のノートの中に必ず見つかります。
ノートを読み返しさえすれば、次に何をすればいいのかが分かる、ということは「ノートを読み返す」ことがイコール「プロジェクトを進める」ということになります。
「とにかくプロジェクトを進めないと」と焦るほどに空回りしがちなところを「とりあえずノートを読み返せばOK」と落ち着いて取り組むことができ、しかもきちんとプロジェクトが前に進むわけです。
関連
↓ナプキンメモの内容をもとに開催したタスクカフェの記事です。
↓J・J・エイブラムスのインタビュー記事に言及した記事です。