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ScrivenerとUlysses、一見似た感触を覚えるこの二つの「文章管理」ツールは、実ははっきりとした違いを持っています。その違いはもちろん機能的な違いなのですが、それがツールの立ち位置的な違いにもつながっています。
今回は、その違いについて考えてみましょう。
Scrivener
Scrivenerは、ファイル志向であり、プロジェクト志向です。言い換えれば、一つひとつのプロジェクトに、一つひとつのファイルが割り当てられます。
実際、『セルパブ戦略』の原稿も、「月くら計画から学ぶセルフパブリッシング戦略.scriv」というファイルで管理していました。このファイルの中に、原稿のテキストデータや画像データ、執筆中に使いそうな資料や作業メモ、それに備忘録などをすべて詰め込んでいたわけです。
※ファイル名と実際の書名が違うのはご愛敬。
そのファイルを開けば、該当プロジェクトの執筆に必要なものはすべて出てくる。そんな環境をScrivenerは提供してくれます。
Ulysses
Ulyssesは、ワンライブラリ志向です。Evernoteと同じようにアプリを開けば全テキストにアクセスできます。「特定のプロジェクト」を担当するようなファイルは生成されません。Ulyssesそのものが巨大な文章保管庫なのです。
そのメリットは、「どこにも所属しないテキスト」が簡単に扱えることです。ちょっとした閃き、少しだけ書いてみた文章。こうしたものは、プロジェクト志向のScrivenerでは置き場所がありません。Ulyssesならとりあえず作成して、とりあえず保存しておけます。そのような「はぐれ者」が、企画を豊かにしていく可能性は少なからずあるでしょう。
しかし、その分、Ulyssesでは雑多な情報が目に入ることになります。すでに企画の概要がかたまり、あとはもう進めていくだけだ、という状態ではその情報量はむしろ邪魔になるかもしれません。それがデメリットになりえます。
構造化へのアプローチ
上記の違いに加えて、かなり大きな違いと言えるのが、「構造」の扱い方です。
Scrivenerの場合、情報を扱う単位には「フォルダ」と「テキスト」の二種類があります。そして、それぞれが簡単に下位の要素をくっつけられます。たとえば、ある「テキスト」を別の「テキスト」の下にドラッグすれば、それで階層構造が作れるのです。直感的であり、操作もラクチンです。
※「テキスト」同士で階層を作れる。
Ulyssesの場合、情報を扱う単位は「シート」と「グループ」の二種類となります。そして、その役割はしっかりと固定されています。シートはテキストを扱うもの、グループはシートを束ねるもの。そういう役割分担です。だから、シートの下にシートを位置づけることはできません。必ずグループの作成を経由することになります。
※「シート」だけでは階層は作れない。
たとえば、Aというグループがあり、その中に「い」「ろ」「は」というシートが収納されていたとしましょう。この「は」を、「い」の下に階層付けたいと思った場合、まず新しいグループを作成し、その下に「は」を移動しなければならないのです。Scrivenerに比べると、一つ余計なアクションが増えています。そして、それが厄介なのです。
たった一回だけの操作を見れば、ワンアクションに過ぎません。しかし、10や20を超える文章の断片から、3階層になる文章構造を築いていく場合はどうでしょうか。そのすべてにおいてワンアクションが付加されるのです。これはなかなかに苦痛です。
逆に言えば、それほど複雑な構造化処理を行わない場合であれば、Ulyssesでも問題はありません。また、Ulyssesはプレーンなテキストである、という点も環境によっては一つのメリットになるでしょう。
ツールのブリッジング
というわけで、私はゼロからテキストを書き上げていく段階では、Ulyssesを使っていました。
ざっくりと章にあたるグループだけを作っておき、そこにがんがんテキストを追加していくやり方です。iPhoneで少し口述して、その後Macで膨らませる、ということも、Ulyssesでは楽々行えます。
そうして原稿が一定量集まれば、次は「本」というアウトプットに向けた構造化が必要になります。
『セルパブ戦略』では、章・本文・コラムという構造を持たせてありますが、その作成についてはScrivenerで行いました。これはUlyssesでは少々厳しいところです。また、テキストファイルへのコンパイルで緻密な制御ができるのもScrivenerの良いところです。
以上のようなツールの橋渡しを経て、『セルパブ戦略』は完成しました。二つもツールを使うのは面倒そうですが、単に適材適所なだけとも言えます。
ちなみに、この手法が有用なのは、私が「後から構造を組み立てる」タイプだからです。逆に、「先に構造を組み立てる」人は、いきなりScrivenerでやってみる方法が有用かもしれません。
さいごに
結局の所、どちらのツールが優れているかは、結論が出せないでしょう。というよりも、どちらのツールも優れているのです。
自分の執筆のプロセスと、求められているアウトプットの形によって、「Scrivenerだけ」「Ulyssesだけ」「両方使う」から選択すればよいだけです。もちろん、両方使わないという選択もあります。
複雑な構造化や精緻なコンパイルを必要としないなら、Srivenerはなくてもよいでしょう。WorkFlowyで文章を管理しているなら、Ulyssesはおおよそ役割がカブることになります。単にクラウドで文章を管理したいだけなら、EvernoteやDropboxがありますし、Macの「メモ」だって、なかなか優秀です。
文章を書くためのツールが、「原稿用紙とペン」しかない時代に比べれば、現代は圧倒的に豊かな時代になっています。しかし、それぞれのツールの機能を見極めた上で、自分に合ったものを選択する必要性が生じているのは現代における課題の一つなのかもしれません。
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