「超」整理法などで有名な野口悠紀雄さんがかつて、『「超」発想法』(講談社)という本の中で、文章を書く際、最も重要なのは核となるアイディアに基づいたテーマであって、それ以外はすべて二義的なものにすぎないという意味のことを書かれていました。
野口さんがいうには、その証拠に、たとえアイディアの剽窃者によって、自分では考えつかない巧みな比喩が使われていて、魅力的な事例を豊富にちりばめられていたとしても、アイディアを剽窃されたという気持ちはまったくおさまらないはずということでした。
これを読んだときは「なるほど、そうだろうそうだろう」と思っただけでしたが、まさにその通りのことが実際に起こってみると、「まったくそうだ!」と過去の自分を揺さぶってやりたくなります。
1人では何もできない。2人なら何でもできる
『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』は、まさに私が書きたかったそのままの内容です。ただし剽窃はいっさいされていませんが。
著者のウルフさんが私などを知るはずもないですし、本書は私などには及ばない巧みな比喩と、私ではとても不可能な人たちへの直接インタビューなど、まさに私が書いたよりよほど魅力的なレベルに仕上がっています。
しかし、これこそ野口さんが指摘した通り、私の気分はぜんぜん落ち着かないわけです。読めば読むほど、あまりに想定された通りの展開で、すぐ息がつまってしまいます。
本書を紹介するにあたって、私はこの本をまったく読む必要がないくらいです。読んで目新しいのは「事例」くらいのもの。その事例も、私が取りそろえていたものを豊富に含んでいるというか、ほぼ網羅され尽くしてしまっています。恥ずかしいといえば恥ずかしいことですが。
ウルフさんは私の10倍くらいの事例を揃えているわけですから。
本書は一言で言えば、「1人では何もできない。2人なら何でもできる」ようなふたり組みについてまとめられた本です。
たとえば「2人のスティーブ」(ジョブズ&ウォズニアック)がそうですし「ライト兄弟」、「ゴッホ兄弟」、Google創設者、キュリー夫妻、などなど。
本書にはまず、いまあげた300倍の事例がありますが、ここでつらつら書いていっても仕方がありませんから、このくらいにしておきます。
ただここで1つだけ「負け」惜しみを書いておくなら、日本のふたり組みの事例は今のところ出てきてませんし(今後出てくるといいのですが)、その点ではたぶん私のほうがいくらか多くあげられるでしょう。その点は、「網羅し尽くされて」はいないはずです。
本書には、ハッキリとした「弱点」もあります。
私自身、この企画が通ったらどうしようかと思っていた課題が克服されてはいません。それは「なぜふたり組みがいいのか?」という点です。あれこれ説明はなされているものの、「ふたり組み」の事例紹介のほうがはるかに読ませます。この本を書いたらきっとそうなるだろうな、という予想どおりのことが起こっています。
実は数社の編集さんとこの企画についてお話ししたときにも、同じ問題を指摘されました。そのうちに私は、「なぜ2人」なのかを考えない方がいいのかもしれない、と思うようになりました。むしろ、「どう2人?」を問うべきです。
つまり、それほど重要なパートナーとどのように巡り会い、その上でどのように「組んで」成功を収めていくべきなのか?
ビジネス書である以上、単なる評伝で終わってしまったらつまりません(実際は面白いけど)。どうして「2人」がとうまくいくのかという分析より、さっさと「ぼっち」を脱して、うまくいくふたり組みになってしまうことが先決でしょう。